文=松原孝臣

代表決定戦となる「マラソングランドチャンピオンレース」を新設

 オリンピックにいけるマラソン代表選考方針が発表になった。2019年9月以降に、代表選考のための「マラソングランドチャンピオンレース」を開催。このレースで男女各3名の代表のうち2名が決定。残る1名は、2019年冬から2020年春の国内3大会の結果から選ぶという。

 また、マラソングランドチャンピオンレースに出場するには、2017、2018年度の国内主要大会で定められた記録と順位をクリアした選手および海外の大会で一定以上の記録を残す必要がある。簡潔にまとめれば、一発選考で2名が選ばれ、残り1名は選考によって選ばれることになる。

 代表選考を変える目的は2つある。1つは代表の強化とオリンピックで結果を残すことだ。2000年のシドニー五輪で高橋尚子、2004年のアテネ五輪で野口みずきが金メダルを獲得したものの、2008年以降は入賞がなくなった女子。過去3大会では2012年のロンドン五輪で中本健太郎が8位になったのが唯一の入賞である男子。男女ともに結果を残せずにいるが、その検証において代表選考のあり方も取り沙汰されてきた。

 マラソンのオリンピック代表選考は、指定された国内の3大会およびオリンピック前年の世界選手権が代表選考対象であった。男女の出場枠はそれぞれ3だから、枠より大会が多い。そのため、各大会で好成績を残した選手の中から、結果はむろんのこと、レース内容などを吟味し、選考する方法が取られてきた。だが、結果が残せない中、本当にその判断が正しかったのか、疑問視されることも少なくなかった。

 では、選考方法の変更は強化や結果につながるだろうか。今回の方式を採用することでオリンピックの3年前から代表選考が始まる。それによってオリンピックを早い段階から意識する効果が考えられる。練習などの取り組みも変わるだろう。

 また、選考レースは、おそらくはより本番に近い季節に実施されると予想される。東京五輪は酷暑でのレースが考えられるだけに、それに近いコンディションのもとで行なうことで、暑さへの適性も分かる。

大会後に陸上チーム関係者から聞かれたある言葉

©Getty Images

 代表選考を変えるもう一つの目的は、選考方法の透明化だ。以前、ある選手の所属するチームの関係者から、大会後に聞かれたことがある。

「陸連(日本陸上競技連盟)の人たち、どんな風に言っていました?」

 優勝しても、好記録を残しても、そのまま代表に選ばれるか分からないから、どう評価されているのか、部外者に聞いてでも、感触を探りたくなる。それは代表選考に対して不安を抱いていることをまざまざと示していた。実際、世界選手権代表選考においては、国内3大会で唯一の優勝選手がレース内容を理由に代表に選ばれず、波紋を投げかけたこともある。選考が主観ではなく客観となることは、現場からは大いに歓迎されるだろう。

 むろん、デメリットも考えられる。2019年の世界選手権に一線級は出場しないであろうから、貴重な国際舞台の経験の場を逃すこと、選考レースの出場権を得るために、「予選」となる2017、2018年度の大会では、手堅いレースに終始しかねないところだ。

 それでも選考が明確化し、選手が目標をはっきり見据えることができること、2枠が一発選考となり、強い選手が見えるメリットが上回る。そういう意味でも、常に議論となってきたマラソンの代表選考の、思い切った改革と言えるだろう。


松原孝臣

1967年、東京都生まれ。大学を卒業後、出版社勤務を経て『Sports Graphic Number』の編集に10年携わりフリーに。スポーツでは五輪競技を中心に取材活動を続け、夏季は2004年アテネ、2008年北京、2012年ロンドン、2016年リオ、冬季は2002年ソルトレイクシティ、2006年トリノ、 2010年バンクーバー、2014年ソチと現地で取材にあたる。