文=杉園昌之

新戦力がフィットした赤い悪魔

©Getty Images

 リーグ戦5連勝。8試合で24ゴール。

 首位を快走する浦和レッズの勢いは増すばかりだ。ACL(AFCチャンピオンズリーグ)との二足のわらじを履きながら、2節から8戦負けなし。ACL(AFCチャンピオンズリーグ)のウエスタン・シドニー戦(○6-1)から中3日で敵地のNACK5スタジアム大宮へ乗り込むが、連戦の疲労は大きな不安要素にはならないだろう。

 4月第3週のタフな戦いぶりは記憶に新しい。4月11日、ACLの上海上港戦で雨中の激戦を1-0で制し、中4日で迎えた16日のFC東京戦。疲労の色は見えたものの、しぶとく守り、カウンターで1点をもぎ取って勝利を収めた。ボールを支配する攻撃サッカーに一家言持つペトロヴィッチ監督は理想から遠い内容でも「今季、われわれは結果を求めている」と言葉に力を込めていた。持ち味を発揮できないときも、今の浦和には勝ち点3を手繰り寄せる強さがある。

 好調のチームをけん引するのは、爆発的な得点力を誇るFWコンビ。ラファエル・シルバと興梠慎三の2人で、13ゴール(リーグ戦)を叩き出す。今季、加入したばかりのブラジル人はスムーズにフィットしており、カウンターで裏へ抜け出す速さと巧みなパス出しは目を見張る。ラファエル・シルバが「興梠は良い動きをしている」と言えば、興梠も「ラファからはいいパスが来る」と満足そうな笑みを浮かべる。連係は試合を重ねるたびに深まっている。「さいたまダービー」でも、新ホットラインがカギとなる。

 浦和の前線ユニットは「1トップ+2シャドー」の構成。今季はラファエル・シルバと興梠ばかりが注目されているが、「3人目の男」も負けてはいない。2人の影に隠れながら、シャドーの武藤雄樹はすでにリーグ戦3ゴール。特別な一戦に向け、静かに闘志を燃やす。
「普通の1試合ではない。サポーターの負けたくない気持ちが伝わってくるので、その思いに応えないと。昨季はダービーで1点取ったけど、その試合は引き分け(2-2)だった。今季は勝ちにつながるゴールを決めたい」

 歴代のエースが背負ってきた9番の重みも十分に理解する。「番号に恥じない結果を残す」と常々から自分に言い聞かせており、プライドを懸けて戦う舞台で活躍を誓う。

ダービーを盛り上げるアカデミー出身の24番

©Getty Images

 アカデミー出身の関根貴大も「さいたま決戦」に並々ならぬ思いを抱く。浦和ジュニアユース、ユース時代から大宮としのぎを削り、ライバル意識を強く持つ。

「ダービーは内容どうこうではないから。絶対に勝たないといけない」

 生え抜きに懸かる期待もひしひしと感じている。NACK5スタジアム大宮でのダービーでは、忘れられない試合がある。

 2011年6月11日。浦和のアカデミーで育った原口元気(現ヘルタ・ベルリン=ドイツ)がゴールを決めたゲームは「すごく覚えている」と熱っぽく話す。

 1点を追う後半、ペナルティーエリア内で倒さながらもボールに食らいつき、気迫のスライディングシュートでネットを揺らした。

「まさにあれですよね、あれ。やっぱり、アカデミー育ちの選手が気持ちのこもったプレーをしないといけない」

 憧れの先輩から背番号24を引き継ぎ、いまも教えを請う間柄。生え抜きとしてレギュラー争いに「負けるなよ」とはっぱをかけられ、「勝負どころで点を取れる選手になれ」と助言を受け続けている。8節の札幌戦で勝ち越しゴールを挙げ、今季リーグ戦で初得点。ここまで4アシストとアウトサイドの役割は果たしてきたが、本人は「ゴールも欲しかった」とどん欲だ。当然、次節でも狙っている。2014年にトップ昇格してから、いまだダービーでの得点はなし。

「気合いの入ったゴールを決めないとね」

 あどけなさの残る顔が、きりっと引き締まった。一戦の重要性が理解しているからこそ、言葉にも気迫がにじむ。

 6年前のダービーで原口のゴールに影響を受けたアカデミーの後輩が、大宮戦で奮い立つ--。

「ダービー熱」はこうして継承されていく。

 あの年、あの決戦前に原口は3年先まで契約を延長し、「ゼロ円移籍」をしないことを明言。昨今、契約更新を拒み、違約金なし(契約満了)で海外移籍へ踏み切る選手がいるなか、クラブ愛を持つ原口は近い将来、欧州移籍する場合は浦和に移籍金を残していくことをはっきり口にした。その直後のダービーで、敵地のスタンドに大きな横断幕が掲げられた。

「若いレッズはお前の背中を見て育つ。ありがとう、原口元気」

 先輩を追いかけ、手本にしてきた「若いレッズ」のドリブラーは順調に成長。167センチの小さな体には、熱く戦う「浦和魂」が宿る。

 スピリットを受け継ぐ24番が、「さいたまダービー」を熱くする。


杉園昌之

1977年生まれ。ベースボール・マガジン社の『週刊サッカーマガジン』『サッカークリニック』『ワールドサッカーマガジン』の編集記者として、幅広くサッカーを取材。その後、時事通信社の運動記者としてサッカー、野球、ラグビー、ボクシングなど、多くの競技を取材した。現在はフリーランス。