文=渡辺史敏

スポーツ中継のコンテンツ力を象徴するNFL番組の人気

 NFLの人気を語る上で外せないのがテレビだ。NFLは独占放映権の確立やインスタントリプレーの導入などテレビ業界と手を携える形で成長してきた経緯があり、そのテレビ中継はアメリカ・テレビ業界において圧倒的ともいえる人気コンテンツの座を確立している。

 例えば、調査会社ニールセンが発表した2016年の放送別視聴者数トップ50において、1億1190万人を記録して第1位となった第50回スーパーボウルを筆頭に、実に50中27をNFLテレビ中継が占めた。さらに昨年9月に始まった2016−2017テレビシーズンにおいて最も視聴された番組シリーズに輝いたのは、NBCが全米放送を行った日曜夜開催ゲーム、サンデーナイトフットボールだった。同番組は6年連続で首位をキープし続けている。

 ちなみに今回のトップ50では、ドラマやバラエティなどスクリプテッド・プログラム(脚本のある番組)は1つも入らなかった。さらにアカデミー賞やグラミー賞など非スポーツ番組は6つだけで、残る44はすべてスポーツ中継だったのである。このことからもレコーダーなどによる録画視聴、いわゆるタイムシフト視聴が浸透するなか、生で観るコンテンツとしてスポーツ中継の重要性が高まっていることが認識できるのではないだろうか。

 とはいえ、NFLテレビ中継の人気も必ずしも安泰とはいえない。まずトップ50に占めた数だが、2015年の37より10も減っている。これは昨年リオ五輪が開催され同テレビ中継が11もランクインしたことが大きな要因となったようだ。

 ただそれ以上に深刻に受け止められたのが、9月のシーズン開幕当初から、前年より視聴率を下げた中継が続出したことである。放送枠によっては前年比で15%も数字が落ちた中継もあったほどだ。サンデーナイトフットボールにしても、平均視聴者数は2015年が2250万人だったのに対し、2016年は2030万人と10%も減っている。

ファンの不満に対し、すぐさまコンテンツの価値の維持・向上に動く

©Getty Images

 この事態に放送・広告業界も騒然となり、原因究明の議論が活発にされることとなった。人種差別問題から一部選手が試合前の国歌斉唱で起立を拒否する抗議活動を行ったことでイメージが低下した、試合時間が長すぎる、安全を追求しすぎてルールが厳しくなってつまらなくなったなど、様々な声が出たのである。

 ただ、最も大きな原因は意外なところにあったことが後に判明する。それは大統領選挙だ。

 昨年の選挙は史上最も醜い大統領選などと揶揄されたが、それだけに人々の関心は高かったのだ。実際、前述のトップ50で2から4位を占めたのは大統領候補の討論会中継である。その証拠に、大統領選挙が終わるとNFLテレビ中継は視聴者数、視聴率とも昨年並みに回復し、皆胸をなで下ろすこととなった。

 とはいえ、それまでに受けた影響は大きく、NFLレギュラーシーズン中継全体の平均視聴者数は2015年の1790万人から1650万人へと8%もダウンした。

 一方、こうした混乱にもかかわらず、中継で流された広告の販売は好調で、全米向けの売り上げは2015年の32億ドルから2016年は34億ドルに伸びたと見られている。さらに調査会社IEGリサーチによれば、公式スポンサー企業がNFLと所属32チームに支払ったスポンサー料の総額は2015年の12億ドルから4.3%増の12億5000万ドルに達した模様だ。

 これは、視聴者数が多少下がったとしてもその人気はスバ抜けており、コンテンツとしての価値は維持されていると判断がされたためであろう。

 また、低迷の最大の原因が大統領選挙と明らかになったものの、原因究明の過程でファンの持つ不満があぶり出された点は見逃せない。このことをリーグも真剣に捉えているようで、3月に行われたオーナー会議の直前には、ロジャー・グッデル・コミッショナーがファンへのメールという形で、ルール変更やCMの放送法の変更、試合時間の短縮に取り組む提言を発表した。

 外的要因があったとはいえ、ファンの不満が顕在化した時には、すぐさまコンテンツの価値を維持、向上させようとするこの姿勢には学ぶ点があるのではないだろうか。


渡辺史敏

兵庫県生まれ。ジャーナリスト兼NFLジャパン リエゾン オフィスPRディレクター。1995年から2014年3月までニューヨークを拠点にアメリカンフットボールやサッカーなどスポーツと、さらにインターネット、TV、コンピュータなどITという2つの分野で取材・執筆活動を行う。2014年4月に帰国、現職に。『アメリカンフットボール・マガジン』『日刊スポーツ電子版連載コラム:アメリカンリポート』『Sports Graphic Number』などで執筆中。