文=大島和人

小クラブも欠かさなかった戦力補強

©Getty Images

 Bリーグ初年度を迎えて、バスケ界の様々な仕組みが変わった。例えばBリーグはNBL、bjリーグで採用されていたサラリーキャップ(年俸総額規制)が廃止され、逆に”年俸を増やす”仕組みが導入された。まずアマチュア契約の選手数が制限されるようになり、プロ選手については最低年俸(B1→300万円、B2→240万円)が設定された。実際に各クラブの人件費総額は大きく増えているはずだ。

 この国には”競争は格差を広げる”という常識がある。ただ初年度のB1を見ていると、それは逆だった。今季のレギュラーシーズン540試合のうち、10点差以内で決した試合は52.2%(282試合)と過半数を越えている。昨季までのリーグ戦に比べて「第4クォーターまで分からない」試合が明らかに多かった。自分も現場で何度も番狂わせに遭遇している。もちろん様々な制度で戦力均衡を図っているNBAに比べれば上下の勝率差は大きいが、懸念されたほどではなかった。

 それは単純に小クラブが頑張ったからだろう。最低2チームがB2に降格するという制度が導入されたこともあり、苦戦が予想されるクラブは補強に力を入れていた。富山グラウジーズの宇都直輝は、昨季までトヨタ自動車(現アルバルク東京)でくすぶっていた選手。しかし移籍から飛躍を果たして、25歳の今季はアシスト王を獲得している。「ビッグクラブでは控えでも、小クラブならエースなれる人材」の移動で、リーグが活性化した。

 横浜ビー・コルセアーズの残留に貢献した川村卓也も今季からの新加入だった。JBLとNBLで4クラブを渡り歩いた大物選手である彼は人気、実力ともにチームを引っ張っていた。また前半戦は全体の最下位に沈んでいた滋賀レイクスターズは、NBAデベロップメント・リーグ(NBAの下部リーグ)にチャレンジしていた並里成を開幕1ヵ月半後の11月に獲得。それも建て直しの一因となり、残留を勝ち取った。

 富山、横浜、滋賀は旧bjリーグで、B1入りの審査もぎりぎりで通過したクラブ。当然ながら残留は危ぶまれていた。しかし彼らは外国籍選手も含めた補強で、旧NBL勢とも戦えるチームを作った。

 加えて外国籍選手の活躍は格差縮小の大きな理由だろう。チャンピオンシップに残れなかったチームにも、かなり強烈な人材を引っ張ってきていた。大阪エヴェッサのジョシュ・ハレルソンはブロック、リバウンドでリーグのトップ3に入り、3ポイントシュートも含めて別格のプレーを見せていた。新潟アルビレックスBBのダバンテ・ガードナー、クリント・チャップマンもB1全体の得点ランキングで2位、4位を占める活躍を見せている。

いくつのクラブが千葉ジェッツに続けるか

©Getty Images

 残留は逃したものの、秋田ノーザンハピネッツも魅力的なチームだった。田口成浩、安藤誓哉のガード陣はB1でも屈指で、外国籍選手もレオ・ライオンズ、イバン・ラベネルと言った実力者をシーズン中の補強で揃えた。”個の足し算”をすれば、B2に降格するべきチームではなかった。

 また京都ハンナリーズは予算、観客数を見るとB1最少規模のクラブだが、チャンピオンシップ出場権争いに最後まで絡んだ。しつこい守備で栃木やA東京といったビッグクラブを相手に番狂わせをたびたび演じているB1のくせ者だった。

 今季のB1がエキサイティングだった背景はこういった小クラブの奮闘と、データが示すような接戦の多さが理由だ。こういった良い意味での下剋上、競争の活発さは来季に向けた大きな収穫と言っていいだろう。2年前、3年前までスモールクラブの一角だった千葉ジェッツは、一足早くビッグクラブに成長して今季のオールジャパンを制した。続く小クラブがそういう上を目指す姿勢を維持できれば、Bリーグはより魅力的なものになるだろう。

 栃木や川崎といったクラブがどういう部分で上回ったかといえば、おそらく「継続性」「安定感」だった。今季のB1を制した栃木は既に9季目を迎える田臥勇太を筆頭に、ライアン・ロシター、古川孝敏、遠藤祐亮と在籍3シーズンの選手が主力を占めていた。点差がついても勝負を投げ出さず、流れが悪い時にも崩れないカルチャーは、栃木がギリギリの展開を勝ち切る理由になっていた。ただ連携、信頼関係といったケミストリーの醸成にはどうしても時間がかかる。

 また川崎やA東京、三河といった『旧企業チーム』のアドバンテージは今もある。それは大企業が福利厚生用に用意した施設を使えるということ。1日中バスケに打ち込めるコート、ウエイトトレーニングの施設といったハード面は、選手がクラブを選択するにあたって決め手になる。プロ意識が高ければ高いほど、練習環境は契約時に重要なポイントになる。これも時間がかかっても解消するべき格差だ。

 来季以降に向けた課題は”小クラブが今の活気をどれだけ維持できるか”に尽きる。今季は初年度だからこその高ぶりがあった。しかし失敗や停滞に直面したときに、上を目指し続ける姿勢を維持することは容易でない。各クラブがそういった継続性、リバウンドメンタリティを持てるかどうかは、Bリーグの今後を左右する部分だ。


大島和人

1976年に神奈川県で出生。育ちは埼玉で、東京都町田市在住。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れた。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経たものの、2010年から再びスポーツの世界に戻ってライター活動を開始。バスケットボールやサッカー、野球、ラグビーなどの現場に足を運び、取材は年300試合を超える。日本をアメリカ、スペイン、ブラジルのような“球技大国”にすることが一生の夢で、球技ライターを自称している。