番狂わせの起きにくい欧州のトップリーグ
「サッカーは球体を手よりも不自由な足を使ってプレーするから不確実なことが多く、番狂わせが多い。だから面白い」という通説を、久しく聞いていない。ワールドカップなどのインターナショナルマッチでは21世紀の今でもたまに耳にするが、少なくともシーズンごとにタイトルが争われるリーグ戦では、滅多に聞かない。
なぜなら、もうみんな知っているからだ。スポーツにおいても、経済力が物を言うことを。最も経済力のあるチームが、タイトルを勝ち取ることを。
順位を予想する時、予算の大きいチームを上から順に並べれば、大体は的中する。特に2強の絶対的な地位が揺るがないスペインは、その傾向が顕著だ。歴史と実績があるだけでなく、現在も最も経済力があるバルセロナとレアル・マドリードが毎シーズン、リーガの覇権争いを繰り返している。15年ほどさかのぼれば、バレンシア、デポルティーボ・ラ・コルーニャなどが優勝争いに加わっていたが、それは今ほど経済格差が大きくなかったからだ。2強の予算がライバルよりも5倍も、6倍も違う今となっては2強に対して1試合の好ゲームは期待できても、持久走であるリーグ戦での優勝争いは困難だ。2013-2014シーズンにアトレティコ・マドリードがリーガを制覇したが、それは数ある例外のひとつで、10年に1度起こるか、起こらないのかのミラクルだ。ちなみに、かのシーズンでは最終節に首位アトレティコ・マドリードと2位バルセロナの直接対決が行われた。結果は引き分けに終わり、リーガのタイトルは前者に転がった。もしバルセロナが勝っていれば、逆転優勝だった。それほどの接戦だった。
バルセロナの当時の予算は5億85万ユーロ(約603億円)で、アトレティコ・マドリードの予算は1億2000万ユーロ(約144億円)。約460億円の差は、ディエゴ・シメオネ監督の勝利にこだわったシビアな戦い方で埋められた。アトレティコ・マドリードは、オーガーナイズされたディフェンスと当時エースだったジエゴ・コスタの爆発力を軸にした攻撃で、タイトルを手にした。とは言っても、アトレティコ・マドリードもリーガでは3番目に予算が大きいチームだ。1800万ユーロ(約21億円)と最も予算が少ないラージョ・バジェカーノに比べれば7倍も大きい。経済の格差が大きいからこそ、スペインでは番狂わせはほとんど起こらない。最下位が首位に勝利するなんてことは、まず起こらないのだ。
高騰し続ける選手のサラリー
©Getty Images 3月11日付のスペイン紙『ラ・ボス・デ・ガリシア』は26節終了時点のあるデータを載せていた。それは今シーズンのリーガの各チームの予算に加え、トップチームの選手のサラリーの総額、そしてその数字から算出される勝ち点1ポイント当たりの単価だ。
たとえば、バルセロナがトップチームの選手たちに支払っているサラリーは4億1930万ユーロ(約506億円)になる。26節現在で獲得した勝ち点は60ポイントなので、1ポイントあたり約700万ユーロ(約8億4000万円)という計算だ。一方で乾貴士選手が所属するエイバルはトップチームのサラリーが2350万ユーロ(約28億円)で、勝ち点は39ポイント。1ポイントあたり、60万ユーロ(約7200万円)という計算になる。これは26節終了時点での計算であり、まだ12試合もリーグ戦は残っているので今後、各チームの1ポイントの価格は下がるだろう。ここで注目したいのは、バルセロナとエイバルの1ポイントに懸けている額は現時点で10倍も違うことだ。
また紙面からは、選手のサラリーがいかにクラブ経営を圧迫しているのかも読み取れる。バルセロナの予算は、6億9500万ユーロ(約838億円)になる。トップチームのサラリーの総額は4億1930万ユーロで、予算の約60パーセントに当たる。バルセロナが例外というわけではなく、大半のクラブはトップチームの人件費だけで予算の半分以上が占められている。
選手のサラリー、もしくは移籍金の高騰は今後も続くだろう。そのため、クラブはさらに予算を増やす必要に迫られており、より大きなスポンサーを探す。僕らの身近なところでは入場チケットの値がさらに上がるだろう。チャンピオンズリーグやリーガでのビックマッチなど現時点でも高価だが、近い将来、フットボールをスタジアムで観戦できるのは富裕層だけに限られることになるかもしれない。
フットボールが労働者階級のスポーツだという通説も今や昔だ。