戦力充実も当然? 平均年俸1億円が見えたソフトバンク
日本一に輝いたソフトバンクの今季の支配下選手68人の総年俸は、61億4600万円。平均年俸1億円というドリームチームの実現まで残り7億円弱に迫っています。一方、総年俸が最も低かった中日は約22億円といいますから、ソフトバンクとは実に2.8倍の差があることになります。
「ソフトバンクにはこのまま平均年俸1億を目指してほしいですね。こういうパワーがプロ野球を盛り上げる一つの要素になると思います」
自らもプロ野球団の社長を務めた経験がある横浜DeNAベイスターズ前球団社長の池田純氏は、戦力充実のために選手に莫大な年俸を払うソフトバンクの“パワー”をこう評価します。
NPBでは、MLBのように各球団のメジャー40人枠に入っている選手の総年俸に対する課徴金を指す「ラグジュアリー・タックス」などの戦力均衡のためのルールが定められていません。現にソフトバンクの孫正義オーナーは、先月行われた『オフィシャルスポンサー感謝の集い2017』にビデオ出演した際、自球団が金満球団と揶揄されることについてこんな発言を残しています。
「金満ソフトバンクと言われますが、球団の黒字経営の中から選手らに還元しています。金満うんぬんと言う人がいますが、言わせておけばいいんじゃないかと思います」
池田氏も「ソフトバンクは良い選手にお金をかけているだけではない」と、選手の獲得、育成などのプロセスにも注力していることが功を奏していると指摘します。
「ドラフト会議でも他の球団がすべての選手を指名し終わって会場から引き上げても、最後の最後までいるのがソフトバンクですからね。私たちも控室に戻っているのにまだ獲得しようとしている。一体、何人獲得するんだと思っていました。そうして獲得した選手たちに対しても3軍制だったり、素晴らしいファームの施設もあります。オーナーである孫さん自身が『そういうところになぜお金をかけないんだ』と言って始まったことだそうです。私も本当にそう思います」
「6年前には考えられなかった」総年俸最下位はあの球団
一方で、総年俸で最下位に沈んだ中日については、複雑な感情があると言います。
「6年前にベイスターズの社長になった時には考えられないことですよね」
池田氏が球団社長に就任したのが2011年12月。そのシーズンの中日、特に最終戦のイメージが頭から離れないと言います。
「そのシーズンの最後の試合、中日が横浜スタジアムで優勝を決めました。落合(博満)監督(当時)率いる中日はものすごく強かった。そのイメージもあって、次のシーズンに遠征に行ってもナゴヤドームにお客さんも入っていましたし、『ベイスターズが勝っていないチーム』という認識が強くありました。ブランコ選手など外国人選手も良い選手が多くて、そういう選手に2億、3億と払っていたので、総年俸も上位だったはずです。それが6年でこんなに変わるんだなと」
当時は総年俸ランキングで最下位の常連といえばベイスターズという時代が続いていました。
「(当時ベイスターズの総年俸額は)18、19億円くらいでしたね。日本人選手にも十分な金額が払えず、社長になった最初の年に、来季の去就も気になる村田修一選手が巨人に行って、その前には内川聖一選手がソフトバンクに……。本当に苦しい状態でしたね」
コスパ最高はやっぱり広島! 1勝当たりのコストは2729万円
(C)Kyodo News/Getty Images近年のソフトバンクの戦力の充実ぶり、中日の浮沈を見ていると、「お金をかけなければ勝てない。お金をかければ強くて当たり前」と言いたくもなりますが、お金をかければかけただけチームが強くなるとは限らないのもプロスポーツの面白さの一つです。
「1勝するのにかかった費用を計算すると、コストパフォーマンスという観点で球団を見ることができますよね」
池田氏が示したのは、選手年俸を勝利数で割った金額でした。
「1位は広島で、1勝するのにかかった金額は2729万円。2位が楽天で3041万円ですから、これはものすごく効率が良いですよね。優良企業です」
気になるソフトバンクは6505万円で12球団中10位。以下、巨人が6649万円、最下位ヤクルトは6806万円と続きます。総年俸が飛び抜けているソフトバンク以外はペナントレースの結果を見れば納得という順位になっています。
こうしてお金にまつわるデータを見ると、ソフトバンクの壮大なビックチーム構想も、広島のコスパ路線も、それぞれの球団の理念や現実が見えてきます。
「日本球界でもある程度ルールをつくって、戦力の均衡化を図るという考え方もあると思いますが、現状ではルールがそうなっていませんし、資本主義のもと、自由競争でそれぞれが特色を出していくというのも面白いですよね。ソフトバンクは球団経営だけではなく、企業イメージもまた野球によってつくられていくわけですからね」
「平均年俸1億円!」を目指しているかどうかは別の話ですが、「ホークスならもしかして」と期待させてくれるのもまた事実。今季の契約更改、来季はどんなチームが台頭し、年俸による戦力不均衡をひっくり返すのかにも注目です。
<了>
取材協力:文化放送
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