文=土地将靖

最強の矛vsほぼ最弱の盾

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 J2時代の“埼玉ダービー”(大宮と浦和が合併前だったため、埼玉県のダービーだった)を含め、27度目の対戦となるさいたまダービー。だが、過去の26度を振り返ってみても、今回ほどの格差がついた状況下での対戦はなかったのではないだろうか。

 そもそも、首位対最下位というシチュエーションが初めてである。そこへもってきて、大宮は今シーズン公式戦で未だ勝利がない。第8節を終了した時点で1分け7敗、2得点17失点という惨憺たる状況だ。

 一方の浦和は、開幕戦こそ敗れたものの、その後は無敗で首位を驀進中だ。特に、8試合24得点の攻撃力は圧倒的ですらある。大宮と日程がずれていたため、第6節の仙台戦を直接観戦することができたが、仙台の守備陣がなすすべなく失点を重ねていくのを目にして、思わず感嘆の声を上げたと同時に、“この攻撃陣を大宮が抑えることができるのだろうか”と考えてしまった。その翌々節に起こったのが、市立吹田スタジアムでの6失点である。リーグで最強の矛と、失点数が仙台に次いで2番目に多い、ほぼ最弱の盾が相見える、と言っても言い過ぎではないだろう。

 ACLとのターンオーバーも分厚い選手層で難なくこなし、8年ぶりの決勝トーナメント進出も果たした浦和に対し、今シーズンのベストな布陣を模索しつつも、怪我人の多さもあってまだ見つけ出せていない大宮との差は歴然。さいたまダービー史上、これ以上ない劣勢に置かれた中で、シーズン最初の勝利を目指して戦うのだ。特に浦和サポーターの皆さんは「試合などせずとも結果は見えている」と言うことだろう。

今シーズンを懸けた大一番

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 過去、事あるごとにさいたまダービーに関する原稿を書かせていただいてきた。その中で常々書いてきたことは、「ダービーはきっかけになる」ということ。その時の順位やチーム状況などといった背景を超え、ただ目の前の敵が浦和であるからというその一点を理由に、信じられないほどの力を見せる。そんな試合は何度もあった。アカデミーから大宮一筋、今年15年目のシーズンとなる渡部大輔は、「まだ(今季)1勝もしていない中で、浦和に勝つということは正直なかなかイメージがつかない」と前置きしながらも、「ダービーということで、より一層気合を入れて臨めると思う。気持ちを見せた試合になると思うので、そこは見てほしい」と意気込んでいる。チーム戦術や戦力、個の能力といったものを超越した戦いが見られるのもダービーだからこそ。そうした点に期待したいというか、そういうところにしか拠り所を見出せない厳しい現状である。

 光明がないわけではない。直近のルヴァン杯のグループステージ、札幌戦では、リーグ開幕2試合に出場して以降、負傷で戦列を離れていた瀬川祐輔が復帰し、自らのゴールで勝ち点1をもぎ取った。「怪我で戦列を離れている中で、ダービーに照準を合わせてやってきた。ちょっと違った雰囲気の中でやれるとのは、僕自身すごく燃える性格なので楽しみ」と、その目はすでに次の一戦に向かっている。特に、構成が定まらない攻撃陣に置いて、フレッシュな戦力の台頭は大きな期待の1つだ。

 指揮官も、ビッグマッチをきっかけとする反転攻勢に期待せざるを得ない。「首位の浦和に勝てれば絶対に上に行ける。リーグ戦34分の1というよりは、今シーズンの今後をこの一戦に懸ける、そういう思いを持って臨みたい」と熱く語った渋谷監督も、ダービーならではの選手の奮起に思いを寄せる。もし負ければ、前任者のようにチームを去る、そんなきっかけにダービーがなってしまう可能性すらある。クラブとしても、そうした事態だけは絶対に避けたいという思いは強いはずだ。

「この試合、戦場だと思って戦いに行きたい」(渋谷監督)。浦和との温度差は大きなものがありそうだが、その中でそれだけのものを見せられるのか。熱い戦い、これ以上のないバトルを期待したい。


土地将靖

埼玉県浦和市(現さいたま市)出身。93年、試合速報テレホンサービス「J's Goal」のレポーター兼ライターとして業界入り。01年にフリー転身、05年以降は大宮の全公式戦を直接取材し専門誌やweb媒体へ寄稿。ラジオでのコメンテーターとしても活動中。