文=日比野恭三

「申し合わせ事項」とも表現される

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 プロ野球には、さまざまなルールがある。グラウンド上のプレーをめぐるルールはもちろんのこと、日本野球機構(NPB)や12球団が円滑に球界を動かしていくための決まりも細かく定められ、明文化されている。

 なかでも日本球界の“憲法”とされるのが「日本プロフェッショナル野球協約」だ。インターネット上で公開されており、誰でも読むことができる。競技上の基本的なルールが記されているのは「公認野球規則」。こちらはプロ・アマで統一された内容となっており、書籍として一般販売もされている。

 この両者の中間的な位置づけにあるといえるのが、セ・パ各リーグが定める「アグリーメント」である。

 これは「申し合わせ事項」ともしばしば表現されるが、野球協約や公認規則をより現実的に解釈し、所属球団の共通見解としてまとめられたものということができる。球団間で認識の相違が生まれることで球団運営や試合の進行が滞ることを避ける、“緩衝材”的な役割があると考えられる。

 たとえば、「飛ばない」「今度は飛びすぎる」と一時期話題をさらった統一球の問題。反発係数の基準値は両リーグのアグリーメントに記載されている、らしい。適用のあり方に関する議論が続いているコリジョンルールについても、判定や罰則についての詳細が両リーグのアグリーメントに明記されている、らしい。

 らしい、らしい、とあえて重ねて書いたのは、それが一般には公開されておらず、現物を見て確認することができないからだ。

 NPBに電話をかけ、「フリーのライターだが、なんとかアグリーメントを手に入れる術はないか」と確認したところ、次のような回答だった。

「各球団関係者とマスコミ(記者クラブ加盟社)に配布しているので、そういったところを通して確認してください、としかいえない。(非公開にしている理由は?)特にありません」

ファンを置き去りにしかねない

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 80年以上の歴史を重ねてなお、メジャーリーグの影響なども受けつつプロ野球のルールはいまだに少しずつ改訂されている。先に触れたコリジョンルールは象徴的な事例だが、新たに導入されたルールについてはときに判定基準があいまいで、ファンを戸惑わせることも少なからずある。

 そうした時、プロ野球を楽しむ立場である一般のファンに、参照すべきルール(申し合わせ)が一切公開されていないという状況は、はたして正しいのだろうか。

 球界を揺るがす“申し合わせ違反”や試合中に解釈の難しい微妙な判定が起きた時、密室で関係者だけが納得し、グラウンド上では審判と選手・監督だけが納得し、記者席ではアグリーメントの冊子を手にした報道陣だけが納得する。客席やテレビの前のファンは置き去りで、どういう申し合わせに基づいてことが決着したのか、どういう理由でいまの判定がなされたのかわからないままにものごとが進んでいく――。そんなことが繰り返されるようでは、せっかく野球に興味をもち始めたライトなファンも、「ルールが難しい」「よくわからない」といって離れていってしまいかねないだろう。

 どの分野においても情報公開や透明化が重視される時代に、ファンによって成り立つプロ野球界がアグリーメントを非公開としていることには疑問を抱かざるをえない。

 印刷物として一定数の関係者に配布されている以上、本当に秘匿すべき情報はそこには書かれていないのだろう。仮に一般常識に照らして批判の対象となるようなことが記載されていたとして、それは白日のもとにさらし、批判を受けたうえで是正すればいいだけのことだ。

 そうしたプロセスを経てこそ、ファンも納得する、ファンに愛されるプロ野球がつくられていくのではないだろうか?

日比野恭三

著者プロフィール 日比野恭三

1981年、宮崎県生まれ。PR代理店勤務などを経て、2010年から6年間『Sports Graphic Number』編集部に所属。現在はフリーランスのライター・編集者として、野球やボクシングを中心とした各種競技、またスポーツビジネスを取材対象に活動中。