ラグビーというスポーツの魅力

――はじめに、御手洗会長はラグビーとどのようにして出会い、また、どのような印象をお持ちでしょうか?

御手洗 私はラグビーとはまったく縁がなかったんですけれども、1980年頃、販売会社の社員たちがラグビーの同好会を作ったんです。それで2007年、うちが創立70周年を迎えたので、私は何か記念行事をしたいと考えて、4つのことをやったんですよ。社会貢献として、まずはキヤノングローバル戦略研究所というシンクタンクを作った。さらに、キヤノン財団を作って、若手の学者たちを支援することにした。一方、社員の気運を盛り上げて、団結力を強めるといいますか、アイデンティティを求めて、2つのスポーツチームを立ち上げた。一つが女子駅伝で、もう一つがラグビーです。

池田 それが今のキヤノンイーグルスですね。

御手洗 そうなんです。同好会のチームがけっこう強かったんですね。それで、会社として正式にラグビー部を作ることにして2008年にスタートさせました。我々の社章は鷲をモチーフにしているんですけど、鷲は目が非常に良くて、高空から獲物を捕らえられる。それとキヤノンレンズの品質とを掛けているのですが、そこでチーム名もキヤノンイーグルスにしたんです。練習場も東京の町田に作って、本格的に強化に取り組んできたんですけど、私がラグビーを好きになっていくのも、そこからです。ラグビーは全身全力をかけて戦う。知力、体力、戦略、団結力が要求される。そして、フェアプレーでの精神で、規則を守り、審判に絶対服従する。終わったらノーサイドで、健闘をたたえあう。そんなラグビーの精神が、非常に良いなと思いました。団結力、リーダーシップ、一言で言うと人間力の涵養に非常に役立つスポーツであるということを私もだんだん発見して、今ではハマり込んでいます。

――そうでしたか。では、もともとは社員の方々の団結やアイデンティティのために、ラグビー部を立ち上げられたんですね。

御手洗 そうです。ラグビーは、尊敬、団結、情熱、規律、品格といったスポーツに共通する哲学やビジョンを持っていますから、良いスポーツを選んだと思っています。

池田 御手洗会長も、ラグビーをよく観戦されるんですか?

御手洗 忙しいですから、しょっちゅうは行けませんけど。重要な試合には行くようにしています。行ったら負けることが多いんですけれども……。

池田 そうなんですか(笑)。まさに今日、トップリーグの日程が発表されましたね。キヤノンの初戦の相手は昨年優勝のサントリーサンゴリアスです。

御手洗 難しい相手ですね。

池田 結果は気になりますか?

御手洗 もちろんです。やるからには勝たなきゃいけませんから。

世界のスポーツの中心となる3年間

――池田さんは昨年10月まで5年間プロ野球の横浜DeNAベイスターズの代表取締役社長を務めていらっしゃいましたが、ラグビーというスポーツをどう捉えていますか。

池田 ラグビーが国民的人気を誇るオーストラリアにいたこともあり、しょっちゅうパブでビールを飲みながら観戦してオージー達と盛り上がってはいましたが、プレー経験はなく、もともと水泳をやっていたんです。高校まで水泳選手で、これでも全国大会で決勝に残るレベル、年間記録では日本一になったこともありまして。

御手洗 それはすごいですね。どちらの高校ですか?

池田 高校ではなくて、クラブチームで泳いでいたんです。神奈川県の藤沢で活動していたスイミングクラブです。小学生のときには野球もやっていました。私の時代もまだ、ラグビーがそれほどメジャーではなかったので、プレーする機会はなかったのですが、御手洗会長もおっしゃっていたように、ラグビーの精神が日本人にもすごく合っている、共感を得る層が多いと感じています。

御手洗 合っていますよね。

池田 いろいろな精神を教えるので、子どもの教育にも合っていますし、企業や仲間と毎日を戦い抜く、チームで戦う一員の企業戦士、エスタブリッシュなサラリーマン層、志をもってしっかりと仕事に向き合っている層に共感を得られるスポーツなんじゃないかなと、最近試合の視察を繰り返して改めて思っています。それで2019年に日本でワールドカップが開催されるので、具体的にどういう形に、どこまでの深さになるかは分かりませんが、なにがしかで関わらせていただこうと思ったわけです。

御手洗 アメリカはスポーツが非常に盛んで、幅広い層からバスケットボール、野球、アメリカンフットボールが支持されています。特に、高校生はバスケ、大学生はアメフトと、各々の階層で人気がある。日本でも、まず野球が支持されて、サッカーが続いた。そこに、さらにラグビーが続いて熱狂的な層ができて、それが子どもという次の世代と結びついていくのが理想だと私も思います。

池田 2019年のワールドカップ開催がそのきっかけになる可能性を秘めていますね。

御手洗 ええ。それと同時に、ラグビー人気がアジアに広がっていくといいですね。ラグビーのワールドカップがアジアで開催されるのは初めてですから、先ほど話したラグビーの精神をアジアに広めていく役割を日本が担えるといいと思います。人口44億人のアジアは、世界の経済や文化において、これから大きな力を持つようになっていくわけですが、一方で、スポーツ文化の国際化という点で、アジアは発展途上にあると思います。その中でも日本は進んでいるほうですよね。だから、日本がアジアにおけるスポーツ王国にならないといけない。

――それには、野球、サッカーに続くスポーツが必要ですし、スポーツの国際化が重要になりますね。

御手洗 その意味で、ワールドカップ開催は大きな意義があると思います。例えば、1964年に東京オリンピックを開催したことで、日本にスポーツがたくさん増えた。というよりは、スポーツの国際化の波が訪れた。私が若かった頃、正直に言うと、バレーボールはそれほど人気のあるスポーツではありませんでした。でも、東京オリンピックで「東洋の魔女」(バレーボール女子日本代表チームの愛称)が金メダルを獲得して、日本におけるバレーボール人気に火がつき、強豪の仲間入りを果たしたわけじゃないですか。カーリングも私はあまりよく知りませんでしたが、1998年の長野オリンピックをきっかけにカーリングのクラブがあちこちに誕生した。逆に、柔道は東京オリンピック以降、世界に広がっていきました。スポーツの大きなイベントを成功させれば、主催国のスポーツが国際化するし、競技が世界に広まる効果があるわけです。

池田 世界のスポーツ文化に大きく貢献ができるという意味で、2019年のラグビー・ワールドカップ、2020年の東京オリンピック、さらに2021年ワールド・マスターズ・ゲームズと、日本でスポーツのビッグイベントが3年連続で開催されます。これは、大きなチャンスですね。

御手洗 この3年間で日本が世界のスポーツの中心になるわけですよ。これは日本にとって、非常にすばらしいチャンスだと思いますね。経済効果だけじゃなくて国際化。特に子供たちの意識の国際化というか、これは絶好のチャンスだと思いますね。

<中編へ続く>

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VictorySportsNews編集部