新オーナーの下、名門復活は実現するか
2017年4月13日、ひとつの時代が終わった。中国人の実業家ヨンホン・リーを筆頭とする投資グループがミランを買収。1986年から31年続いたシルヴィオ・ベルルスコーニ体制に幕が下ろされた。新たに生まれ変わったミランには、何を期待できるのだろうか。
ミランの買収が合意に達したのは昨年夏。だが、以前からの経営難で一族内からの突き上げもあり、ベルルスコーニはすでに手放す覚悟を決めていた。結果的に破談したが、2015年夏にもタイの実業家と一度は合意している。
世界的なブランド力を持つ名門クラブが売りに出されれば、当然、投資家の興味を引く。特に、近年のミランは低迷が続いている。復活させられれば、市場価値のV字回復、すなわち利益につなげることが可能だ。
なかでも、中国における注目度は高かった。ミランが人気クラブだからだ。それを示すのが、『ガゼッタ・デッロ・スポルト』が報じた、上海を拠点とするコンサルタント会社「Mailman」によるリサーチ。ウェイボーなど中国のSNSにおける影響力の指標「Red Card2017」で、ミランはマンチェスター・ユナイテッド、バイエルン・ミュンヘン、アーセナル、リヴァプール、マンチェスター・シティ、レアル・マドリーに続く7位。イタリアでは、ユヴェントス(14位)やインテル(15位)を引き離してのトップだ。
実際、インテルを買収した蘇寧グループも、当初はミランの買収を狙ったようだ。だが、ベルルスコーニが現実的な市場価値を上回る金額を求めたことで撤退したとみられる。その額を払ってでもミランを手に入れようとしたのが、ヨンホン・リーが主導する投資グループだった。
中国でも知名度がなかったヨンホン・リーだけに、当初から買収実現を疑う声は少なくなかった。実際、1億ユーロ(約116億円)の手付金を支払って以降も、2度にわたって残金を払えずに取引完了を延期。3月には一部の投資家が撤退したほどだった。
最終的には、アメリカのヘッジファンドからの融資で買収は実現した。だが、クラブ経営の経験が不足するヨンホン・リーらに対する懐疑的な見方は消えていない。何より、買収資金のねん出に苦労していた彼らに、ベルルスコーニが売却条件とした補強資金を用意できるかは疑わしい。
アジア市場向けの「顔」とも報じられた本田圭佑の去就は?
©Getty Images だが、その補強こそ、サポーターが新体制に最も期待していることだ。経営健全化やスタジアム問題の解決など課題は多岐にわたるが、ファンが一番に願うのは「名門復活」だからである。
そしてそれは、経営陣にとっても同じだ。トップクラブの地位を取り戻さなければ、収益アップは望むべくもなく、買収した意味がない。マルコ・ファッソーネCEOも最初の会見で、チャンピオンズリーグ復帰が必要と強調した。2018-19シーズンから、イタリアは4チームが同大会に出場可能。来季のセリエAで4位以内に入ることが必要不可欠だ。
そのためには、チームの強化が欠かせない。まずは、守護神ジャンルイジ・ドンナルンマをはじめ、マッティア・デ・シリオやスソといった主力との契約延長が求められる。
同時に必要なのが、近年のミランになかった情熱を取り戻させるような華のある補強だ。ファッソーネCEOとマッシミリアーノ・ミラベッリ新SDには、現有戦力の売却益を除き、1億ユーロの補強資金が用意されていると言われる。
イタリアメディアが報じるターゲットリストにも、アルバロ・モラタやカリム・ベンゼマ(レアル・マドリー)、ピエール=エメリク・オーバメヤン(ボルシア・ドルトムント)、セスク・ファブレガス(チェルシー)、ダニエレ・デ・ロッシ(ローマ)とビッグネームがずらりと並ぶ。
来季のCL出場が絶望的なミランが、これだけの大型補強を実現できるのか、新首脳陣の手腕が問われる。確かなのは、アドリアーノ・ガッリアーニ前CEOが不本意ながら得意とした「ゼロ円補強」に頼ることはもう許されないということだ。
その「ゼロ円補強」でミランに加わった本田圭佑は、今季で契約が満了する。当初は、アジア市場向けの「顔」として契約が延長される可能性も報じられた。だが前述のように、新経営陣は本田以上の知名度を持つワールドクラスを狙っている。
また、今季の本田はここまでリーグ戦出場5試合と、完全にヴィンチェンツォ・モンテッラ監督の構想外となっている。新体制は指揮官の続投を強調しており、契約満了とともに背番号10に別れを告げる方針は変わらないだろう。
インテルを買収した蘇寧グループは昨夏、ジョアン・マリオやガブリエウ・バルボサの獲得に大金を投じた。それでも、セリエAで現在7位と苦戦している。それだけ大型補強はハイリスクなのだ。
もちろん、収支を度外視することはできないが、それでもミランは「本気度」を示さなければならない。それが、新たな時代を築く第一歩となる。