文=横井伸幸

スペイン1部の名称は、正しくは「リーガ・サンタンデール」

 スペインのプロサッカーリーグの正式名称は「リーガ・デ・フットボル・プロフェシオナル」、略してLFPである。

 そのうち1部リーグを日本では「リーガ・エスパニョーラ」と呼んでいるが、正しくは「リーガ・サンタンデール」。柴崎が所属するテネリフェが戦っている2部は「リーガ1, 2, 3」という。昨年夏LFPがサンタンデール銀行とスポンサー契約を交わし、名前を冠にしているからだ。(「リーガ1, 2, 3」はサンタンデール銀行の商品名から)

 ネーミングライツ販売という形でLFPが手を組んだ最初の相手はスペイン第2の銀行グループであるBBVA銀行だった。まずは06-07シーズン、2部リーグが「リーガBBVA」となり、08-07シーズンからは1部が「リーガBBVA」、2部がBBVA銀行のスローガンをとって「リーガ・アデランテ」となった。

 そのBBVA銀行が昨季いっぱいでのスポンサー降板を決めたため、LFPのテバス会長がリーガの国外展開を後押ししてくれる「国際的に認知された国内企業」を求めたところ、名乗り出たのがサンタンデール銀行だった。

 スペイン最大の銀行グループである同行は北部カンタブリア州のサンタンデールに本社を置くが、英国やドイツ、ポーランドを始めとするヨーロッパ諸国や中南米でも支社が業務を行っているため、条件にぴったり合う。加えて07年からスポーツの世界で積極的にスポンサー活動を行っており、企業イメージも良い。LFPにとっては申し分ない新パートナーだ。

「F1の場合、注ぎ込んだ1ユーロに対し5ユーロ分の効果があります」

©Getty Images

 一方で、サンタンデール銀行にとってのメリットはどこにあるのだろう。ポイントはくだんの07年に見直された同行のマーケティング戦略である。関係者によると、当時のサンタンデール銀行は証券市場トップクラスの時価総額と純利益を維持していたが、国際的な評判はそれに見合ったものではなかった。そこで07年にF1、翌年には南米のサッカーに関わるようになったという。

「F1も南米におけるサッカーも視聴者数が非常に多いので、楽しいひと時を過ごしている人々に当行の名前を届けることができます」

 スポンサーであることの効果は形になりにくいが、サンタンデール銀行のマーケティング担当は十分な感触を得ている。

「社名を知ってもらうという観点からすると有益な投資です。F1の場合、注ぎ込んだ1ユーロに対し5ユーロ分の効果があります」

 実際、07年からマクラーレン、10年からはフェラーリをも金銭的に支援してきたおかげで、英国内のサンタンデール銀行の知名度は10年前と較べて4倍強になったという調査結果がある。

 また南米では、最強のクラブを決める大会の名称が08年から12年まで「コパ・サンタンデール・リベルタドーレス」だったおかげで、8割近い人がいまでもサンタンデール銀行の名をリベルタドーレス杯としっかり紐付けた上で認識している。ちなみにリベルタドーレス杯は中南米10カ国のクラブが出場し、1シーズン延べ11億人が視聴するといわれている。

 そしてスペインのSPSGコンサルティング社が国内で行った調査を元に発表した16年のサッカー・スポンサー認識指数ランキングを見ると、サンタンデール銀行は4位に入っている。順位こそカタール航空、エミレーツ航空、オンラインブックメーカーのBwin(リーガの様々なクラブのスポンサー)に及ばなかったが、「リーガ・サンタンデール」のおかげで、唯一無二の前年比16ポイント増。「スポーツを愛する企業」として広く認められ始めたのだ。

 サンタンデール銀行がLFPに払っているスポンサー料は明らかにされておらず、BBVA銀行の年間2600万ユーロ(約31億円)以下ということしかわかっていないが、高額なのは間違いない。それでもサンタンデール銀行の副社長は「(このスポンサー契約の)利益性は非常に高い」と考えている。


横井伸幸

1969年愛知県生まれ。大学卒業後たまたま訪れたバルセロナに縁ができ、01年再び渡西。現地の企業で2年を過ごした後フリーランスとなった。現在は東京をベースに活動中。記事執筆の他、スポーツ番組の字幕監修や翻訳も手がける。