【前編はこちら】2019年からの3年間で日本が世界のスポーツの中心になる

2019年のラグビー・ワールドカップ日本大会の開幕まで、2年4カ月。大会を成功させるため、さらには日本にラグビーを文化として根付かせるために、これから何をしていくべきなのか。組織委員会会長を務める御手洗冨士夫氏(キヤノン会長)と、日本ラグビー協会の特任理事に就任した池田純氏(前横浜DeNAベイスターズ社長)を招き、ビジョンやアイデアをうかがった。

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オールジャパンで盛り上げる

――ワールドカップの開幕まであと2年4カ月ほどですが、まだ2年4カ月もあると感じていらっしゃいますか? それとも、あと2年4カ月しかないと?

池田 スポーツの経営に携わってきた身としては、あと2年しかないと思います、危機感を抱くレベルです。1964年の東京オリンピックのときも同じだったと、当時を経験した方々からお聞きしますが、日本は直前で一気にワーッと盛り上がりやすい反面、それがブームにとどまって、しばらくすると沈静化しやすい。ブームはかならず弾けます。ブームが弾けたその後も、一定以上に安定的に持続することが大切です。ですから、そうならないために、ラグビーも含めてスポーツを文化として根付かせるために準備をしないといけないわけですが、そう考えると、あと2年ちょっとというのは、時間がないなと私は思っています。

御手洗 おっしゃっていることは分かりますけど、私はポジティブなんですよ。というのは、前回のリオデジャネイロ・オリンピックから7人制ラグビーが種目に取り入れられたじゃないですか。だから、2019年のラグビー熱は2020年のオリンピックにも確実に繋がると思うんです。また、スポンサーの立場から話をすると、私は地方のスタジアムに小学生をたくさん招待したいと思っているんですね。ラグビーのワールドカップはオリンピックと違って12都市でやるわけです。北は札幌から南は大分、熊本と、12都市と19の自治体が協力している。それから、まだ決まっていませんが、キャンプ地はおそらく30カ所ぐらいになるでしょう。全国に広がるでしょうし、そういう運営をしないといけないと思います。

池田 これだけ多くの開催都市でやるわけですから、旅をしてくれる外国の方もいらっしゃるでしょうね。

御手洗 だから、オールジャパンにしていきたいと思っているんです。

池田 なるほど。そういう意味では、“オールジャパン”と“子ども”というのがキーワードになりそうですね。せっかくの機会ですから、子どもたちにラグビーボールがいきわたる、そこまでいかなくともラグビーボールに触れてもらうことができるようにできれば、未来に向かって、ラグビーを根付かせることができるかもしれません。私がベイスターズの社長になった6年前、横浜の子どもたちを含め横浜市民はベイスターズファンよりも巨人ファンのほうが多かったんです。それをひっくり返したくて、神奈川県にも、教育委員会にもご賛同いただいて、神奈川の子どもたち全員にベイスターズキャップを配りました。2億弱かかりましたが、それで一気に文化が変わり、横浜と神奈川の街中でキャップをかぶってくれている子どもたちも増え、多くの子どもたちがスタジアムに来てくれるようになったんです。そしたら、親も来てくれるようになりますから、お金を使ってくれて利益も出ました。このタイミングでそれぐらいのことを考えれば、ラグビーの世界も変わるんじゃないかと思っています。

御手洗 そうなんです。だから、お互いに知恵を出していかないといけませんね。やっぱり、心配する人もいるわけですよ、地方の会場はガラガラなんじゃないかと。でも、私は悲観していないです。というのは、ラグビーのワールドカップは地球上で40億人がテレビで見ていて、何十万っていう人が来る。そうすると、地方で日本代表以外の国同士が対戦しても、外国からやって来たファンが行くわけですよ。そこでは、地元の方々がいろんな国の人たちと顔を合わせることになるし、日本は非常に親切な国ですから、彼らを助けたりして交流が生まれる。子どもたちにとっても非常に刺激的な体験になると思うんですね。ひょっとすると、日本の子どもと外国の子どもが知り合いになるかもしれませんよ。私がそう感じたのは、2015年のイングランド大会に行って2試合を観戦したからなんです。

池田 2015年のワールドカップを、現地でご覧になられたんですね。

御手洗 あの劇的な南アフリカ戦も見ました。もう本当に何年振りかで、腹の底から快哉を叫びましたよ。ちょうど私の前に南アフリカのラグビー協会の会長夫婦が座っていらっしゃって。

池田 あら……(笑)。

御手洗 はじめのうちは楽しそうにされていたんですけれど、だんだん静かになって。見ていてかわいそうでしたが、試合後に「コングラチュレーション」と言ってくれたんです。あれは、久し振りに感激、感動しましたね。しかもね、先行されて追いついて、勝ち越されてまた追いつくという展開で、最後にキックを選んで決めれば同点というときに、あえてトライを狙って逆転した。あとから聞いてみると、本能的に勝てる気がしたそうですが、結果論でしょうけど、すごかったです。

池田 スタジアムの熱狂もすごかったのではないでしょうか。

御手洗 全員、立ち上がってスタンディングオベーションでしたね。その瞬間、全員が日本の応援団なんです。

池田 相手のファンも、地元イングランドのファンも、応援してくれたんでしょうか。

御手洗 そうなんです。ひいきじゃなくて勝者に対する賞賛ですよ。これこそインターナショナルですよね。そういうことが日本でも起こるといいなと思っています。海外から来た方々は自分の国を応援しに行くと思うんですけど、地元の日本の方々もたくさん見に行くと思うんです。それで、日本人、外国人、大人、子どもが混じってラグビーを観戦して、最後は勝者を賞賛する。そんな想像をしますと、私は今から楽しみで仕方ないんですよ。

池田 そのとおりですね。そのためにも、ここからの2年間、頑張らないといけないですね。

御手洗 お互い、そういう責任があると思って頑張りましょう。

プロの技で子どもに夢を

――タグラグビー(危険度の高いタックルを禁止し、腰に巻いた「タグ」を相手が取ることでタックルの代わりとする。ルールが単純化され、危険度も低いため、年齢や性別、経験を問わずプレーできる)が学習指導要領に入ったことで、小学生がラグビーボールに触る機会はちょっとずつ増えています。

御手洗 いいことだと思いますね。サッカーや野球を見たら分かりますけど、日本ではまず企業が始めるんですよ。それで、そのうちにリーグができるという発展段階を取っていくわけです。だから今、ラグビーのチームも企業がほとんど持っている。それが2019年のワールドカップをきっかけに自治体と結びついてファンが増えて、そのうちに野球みたいに、リーグだけで生きていけるようになるといいし、そういう発展をしていくように育てないといけません。そのためには、次の世代を担う子どもたちに、そういう将来を見せてやらないと。

池田 今のジャパン・ラグビー・トップリーグは、社会人ラグビーにおける全国リーグですが、今後、プロ化していくのがいいのか、このまま企業スポーツとして続けていったほうがいいのか、どうお考えでしょう?

御手洗 私は、究極的にはプロ化すべきだと思います。やっぱりプロというのは、その技に命をかけてやる人たち。そんなプロの技は美しいというか、大げさに言えば、芸術品ですよ。だからこそ、文化にもなると思う。そうすると、社会人ラグビーはなくなるかといったら、そんなことないと思います。野球だって都市対抗野球があるじゃないですか。だから、企業対抗といった形で残ると思います。企業対抗戦を戦うのは社員、その一方で、一流のプロの世界もあるというのが、理想じゃないでしょうか。

池田 そうですね。バスケのBリーグもそうですが、プロの世界が生まれると、プレーのクオリティが高まっていきます。

御手洗 私はワラビーズ(オーストラリア代表)とオールブラックス(ニュージーランド代表)の試合を2、3回見ましたけど、あれは芸術品ですよ。すごいですよね。お互いが入り交って、50メートルぐらいを疾走しながらショートパスをつないで前進していく。ラグビーならではの迫力だと思いますね。

池田 オールブラックスはまだ生では観戦したことがないんですけど、今年の2月、スーパーラグビーの開幕戦でサンウルブズ(日本)対ハリケーンズ(ニュージーランド)の試合を、妻と9歳、3歳の子どもを連れて秩父宮ラグビー場に見に行ったんです。ハリケーンズは去年のスーパーラグビーの優勝チームなんですけど、彼らの迫力あるかつ華麗なプレーに子どもたちが「カッコイイ!」って。やっぱりこのレベルのクオリティになると、子どもたちも直感的にプレーの凄さを理解して、そういったことからもファンになるんだな、っていうのを目の当たりにしました。それで、もし日本のラグビーにもプロの世界が生まれたら、どのような変化が、日本のラグビーのプレーやファンや興行の世界に生まれ、ラグビー界全体が盛り上がるのだろうな、という想像が生まれました。そして、それ自体が日本に野球やサッカーだけではなく、もう一つのスポーツ文化が生まれ、日本全体のスポーツ文化を底上げするのではないかと。

――5月10日に組み合わせ抽選会が行われ、今年の秋には試合会場と日程、対戦カードが決まります。例えば、オーストラリア代表はこの会場で戦います、というのがはっきりすれば、開催地とその国との関係性を深めていくこともできます。

御手洗 そうですね。これから12都市のスタジアムの準備も本格化します。花園ラグビー場もラグビーだけじゃなくてサッカーもできるように改修すると聞きました。それは各地のスポーツの中心、レガシーとなっていく。だから、地方も含めてオールジャパンで盛り上がっていくと思いますね。

池田 花園ラグビー場と秩父宮ラグビー場はラグビーの聖地ですが、福岡、大分、熊本と今回は九州でも3都市で開催されます。もともと九州はラグビー人気がありますが、やりようによってはもっと盛んになるんじゃないかと思います。ラグビー界が行政ともっと連携を図って、各地をもっとマーケティングして、スタジアム自体の改善も、各地での普段の盛り上げも、大きく作っていくことができれば、すごく良い会場にできる可能性があると思います。

御手洗 やはり良いスタジアムでプレーすれば、レベルがどんどん上がっていきますから。それと今回、開催地を募ってみたら、立候補してきた地方の自治体がたくさんあったんです。地方の立候補が少なくて、こちらから頼まなければならない状況になるかなと思っていたら、そうではなくて、12会場を選ぶのが大変でしたよ。良い意味で苦労しました。

<後編へ続く>

【後編】スポーツを愛し、平和、文化を愛する国として大きな存在になる

全国12都市で開催されるラグビー・ワールドカップをオールジャパンで盛り上げたあとは、東京でのオリンピック、関西でのワールド・マスターズ・ゲームズと、スポーツの国際大会が続く。その運営における合理性から、ジョセフ・ジャパンへの期待、そして2019年大会の日本的・アジア的・世界的意義へと、話は展開していった。

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【前編】2019年からの3年間で日本が世界のスポーツの中心になる

VictorySportsNews編集部