文=川端暁彦

名波浩も絶賛するストライカー

 5月20日に韓国各地で開幕を迎えたU-20ワールドカップ。20歳以下の世界最強国を決定する戦いにおいて、日本では15歳のFW久保建英(FC東京)に大きな注目が集まっている。確かに久保は観ていて面白いタレントだし、これからも楽しみな選手には違いない。ただ、せっかく10年ぶりに出場を果たした世界舞台で、久保“だけ”にしか注目しないのは「もったいない」と言うほかない。

 日本でまず注目したいのはFW陣だろう。このチームでも着実にゴールという結果を残してきた小川航基(磐田)はチームのエースであり、進境著しいものもある期待株だ。桐光学園高校から昨季鳴り物入りで磐田入りしたが、名波浩監督はあえて厳しく対応し、なかなか出場機会を与えなかった。

「高校を出て、すぐに試合へ出て2、3点取って、そこから消えていった選手を何百人と見て来ている。甘えた状況でピッチに送り出すことは、僕の中では避けたかった」(名波監督)

 突き付けたのは数多くの課題。中でもゴール前で待っているだけのことが多かった小川に「ボールを収めて、人を使いながらゴール前に消えていく」ことを強く要求してきた。結果、「シュートのこぼれ球への反応とか、ボックス内で止まらない意識というものも非常に強く生まれていると思う」と指揮官が指摘したように、“先に触る”というストライカーとして絶対的に求められる力がより強化された。南アフリカ戦の同点ゴールは、ボックス内で動きを止めなかったことによる結果だ。前半は2度の決定機を逸しているため印象は少々悪いのだが、クロスに対してフリーになって放ったヘディングのシーンなどは、小川の成長を物語るものでもあった。

「今後日本の宝になるであろう、日本を背負って立つストライカーになるであろう、そういう位置付けで育てなきゃいけないという使命感もあった。軽はずみなタイミングでは使わないと本人にも伝えてありました。来たるべきときが来た、いまそういう状況だと思います」(名波監督)

 これまで親しいメディア関係者に聞かれても、あえて「小川? まだまだだよ」と突き放した言葉を使ってきた指揮官が、この大会を前にして磐田でも結果を残し始めた愛弟子に最大級の賛辞を贈って世界舞台へと送り出した。豊富な国際経験を持つ名波監督にも、このストライカーが活躍して帰ってくるイメージが見えたということだろう。初戦の出来は決して良いと言えないものだったが、しかし本人が以前「どうしてなのか分からないけれど、いつも遠征の初戦は(出来が)悪い」と語っていたように、かなり“尻上がり系”の選手であることも確か。次戦以降に期待を込めるのは、そう的外れではないだろう。

 前線で小川の相方を務める岩崎悠人(京都)も要注目のタレントだ。年齢的には小川の一つ下、今季からJリーグ入りを果たしたルーキーだが、京都では開幕早々から出場機会をつかんでレギュラーに定着。持久力(スタミナ)と瞬発力(スピード)を兼ね備える日本人では珍しいタイプの筋力の持ち主で、前線から激しいプレッシングをかけつつ、ボールを奪えば快足を飛ばして裏を狙うプレーでチームのけん引役となる。経験不足の部分があって駆け引きなどはまだまだ駆け引きの甘さもあるが、京都の布部陽功監督が指導しながら感嘆したと言う「吸収力」というもう一つの個性を思えば、この大会を通じてのさらなる成長も期待できるだろう。

 中盤以下ではMF堂安律(G大阪)も外せない。元より高く評価されていた高精度の左足や勝負強さに加えて、G大阪で長谷川健太監督の厳しい薫陶を受けてきた成果で、運動量などのハードワークの部分も向上。第1戦は劇的な決勝点にばかりフォーカスが集まっていたが、守備面での貢献も目覚ましいものがあった。

 堂安もそうで、MF三好康児(川崎F)などもそうだが、ここに来てJリーグで出場機会をつかみ、あるいは増やすことで成長してきた選手が多いのもこのチームの強みだ。DF中山雄太(柏)、冨安健洋(福岡)といった以前から経験を積んでいた選手に加え、DF板倉滉(川崎F)、MF原輝綺(新潟)といった選手もクラブで大きな進歩を見せ、自信をつかんだ上で大会に臨んでいる。Jリーグでの成果が大会に繋がるという流れは、Jリーグにとっても大きなフィードバックを受けられることを意味している。彼らの通用した部分、通用しなかった部分はそれぞれのクラブにとって、「育成のものさし」となることだろう。

日本の対戦国にもいる、世界的スターの卵

©Getty Images

 そしてそもそも日本“だけ”にしか注目しないのが「もったいない」大会でもある。日本の入ったD組は現地・韓国のメディアからも「死の組」という評価を受ける激戦ブロック。第2戦で当たるウルグアイ、第3戦で当たるイタリアにはそれぞれ大きな注目を集めるタレントがおり、まだ無名ながらキラリと光る逸材もいる。彼らの存在を知っておけば、より試合を楽しめるというものだ。

 第2戦のウルグアイからして、注目株が目白押し。ブラジル、アルゼンチンの2大国をおさえて南米を制した実力はホンモノだ。最大の注目を集めるのは大会後にユベントス入りすることが決まっているMFロドリゴ・ベンタンクール(ボカ)。185cmの長身ながら抜群の柔らかさがあって、正確なキックで攻撃を作るセンスあふれるセントラルMF。いわゆる“上手い系”でありながら球際の“デュエル”でも強さを見せるウルグアイらしい好選手だ。

 ボールも扱えて統率力もあってファイターでもあるDFサンティアゴ・ブエノ(バルセロナ)、巧みにボールを散らしながら潰し屋としても絶対的な存在感を見せるMFフェデリコ・バルベルデ(レアル・マドリード)、前線で攻撃の起点となりながら常にゴールを意識したプレーでスキを突いてくる飛び級招集のFWニコラス・スキアッパカッセ(アトレティコ・マドリード)といったすでに欧州へ進出している選手たちも当然注目。右サイドから神出鬼没の動き出しで常に危険なプレーを見せるMFディエゴ・デラクルス(リーベルプール・モンテビデオ)も怖さ十分。どうやって抑えればいいのか困ってしまう逸材揃いだが、それだけに日本の選手たちにとって得難い経験値を積める相手なのも間違いない。

 第3戦の相手、イタリアも面白い。同世代最高のGKと目されるジャンルイジ・ドンナルンマ(ミラン)は不参加となったが、代わりに出場したアンドレア・ザッカーニョ(プロ・ヴェルチェッリ)が第1戦でハイレベルなパフォーマンスを見せ付けて、GK大国イタリアの層の厚みを実感させてくれた。伝統の守備は組織力、個の守備力ともにさすがのレベルだが、ロランド・マンドラゴラ(ユベントス)、ニコラ・バレッラ(カリアリ)、そしてマッテオ・ペッシーナ(コモ)が形成する中盤中央のトライアングルが見せる“機能美”も見どころ十分。全員がアンカーになれて、トップ下にもなれるような個性を持つ3人が敵味方、ボールの状況に応じて自在にポジションを動かしながら攻守両面を機能させてしまう様は、観ているだけで面白い。

 前線のターゲットマンとなる191cmのアンドレア・ファヴァッリ(アスコリ)も分かりやすい個の強さを持ち、日本のCBコンビを大いに試すことになりそうだ。高さという意味ではイタリアの第1戦先発オーダーで180cmを下回る選手はバレッラのみで、残りは全員が180cm以上。フィールダー10人中5人は185cm以上という大型チームに仕上がっており、セットプレーも大きな脅威となるだろう。

 今大会に臨んでいるのは1997年1月1日以降に生まれた選手たち。ちょうどフランスワールドカップの最終予選が行われた年から本大会の行われた翌98年に生まれた選手たちが軸となっている。日本が初めて世界の扉を開き、世界で戦うことを前提にして育ってきた世代という言い方もできる。

 日本サッカーの未来を担う彼らが今大会でタフな経験を積み上げることは、そのまま未来に繋がっていくはず。大会前に内山篤監督が「1試合でも多く戦いたい」と語っていたのも、そうした思いから。ハッキリ言ってここからの2試合は本当に手強い相手との戦いが続くことになるが、それを乗り越えることができたとき、若き日本代表はまた一段の成長を遂げていることだろう。


川端暁彦

育成年代からJリーグまで取材するフリーランスの物書き。元『エル・ゴラッソ』編集長。専門メディアから一般メディアまで各種媒体へライターとして寄稿するほか、フリーの編集者としての活動も行っている。座右の銘は、生誕地(のみ)を同じくする作家の小説から「責難は成事にあらず」。