【前編】2019年からの3年間で日本が世界のスポーツの中心になる
2019年のラグビー・ワールドカップ日本大会の開幕まで、2年4カ月。大会を成功させるため、さらには日本にラグビーを文化として根付かせるために、これから何をしていくべきなのか。組織委員会会長を務める御手洗冨士夫氏(キヤノン会長)と、日本ラグビー協会の特任理事に就任した池田純氏(前横浜DeNAベイスターズ社長)を招き、ビジョンやアイデアをうかがった。
【中編】2015年大会の劇的な南アフリカ戦、腹の底から快哉を叫びました
野球やサッカーといったスポーツに続き、ラグビーの熱狂的な層が日本に誕生するか――。2019年のラグビー・ワールドカップは、そのきっかけとなる可能性を秘めている。大会を成功に導き、その可能性を現実とするためのキーワードとは? 2015年のワールドカップ・イングランド大会を観戦した御手洗氏が、現地の様子と日本での展望について語ってくれた。
3つの世界大会を合理的に
――2019年のラグビー・ワールドカップの組織委員会と、2020年の東京オリンピックの組織委員会が協定を締結しました。こうしたケースは今までになかったことかと思います。
御手洗 これは素晴らしいことですね。ラグビー・ワールドカップ、オリンピック、ワールド・マスターズ・ゲームズと、スポーツの大きなイベントを3年続けて開催する国の特権だと思います。というのも、交通網、ボランティア、食糧といったすべての面で、ノウハウを繋げていけるじゃないですか。必要とされるボランティアの数は8万人とも9万人とも言われていますが、ラグビーのワールドカップのために集まるボランティアの多くは、東京オリンピックにもボランティアとして参加すると思うんですよ。そうすれば、ボランティアの運営の仕方が繋がりますよね。交通網の整備も当然のことながら、繋がっていく。
池田 いろんな共通点がありますから、ラグビーのワールドカップがオリンピックに繋がっていきますね。
御手洗 これは、日本ならではというか、偶然3つ続くのは僥倖だと思いますよ。非常に合理的だと思います。
――まさに「経営は合理主義の追求だ」という御手洗会長の言葉が、大会の運営にも通じますね。開催が決まっている都市のスタジアムも今、改修が始まっているようですね。
御手洗 国際的な標準に耐えるように、かなり一生懸命、作り変えていますし。大分県でも、座席を広げるとか、芝を変えるとか、いろいろなことを急いでやっていて、非常に立派なレガシーが残っていくと思います。また、立派なレガシーが残れば、使いたくなりますよ。何か作って、あと草ボーボーじゃ、困りますよね。
――ちょっと悲しい光景も、他の国では見られたりしますからね(笑)。
御手洗 日本ではそんな風にはならないと思います。それから、開催都市でなくても、キャンプ地がたくさんできるので、そこも整備されるでしょうね。
池田 2002年のサッカーのワールドカップの時もそうでしたね。
御手洗 キャンプ地で外国の代表チームを迎える人たちは、意識が活性化されますよ。意識が活性化されると、地方経済が活況を呈します。しかも開催地は12都市、キャンプは約30カ所ですから、それこそ、オリンピックよりもオールジャパンですよね。
アジアで大きな存在に
――御手洗会長が南アフリカ戦をご覧になったとおり、2015年のイングランド大会で日本代表チームは大活躍しましたが、去年や今年、チームをご覧になっていかがですか? ヘッドコーチが変わって、戦略も変わりました。小さな体でハードワークするというのは変わらないんですけど、より世界のスタンダードを意識したような戦略を今、取っていると言われています。その方向性を、どういう風に思われますか。
御手洗 やっぱり、戦略やチームづくりの方向性は監督によって違うわけですよ。エディ・ジョーンズからジェイミー・ジョセフに代わって、彼は若手を登用していますし、いろんなことを試していますよね。2年後にピークが来るような選手の育て方、という意味では、合理的だと思いますね。監督の指導方針にインターナショナルとか、ドメスティックはないと思うんです。同じルールで世界中やっていますから。それでも違う色は出てくる。音楽だって、オーケストラに同じ楽譜で演奏させたって、指揮者によって違うじゃないですか。
――言い得て妙ですね。確かに同じ曲であっても違ってきます。
御手洗 良い悪いじゃないと思うんですよ。私がジョセフさんに期待しているのは、エディ・ジョーンズとは違った、一流のチームに仕上げてほしいな、ということです。こういうのは、やり方がどうであろうが、結果が大事ですから。
――確かにそうですね。では最後に、この2019年のワールドカップに期待することと、大会像についてお聞かせください。
御手洗 経済効果が抜群にあるということと、特に日本の子どもたちが、外国文化に触れることによって、インターナショナルなノーションというか、その意識が目覚めるということ。それから何よりも、スポーツという、世界共通のルールで動く、ある意味では文化の祭典が日本で行われるわけです。これを契機に、スポーツを愛し、平和、文化を愛する国として、アジアで大きな存在になると。そのために日本のラグビーがこのアジアに広まって、さらにインターナショナルになるきっかけになればいいと思いますね。今は英連邦とフランス、オセアニアなど限られた地域だけですから。
――ラグビーが盛んな国というのは、限定されていますね。
御手洗 ワールドラグビー側も2019年の日本開催をきっかけに、ラグビー人気をアジアで広めたい。組分け抽選会を京都で行いますが、イギリス、アイルランド以外で行うのは今回が初めてです。これは彼らにとっても大事なことですし、我々もその意味をキチッとくみ取らなきゃいけない。ラグビーの普及に繋がるような機会になればいいなと思いますね。
ここで池田から御手洗会長に、「経営」についての質問が多数なされた。
今回の主なテーマは「ラグビー」であるため「経営」に関する双方の話の詳細は省くが、御手洗会長の「経営は合理主義」という哲学について話が盛り上がった。
池田 御手洗会長に最後にうかがいたいのですが、御手洗会長の経営のモットーである「合理主義」は、ことスポーツに関すると、結びつく部分があるとお考えでしょうか。合理主義の先に、スポーツも、やはり結果があるとお考えでしょうか。
御手洗 合理的な運動をしないと、良い結果は出ないんじゃないですか。
池田 確かに! 無駄な動きをしてしまうと、勝てないですよね(笑)。大変お忙しいところ、今日は長時間ありがとうございました。