文=平野貴也

決勝トーナメント進出を決めた、したたかさ

 若き日本代表は、死線をかいくぐって勝負の場へと歩を進めた。韓国で開催されているU-20ワールドカップに出場中のU-20日本代表は、グループリーグD組で3位になり、他の組の3位より上位成績となり、16強による決勝トーナメントへの進出が決まった。次は、30日に決勝トーナメント1回戦でA組1位となったベネズエラと対戦する。グループリーグで自動的に突破が決まる2位以上に入れなかったことは課題が出たことを意味するが、一方で南米王者や欧州2位の強豪がひしめく困難な組を突破した戦いには収穫もあった。

 まず、グループリーグをしたたかに戦えた手応えがある。日本は、初戦でアフリカ予選4位の南アフリカに2-1で逆転勝ち。第2戦は、南米王者ウルグアイに0-2で敗れた。第3戦は、他の組の動向によって、日本が勝てば2位通過、引き分けでも得点を挙げていれば成績上位の3位で通過できることが濃厚という状況で始まり、引き分け以上で2位以上が決まる欧州2位のイタリアと2-2で引き分けた。最後の20分間は、両チームが確実に引き分ける展開を選んで攻めず、観客からブーイングが起きたが、着実に勝ち点を確保した。

 グループリーグで対戦したウルグアイとイタリアは、優勝候補にも名が挙がる強豪。大会の視察に訪れている日本サッカー協会の西野朗技術委員長は「3位でも(6組中4位以上であればトーナメントに)上がれることも考えながらの戦い。強豪国のグループに入ってしまったし、得失点差も考えなければいけない。初戦が大事な中で、逆転で勝点3を取れたことが非常に大きかった。あとは、強豪相手の2試合で、本当にしたたかなゲーム運びを考えて、次のステージを勝ち取った」と、チームが置かれた状況を考えてベターな結果を引き出した戦いぶりを評価した。

世界の舞台で明らかになった日本の課題

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 次に、内容面で言えば、逆転勝利や2点差からドローに持ち込んだ攻撃面は収穫があった。失点後もバランスを崩さず、相手を動かし、空いているサイドを使いながら、時には中央からスルーパスを狙っていく攻撃でリズムを作って、ゴールを奪った。第2戦でエースFW小川航基(磐田)が重傷を負って離脱し、スタイルの変更を余儀なくされたが、第3戦では敵陣に生まれるスペースをタイミングよく使ってチャンスメークし、フリーランニングや個人技で相手の守備ゾーンを突破した。

 初戦の南アフリカ戦で逆転ゴール、第3戦のイタリア戦で2ゴールを挙げてチームをけん引しているMF堂安律(G大阪)はイタリア戦後に「立ち上がりは、相手が一発で決めて来る。追いつけたから良かったけど、もっと、僅差になると命取りになるので、詰め直さないといけない。それ以降は、ゲームの運び方は完ぺきと言って良いほど良かった。焦れずに相手を見ながらプレーをできたので良かった」と話した。

 堂安の言葉にあるように、3試合すべて、立ち上がりに失点を喫している。リードした相手が引き気味に戦っていた時間が長かったことは、無視できない。基本的にボールを持ちやすい展開だったと言える。第2戦のウルグアイ戦は、1点のビハインドから逆襲を仕掛け、試合終盤に追加点を奪われた展開。この試合の勝負だけを問うなら惜しい試合に見えた。

 ただし、両チームに力の差が存在したことは明白だ。小川が負傷するまで機能的な守備ができていたように見えたが、FW岩崎悠人は「パススピードが全然違う。まったくボールを奪えなかった。スピード、体の向き、ポジショニングはレベルの差を感じた。けん制をしに行っているつもりだけど、走らされている感じ。ボールを取れそうな気がしなかった」と攻撃のベースとなる力の違いを痛感させられていた。MF原輝綺も「違いを見せつけられた。組織で守ればやれない相手ではないと思うけど、個で見たときには圧倒的な差があると思う。突き詰めていかないと、世界との差はこの先どんどん開いてしまうのかなと思う。プレースピードが全然違う」と話していた。

 立ち上がりの失点という課題は、単に守備力の問題として片付けることのできない話だ。なにしろ、この大会の出場権を獲得した、昨年のU-19アジア選手権では無失点優勝を果たしている。国内やアジアの感覚ではOKなものが、世界のトップレベルでは通用しないことを知る大会となっている。

負ければ終わりの決勝トーナメントへ

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 選手が口々に話すのは「世界の相手は、速い」という体感だ。技術と戦術眼で抜きんでた力を見せている15歳の久保建英も「リーチもそうだけど、一歩が速いので苦しめられた」と語った。第1戦で序盤にオウンゴールをするなど慌てていたDF冨安健洋は、後半に立て直して好プレーを連発した。「相手のスピードにも試合の中で慣れて来て、対応できる部分はあった」と話したように、試合の中で経験して慣れることで対応力が磨かれ、綻びを抑えることができた。一方で「いつもより、Jリーグとは比べ物にならないくらい疲れている」と精神面も含めて通常以上の力を要求される舞台であることを認める。普段のプレー強度の違いが、緊張度の高い大会でベースの違いとなって表れているのだ。

 日本が試合の立ち上がりに弱いことや、決定力の違いを見せつけられたことも無関係ではないだろう。ベースが違えば、ギアを変えたときの力量差はもっと大きくなる。思い切ってプレーする立ち上がりや、チャンスの場面は、差が出やすい。立ち上がり10分で2失点を喫したイタリア戦後、原は「気を付けてはいるんですけど、さすが、勝負強いなと思いますね。難しいボールをちゃんと流し込んで来る」と話した。

 それでも10年の空白を経て、5大会ぶりにU-20ワールドカップに出場した日本は、強豪国と同組となったグループを抜けてみせた。世界の強度に少しずつ慣れて順応し、大会の中で成長を見せている。トーナメントでは、これまでのようにボールを持ちやすい時間帯は減って来る。一発勝負になるため、早々の失点も許されない。より厳しいベースが求められる戦いで、日本は磨かれる。勝ち進み、世界の頂点に近付くために必要なものをさらに学べるか注目だ。


平野貴也

1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト『スポーツナビ』の編集記者を経て2008年からフリーライターへ転身する。主に育成年代のサッカーを取材しながら、バスケットボール、バドミントン、柔道など他競技への取材活動も精力的に行う。