文=和田悟志

これまでの選考方法とその問題点

 オリンピックが開催されるごとに、大きな話題となるのが男女マラソンの日本代表の選考方法だ。それが大きく変わるという。2020年の東京五輪では新方式が採用されるという報道があった。

20年東京五輪男女マラソン選考について、日本陸連が19年秋以降の選考大会で男女各2人の代表を決める新方式を検討していることが29日、明らかになった。今夏から19年春までの指定大会を“予選”とし、基準のタイム、順位をクリアした選手が選考大会の出場権を得る、2段階選抜になる見込み。異なる複数大会の成績を比較する従来方式から大幅に変更し、選考の透明性を担保する。来月中旬をめどに臨時理事会を開き、正式決定する。
東京五輪からマラソン代表選考に新方式導入、2段階選抜に©共同通信

(写真=2016年1月31日、大阪国際女子マラソンを制し、優勝タイムの横で喜ぶ福士加代子)

 前回のリオデジャネイロ五輪は男女とも理事会ではすんなり決まったが、1月の大阪国際女子マラソンでは、福士加代子(ワコール)が日本陸連の派遣設定タイムを破って圧勝したにもかかわらず、即時内定をもらえなかったことが大きな波紋を呼んだ。

 そもそも、代表枠が「3人」にもかかわらず、これまでの選考方法は、五輪前年の世界選手権に加えて、男子は、福岡国際マラソン、東京マラソン、びわ湖毎日マラソン、女子は、さいたま国際マラソン、大阪国際女子マラソン、名古屋ウィメンズマラソンと、男女各4レースあったことが、度々騒動が起こった原因だった。世界選手権で入賞した日本人トップの選手には即時内定が出るが、その他は全レースを終えてから選考されるので、どんなに良い記録で走っても福士のように即内定とはならなかったのだ。

 また、世界選手権で即時内定者が出たとしても、夏場のレースのため平凡な記録のことが多く、その後の国内の選考レースで好記録が続出した場合、早期内定者を出したことの是非が議論となることが度々あった。

 マラソンは、気象やコース、レース展開など外的コンディションに記録が大きく左右される競技であり、3つの選考レースすべてが同じ条件下で開催されることなどはありえない。そのため、どんなに選考する側が総合的に判断して公平に選手を選んでいたとしても、それは選考委員の主観に左右されるので、不透明感は残っていた。

新しい選考方法と有力候補選手

 現在検討されているという新しい選考方法は、
①2019年秋以降に予定されている選考レースで男女各上位2人
②選考レース後の指定レースで、日本陸連が定めた記録を上回った男女各1人
と2段階式で決定されるというものだ。

 ①の選考レースに出場するには、2017年秋〜2019年春までの国内レースで、一定以上の順位と記録を出さなければならない。また、②の指定レースで設定記録を上回る選手がいなかった場合、①の選考レースの3位の選手が繰り上げになる。つまり、①の選考レースで決定する男女各2人に関しては、2レース以上で結果を出さなければならず、勝負強さや安定感が求められる。この方法では、川内優輝(埼玉県庁)のようにアベレージの高い選手が選ばれる可能性が高い。

 また、②で決まる男女各1人に関してはタイムが基準となるので、新星が選ばれる可能性もある。今年3月の名古屋ウィメンズマラソンでは、安藤友香(スズキ浜松AC)が初マラソン日本最高記録をたたき出し、今夏の世界選手権ロンドン大会の切符をつかんだが、安藤のような選手の台頭を期待してのことだろう。

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(写真=日本勢トップの総合2位となった安藤友香は、初マラソンのタイムとしては日本記録、歴代でも4位の好タイムでゴールした)

 いずれにせよ、選考過程がはっきりと明文化されることで、これまでの不透明感はなくなる。1988年のソウル五輪の男子マラソンの代表選考のような例外を認めなければだが、たとえ有力選手が漏れたとしても、選考に関して誰も文句は言えないのではないだろうか。

 ①の選考レースに出場するための基準(順位、記録)、また、②の方式の陸連設定タイムがどの程度になるかにもよるが、バランスの良い選考方法になるだろう、という意見は多い。

バランスの良い選考方法も課題は残る

 もちろん課題もある。

 ①の選考レースが2019年秋に開催されるとすると、同年10月開催予定の世界選手権ドーハ大会と時期が近すぎてしまう。東京五輪を目指す選手にとっては、世界選手権を軽視せざるをえない。仮に同大会の代表に選ばれたとしても、辞退者が続出するという事態になるかもしれない。時期を後ろにずらせば、②の指定レースと重なってしまうので、時期に関しては熟慮が必要だ。

 また、①の選考レースの出場資格を得るための指定レースが国内主要大会だけだとしたら、世界のトップ選手が出場するロンドンマラソンやベルリンマラソンなど海外メジャーレースに出場する日本人選手が減り、ますます日本長距離界のドメスティック化が進むおそれもある。

 ②の選考方法に関しても、記録の出やすい大会に有力選手が集中する可能性があり、国内主要大会の各主催者やスポンサーから不満が出るかもしれない。

 いずれにせよ、新選考方法は4月中旬以降の理事会で決定されるといい、詳報が待たれる。


和田悟志

1980年生まれ。大学在学中から箱根駅伝のテレビ中継に選手情報というポジションで携わる。その後、出版社勤務を経てフリーランスに。陸上競技やDOスポーツとしてのランニングを中心に取材・執筆をしている。