《後編》[池田純インタビュー]UCLA大アメリカンフットボール部 庄島辰尭「学生スポーツはアメリカ人の心に根付いている」《中編》[池田純インタビュー]UCLA大アメリカンフットボール部 庄島辰尭「UCLAとアンダーアーマーの契約金は15年で310億円」

インタビュー=池田純、岩本義弘

カリフォルニアを代表する学校でフットボールをやりたい

池田 庄島さんは、日本ではどこに住んでいたのですか?

庄島 東京の渋谷の幡ヶ谷というところです。9歳の頃にロサンゼルスに引っ越してきて、高校2年までずっとアメリカにいました。高校の最後だけ日本の高校に逆留学という形で編入して卒業しています。日本の高校に通っていたときも、アメリカンフットボールはやっていました。

池田 チームは強かったのですか?

庄島 自分が行った年は、すごく良い選手がそろっていて、関東大会の準決勝まで行くことができました。

池田 そのまま日本で大学に行こうという気持ちはなかったのですか?

庄島 なかったですね。最初からアメリカに戻りたいという気持ちで、日本に1年間行っていたので。ですから、日本の大学に通った経験はありません。

池田 どうしてアメリカの大学がよかったのでしょうか?

庄島 アメリカの大学で勉強することと、アメリカの大学でアメリカンフットボールをするということを成し遂げたかったからです。そのためにはアメリカに戻るしかないと、選択肢を1つに絞っていたので。

池田 将来の夢というか、どうなりたいと思っていたのですか?

庄島 自分は日本に帰るまで、ずっと10数年間、ロサンゼルスに住んでいました。こちらの高校でアメリカンフットボールをやっていると、自然とUCLAや他のカリフォルニアにある大学に行きたいなという気持ちが芽生えてくるんです。自分にもそういう気持ちが最初から芽生えていたので、UCLAのようなロサンゼルスを代表する、カリフォルニアを代表する学校でフットボールをやれたらいいなというふうに、少しずつ思っていました。高校で日本に帰る時点から、どうやってアメリカに戻って、UCLAに行くかを考えていました。

奨学金を受けられるのは85人

岩本 大学2年生まではサンタモニカ大学に通っていましたよね? そこを選んだのは、UCLAに編入できる実績がもともとあったからですか?

庄島 そうですね。UCLAとかUC系の大学というのは、カリフォルニアにあるコミュニティカレッジからの編入がとてもしやすいんです。コミュニティカレッジというのは、2年間の短期大学なのですが、どの短期大学を選んだらUCLAに行ける確率が一番高くなるかと考えた結果、学力面に加えて、アメリカンフットボールのレベルも重要だったので、それが両立できているサンタモニカカレッジを選ばせていただきました。

岩本 そこで2年間プレーして、キャプテンも務めました。その後に編入試験みたいなものはあったのですか?

庄島 UCLAからプリファードウォークオンという形でリクルートされました。奨学金は与えられないのですが、「ウォークオンの選手として来ないか」というふうに言われて。それでフットボールチーム側が編入手続きとかをやってくれて編入できました。

岩本 そういう流れができているから、将来を考えやすいんでしょうね。

池田 その時もスカラーシップ(奨学金)は出なかったのですか?

庄島 今も出ていません。アメリカンフットボールの選手は2種類に分かれていまして、スカラーシップ(奨学金)をもらっている選手と、Walk-onという学費を自分で払ってチームにいる選手がいるんです。僕の場合は、Walk-onです。

池田 いくらくらい払うのですか?

庄島 学費と住む場所だけなのですが、カリフォルニア大学は留学生の学費が高いんですよ。僕は留学生なので、年間600万円かかります。

池田 スカラーシップだと、それが全額出るんですか?

庄島 はい。全額出て、返さなくていいんです。

池田 それを取るのはかなりハードルが高いのでしょうか?

庄島 高いです。

池田 もっと競技で上のレベルに行かないとダメなのですか?

庄島 そうです。どれだけチームに貢献できるかが大事なので。そのレベルによってはプレゼントという形で奨学金を与えられるケースもあるので。途中からでもスカラーシップになれる可能性はあるので、自分はそれを目指して常に努力しています。

岩本 シーズン始まる時は、ロースターは何人なんですか?

庄島 シーズン始まる時は120名です。

岩本 その中の85人に入るのがその次のステップ?

庄島 そうですね。現在は、卒業生がいなくなってしまったので、約96名とかなんですけど。そこに新一年生、編入生、新しいWalk-onの選手が入ってくるので。最終的には120名になります。

岩本 今、ご自分はどれくらいのポジションにいると思っていますか?

庄島 自分のポジションで2軍なんですけど。何もポジションが約束されていないので、戦い続けている状況です。スカラーシップの85人に入れるか、自分ではそれは判断できません。それを判断するのはコーチだと思っているので。何の文句もなしにコーチが判断できるような選手になることが自分のやるべきことだと思っています。

池田 評価基準があるわけではなく、突然言われるのですか? 「はい、キミ85人だよ」って。

庄島 多分そうですね。何かを達成すればいいという明確なステップが見えているわけではありません。

池田 今、大学を出たあとは何を目指しているんですか?

庄島 自分は環境学を専攻しているんですけど、それに関係する職業。今年の夏にインターンシップなども含めて、そういう分野に入っていけたらいいなと思っています。

指導者の年俸は法律で公開される

池田 スカラーシップの85名に入るための基準が明確ではないということでしたが、コーチに好かれたらなれるみたいな世界でもあるのですか?

庄島 言ってしまえばそうですね。コーチは約20名いまして、各ポジションコーチとアシスタントコーチが1、2名います。

池田 コーチはずっとUCLAで働いているのですか?

庄島 今年はポジションコーチやコーディネーターのコーチが複数人変わってしまったので、年によっては変わるということもありますが、だいたい数年はコーチをするので、長年いるコーチもいますね。

池田 コーチの収入は、かなり良いですよね?

庄島 ポジションやコーディネーターの仕事によっては金額も高くなってくると思います。

池田 学生もコーチが、いくらくらいもらっているか知っているんですか?

庄島 自分たちは把握していませんが、公開されています。カリフォルニアの指導者は、法律上すべて公開されることになっているので。

池田 その人たちはアメフトのコーチだけしかやってないんですか?

庄島 そうですね。教員免許も持っていませんが、もともとプロでやっていた選手、もともとプロでヘッドコーチをやっていた人とか、もともとプロでポジションコーチをしていた人とか、いろいろな人が集まっているので、当然、指導のレベルも高いです。

池田 UCLAからNFLには、毎年、何人くらいが行っているのでしょう。

庄島 ドラフトされる選手は毎年3〜4人ですが、アンドラフテッドフリーエージェントというドラフト外の選手を含めると毎年10名くらいがNFLに行っています。

池田 そのドラフトにかかる3人くらいも、しっかりと勉強はしているんですか?

庄島 もちろん学業を重んじている選手もたくさんいます。UCLAの指導内としてはフットボール以外のことでも人生のバックアッププランを作りなさいというふうな教え方をしているので、勉強の面でもしっかりと努力をしている選手が多いです。

日本との最大の違いは「NCAAの厳しさ」

池田 練習は1日どれくらいやっているのですか?

庄島 練習量は、NCAAでルールがすごく厳しく決められています。1日2時間、しかも週何回とかも決められているんです。例えば、4月から春の練習が始まるのですが、それも4週間だけとルールが決められていて、1日の練習も2時間以内、ミーティングも含めたチーム内で集まる時間も何時間以内というふうに決められていたりとか、とても厳しいです。

池田 それ以外の時間は勉強しなさい、ということなんですか?

庄島 はい。成績を維持していないと、学校側とNCAA側からストップがかかってしまって、シーズン中、試合に出られなくなってしまったり、最悪の場合はチームから退部になってしまうケースもあります。ですから、成績はしっかり維持しなさいと教えられています。

池田 大学生もNCAAの存在を意識しているんですね。NCAAはどこにあるんですか?

庄島 本部はインディアナポリスだと思います。そこで誰が働いているかまでは把握していませんが、NCAAと提携をしているコーディネーターやアドバイザーが、必ずどのチームにも数名控えているんです。質問があったり、疑問があったりしたら、そのコーディネーター、アドバイザーに話に行くということもできます。

池田 学生たちは、NCAAは何をやっているところだと把握しているのでしょうか?

庄島 自分たち選手の中では政府のような、自分たちが所属している団体をしっかりとコントロールする場所というふうに把握しています。

池田 庄島さんは大学に出たあと、日本の社会人ではやろうとは思わないんですか?

庄島 今はとにかくUCLAでチームに貢献することしか考えていないので、それ以外のことは全く考えてないです。

池田 でも勉強はちゃんとしておく?

庄島 はい。

池田 それは、その道に進めなかったときのことを考えてですか?

庄島 そうですね。99%の選手は、同じように考えていますよ。

岩本 アメリカンスポーツは、やっぱりすごいですね。

池田 すごいね。日本にも学生の知り合いがいますよね?

庄島 はい。高校時代の仲間とか、日本代表に選ばれたときに知り合った仲間で、日本の大学でアメリカンフットボールをやっていたり、日本の社会人でアメリカンフットボールをやっている人もいます。

池田 日本の大学生と、こっちのスポーツをしっかりやっている学生と、決定的な違いって何か感じたりしますか? 

庄島 一番大きく感じたのは、やはりNCAAの厳しさです。選手に対して必要とされている規律というものは、アメリカは厳しいのかなと。アメリカはStudent Athleteと言いまして、学生アスリートという認識です。『学生』が先に来るということがまず一番大事。学生として必要なことをしっかり全うしてから、スポーツをやるという考えでやっています。勉強をおろそかにしてはいけないとか、学生としての道徳心を持つとか、そういうことをしっかりと重んじているように感じます。

池田 それは、「ちゃんと勉強しなさいよ」って、どこかで言われるのですか、それともそういう文化があるだけなんですか?

庄島 文化が成り立っていますね。

《中編へ続く》

《後編》[池田純インタビュー]UCLA大アメリカンフットボール部 庄島辰尭「学生スポーツはアメリカ人の心に根付いている」《中編》[池田純インタビュー]UCLA大アメリカンフットボール部 庄島辰尭「UCLAとアンダーアーマーの契約金は15年で310億円」

池田純

1976年1月23日生まれ。 横浜出身。 早稲田大学商学部卒業後、住友商事株式会社、株式会社博報堂を経て独立。 2007年に株式会社ディー・エヌ・エーに参画し、執行役員としてマーケティングを統括する。 2012年、株式会社横浜DeNAベイスターズの初代社長に就任。 2016年まで5年間社長をつとめ、観客動員数は1.8倍に増加、黒字化を実現した。 著書に「空気のつくり方」(幻冬社)、「しがみつかない理由」(ポプラ社)がある。