文:らいかーると

徐々に削られていった日本の体力


試合開始から注目したのは、ボールを保持していないときの日本の振る舞いと、それに呼応したイラクの動きだった。高地で行なわれ、さらに酷暑という試合条件から、日本はハーフラインからプレッシングをかけることを選択した。これまで行なってきた相手陣地からのプレッシングでは、体力を浪費するリスクが大きすぎると考えたのだろう。日本の1列目(大迫勇也と原口元気)のポジショニングは、相手のセンターバックではなくイラクのセントラルハーフを基準点とする形になっていた。

ボールを持たされる形となったイラク。セントラルハーフを経由できないこともあって、左サイドハーフの19番マフディ・カミルはビルドアップに参加するポジショニングを最初からしていた。2枚のセントラルハーフを基準点とする予定だった日本の1列目からすれば、寝耳に水だったろう。マフディ・カミルによって、時間とスペースを与えられたイラクのビルドアップ隊は、オープンな状況を享受するようになっていく。

時間の経過とともに、イラクの攻撃の狙いは徐々に明確になっていく。4-4-2の中央圧縮で守る日本の守備に対して、イラクは高いポジショニングをとるサイドバックにボールを預け、日本のサイドバックに対応させ、空いたサイドのエリアに1列目の選手を移動させ、日本のセンターバックと勝負するという狙いを見せた。

イラクの前線の選手に対して、日本は昌子源と吉田麻也が質的優位を示した。しかし、繰り返しディフェンスラインの裏へボールを放り込まれることで、日本は徐々に体力を削られていく。これは、イラクのもう一つの狙いだったと思われる。かつて、日本代表を率いていたフィリップ・トルシエ監督の得意技である。

大迫の頑張りが報われ、先制したが……

一方日本がボールを保持した際、イラクはプレッシングをかける姿勢を明確に示した。ときにはGK川島永嗣までプレッシングをかけにいく姿勢は、それだけ自分たちがボールを保持する時間を増やしたかったからだろう。

イラクのプレッシングに対し、日本は本田圭佑のキープ力を軸に攻撃を組み立てていった。日本の攻撃はほとんどが彼を経由して行なわれており、本田の存在感を改めて感じさせる試合となった。これは、この試合を語る上での外せないポイントだろう。

日本の攻撃の特徴は、シリア戦でも見られたように、後方から飛び出していく動きだった。右サイドバックの酒井宏樹や、ときどきだが左サイドバックの長友佑都、そして原口元気の飛び出しにイラクの選手は対応できていなかった。

そして日本の先制点が生まれたきっかけとなったセットプレーは、大迫の粘りから生まれている。テストマッチのシリア戦では、ポストワークで日本の攻撃を牽引した大迫。ハリルホジッチ監督の下では、フィニッシャーとしてよりもチャンスメイクでチームに貢献している。この試合では、審判に判定に泣かされてしまう場面も多かったが、コーナーキックからのゴールはそんな大迫の頑張りが報われた瞬間ともなった。

イラクは意図的にファーサイドを狙い続ける

失点後のイラクは、ロングボール連打をやめ、大外にポジショニングするサイドバックを起点に日本のゴールに迫っていった。ゾーン・ディフェンスの泣きどころである、逆サイドへロングボールを展開するイラクのロングキック。その精度は見事だった。日本はサイドハーフの選手が低い位置に押し込まれるようになり、徐々にカウンターで前に出ていけなくなる。

日本の守備で注目すべき点は、原口がサイドハーフをしていたときとのタスクの差だ。久保裕也と本田は、ゾーン・ディフェンスの約束事を忠実に守っていた。ボールの位置を基準にポジショニングを決定することは、ゾーン・ディフェンスの約束事だ。原口は相手のサイドバックのポジショニングにあわせ、ポジショニングを決定していた。よって、原口がサイドハーフのときには5バックのようになっていた。この差が何なのかはハリルホジッチを理解するうえで貴重なものとなるが、その答えはハリルホジッチしかわからないだろう。

この試合に限って言えば、中央に絞ったポジショニングをする日本のサイドハーフによって、イラクの攻撃はサイドに誘導されたと言える。前述したように、相手の1列目がサイドに流れてセンターバックとの勝負になっても日本に優位性があった。よって、イラクはサイドチェンジでボールを前進させてから、アーリークロスで勝機を見いだすように変化していく。

この試合で何度も繰り返されたように、イラクのクロスは意図的にファーサイドを狙っていた。左サイドバック長友の高さの不足を狙った可能性もあるが、イラクは右サイドからクロスを入れた際もファーサイドを狙っていた。長友だけではなく、チームとして意思統一を図っていた可能性のほうが高い。

イラクの攻撃で危険だったのは、19分に中央を割られた場面と、36分に大外をオトリにして中央にボールを入れられた場面だった。日本からすれば、中央にボールを入れられると、全体のラインを下げないといけなくなり、中央の選手を動かして対応する必要が生まれる。守備のポジショニングがイレギュラーな状態となってしまえば、スキが生まれやすくなる。

この試合で最後まで放置されたポイントが、イラクのビルドアップ隊への対応だ。2センターバックと2セントラルハーフ+マフディ・カミルに対して、原口と大迫のコンビだけでプレッシングをかけ続けることは不可能だ。さらに、拍車を掛けるのが酷暑&高地という環境。相手がオープンな状態でボールを持つ現象を放置していると、大外からクロスを入れられる。この問題に対してハリルホジッチが明確な手を打たなかったことは、「相手をオープンにしても守りきれるだろう」と計算していたからだとは思うけども。

「イラクのメッシ」ファラジ、日本を混乱させる


後半になっても、このエリアの状況に変化はなかった。ボールを保持するイラクがオープンな状況を利用して攻撃を組み立てていく。日本はサイドバックの攻撃参加が見られなくなり、守備重視の姿勢が伝わってくる。

59分、イラクは9番アハメド・ヤシーンに替えて11番フマム・タリク・ファラジを投入する。「イラクのメッシ」と呼ばれているらしい選手で、風貌はヘヴィメタルバンドのようだが、このファラジが厄介だった。マフディ・カミルのようにゾーン・ディフェンスの隙間、プレッシングが届かないエリアを把握できる選手のようで、彼のポジショニングによって日本の守備は悩ませられていく。さらに、ボールプレーヤーという特徴を持った選手だったので、日本の面々はマフディ・カミルとファラジの存在に苦しみ始める。

ファラジの登場からイラクの攻撃は大外の利用だけでなく、中央へクサビを入れるケースが増えていった。日本は徐々にラインを下げて対応するようになり、サイドハーフも相手のサイドバック寄りのポジショニングを取るようになっていく。

日本も本田のキープから酒井宏の飛び出しというお家芸でチャンスを作るが、大迫のシュートは枠を捉えられず。この試合において、日本は技術的なミスを繰り返していた。酷暑&高地だけでなくピッチ状況にも悩まされるとなると、本当に厳しい環境だったと思う。

日本は負傷した井手口陽介に替えて今野泰幸、疲れの見えていた原口に替えて倉田秋を投入し守備の強度維持をはかる。倉田は前線から相手を追いかけまわす意思を見せたが、プレッシングが単独飛行であり、パスコースを制限できないこともあって、効果的ではなかった。そんな倉田のプレッシングをスタートにした日本の守備は順々に剥がされていき、最後は吉田と川島の連携ミスに繋がってイラクに同点ゴールを許してしまう。

ひたすらに耐えるしか選択肢のなかった日本

残り時間はおよそ20分。日本は勝ち越しゴールを狙って、サイドバックの攻撃参加が活発化する。この場面での日本の攻撃を牽引した選手は、前半に続いて本田だった。酒井宏が交代し、酒井高徳がピッチに慣れるまでに時間がかかってしまったことが痛かった。同点ゴールに満足したかのようなイラクとは対象的に、日本は果敢にイラクのゴールに迫っていった。この環境でこうした意思統一は、なかなかできる芸当ではない。しかし、イラクのゴールには届かず試合は終了する。

試合を振り返ると、「イラクにボールを持たせていたか」それとも「持たれていたのか」といずれの見方をするかで、この試合の評価は異なっていきそうだ。後半にイラクに押し込まれる形にはなったが、イラクに与えた決定機は実はほとんどなかった。もちろん、川島と吉田がミスをしなかったとしても、その後にさらに押し込まれ、イラクに決定機を与えてしまっていた可能性のほうが高いけれど。

守備のことを考えれば、相手をペナルティーエリアに侵入させないことが大事になってくる。前半の高さのミスマッチを突かれた場面は、できるかぎり減らしていかなければならない。イラクのシュート数が少なかったことは事実としても、イラクのビルドアップを放置した結果、ファラジの登場とともに徐々に押し込まれる展開になってしまった。そのことに対して、ハリルホジッチは明確な策を打つべきだったろう。

ただし、アクシデントによる交代枠の消化、試合前の怪我人の数を考慮すると、ハリルホジッチに打てる策は、浅野拓磨を入れてロングカウンターを狙うくらい。守備を修正するのは困難だったかもしれない。そういう意味では、ひたすらに4-4-2で耐えるしか選択肢が無い状況で、吉田と川島の連携ミスで失点した現象に「ガッカリした」というのはハリルホジッチの本音だったのではないだろうか。

<了>

VictorySportsNews編集部

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