文=斉藤健仁

「最高の準備」ができていたはずが、22-50で大敗

©Getty Images

 ジェイミー・ジャパンは〝前哨戦〟で進化している姿を見せることはできなかった。

 6月17日(土)、ラグビー日本代表(世界ランキング11位)は、静岡・エコパスタジアムで、2019年のワールドカップで同じプールに入ったアイルランド代表(同4位)と対戦した。日本代表は4年前にウェールズ代表戦同様にホームでの金星を狙ったが、前半から相手にペースを握られて4トライを喫し、試合終盤に連続トライを挙げたものの22-50で大敗。通算成績は日本代表の0勝8敗(互いにキャップ認定する試合は0勝6敗)となった。

 アイルランド代表はこの1年間で、世界ランキング1位のニュージーランド、同2位のイングランドを倒した唯一のチームである。

 だが今回の遠征は、4年に1度のブリティッシュ&アイリッシュライオンズのニュージーランド遠征に参加している主力11人が抜けた、若手中心のメンバーで臨んでいた。それでも、23人中20人が今年のシックスネーションズ(欧州6ヵ国対抗)のメンバーであり、2015年ワールドカップ経験者6人全員が先発し、さらに、今シーズンのラグビー版のチャンピオンズリーグでベスト4に入ったレンスターから7人、同大会でベスト4&リーグ戦王者マンスターから6人がスターターに名を連ねた。

 そんな強豪に対して、日本代表は昨年9月に就任したニュージーランド出身のジェイミー・ジョセフHC(ヘッドコーチ)は「過去最高の準備ができた。選手たちも集中していた」と、キックを軸にしたアタックで果敢にチャレンジした。

 試合のテーマは最初から自分たちから仕掛けて主導権を握る「ファーストパンチ」、そして相手の得意とするセットプレーをなるべく避けることだった。

 しかし、事は狙い通りに運ばなかった。SH田中史朗とSO田村優のハーフ団のキックの精度が悪かったり、キックで敵陣奧深くに入ったとしても簡単に反則やミスをしてしまったりと自慢の攻撃が機能せず、なかなか得点に結びつけることができない。また試合の鍵を握ると思われていたスクラムでも圧倒されてボールを奪われトライを許し、前半15分を回ったところで3-10とリードされてしまった。

アイルランドに分析されていた日本代表の戦い方

©Getty Images

 28度という暑さの中、前半は何とかクロスゲームに持ち込み、後半勝負といきたい日本代表だったが、24分にPR伊藤平一郎が、自陣ゴール前で不用意な反則してしまいシンビン(10分間の途中退場)。すると一気に流れは相手に傾いてしまう。数的不利だったその10分間で、アイルランド代表は身長208cmのLOデビン・トナーを中心にモールなどで攻め込み、24分、28分、31分に3トライを挙げて、3-31と引き離して勝負を決めた。

 ゴール前で粘ることができず、簡単にトライを与えてしまったことは、組織だけでなく個人のスキルの問題でもある。前半、球際の集中力や集散は暑さや移動と普段は慣れていないはずのアウェーのアイルランド代表が上回っていた。テストマッチという真剣勝負に対する意識、プライドの差が出たことは残念でならない。また日本代表は個々のタックルの精度も悪く、成功率71%(タックル106本中ミスタックル31本)では世界の強豪を止めることはできない。成功率は、90%前後ほしい。2015年のワールドカップ組であるPR稲垣啓太は「簡単なミスやペナルティーが多すぎた」と唇をかんだ。

 後半も序盤は趨勢が変わらず、6分に自分たちのミスからトライを喫してしまい3-38と大きくリードされる。その後、ジョセフHCはメンバーを大きく変えて、ベンチメンバーだったHO庭井祐輔、FL松橋周平、SH流大らがピッチに立つとチームにエナジーを与える。20分に、日本代表は唯一の大学生選手であるFB野口竜司がやっとこの試合初のトライを挙げて10-38とした。

 この試合、日本代表は終始キッキングゲームを貫いたものの、CTBデレック・カーペンター、途中出場のSO松田力也の中途半端なキックからカウンターを許し、相手に簡単にトライを献上し、32分の時点で10-50とされる。「日本代表の試合はたくさん見たし、キックを蹴ってくることは想定済みだった」とアイルランド代表の名将ジョー・シュミットHCが言うように、しっかりと戦い方は分析されていた。まだ日本代表は、相手や戦術が上手くいっていない状況の中で、試合途中でプランを変えるという術はなかった。

 だが、残り10分弱、相手が疲れてきたこともあり、SH流を中心に日本代表はボールを継続して攻撃的な姿勢を見せる。36分にはWTB福岡堅樹が持ち前のスピードを見せてトライ、38分にはそのWTB福岡が抜け出し、最後は内をフォローしたSH流がインゴールに飛び込んでトライを挙げて22-50としたところでノーサイドを迎えた。

1週間後の第2戦につながる若手の躍動

©Getty Images

 ほぼベストメンバーだった日本代表にとってはホームでの試合であり、主力が抜けたアイルランドは先週の土曜日、アメリカ代表と対戦して、ニューヨークから空路で移動し、月曜日に東京に着いて中4日で試合だった。そういったことを考慮すると、勝たなければならない試合だったこともあり、選手やファンの顔からは落胆の色は隠せなかった。

 ジョセフHCは最初に、「試合の序盤は相手にプレッシャーをかけていいスタートをしたが得点できなかった。こういった残念な結果になったのは、貪欲で死にものぐるいで勝つ気持ちがたらなかった」とメンタル面の問題を理由に挙げた。

 指揮官はキッキングゲームを貫いたことに関しては「プランを遂行して、自分たちの展開に持ち込めると信じて取り組んだが、できなかった。貪欲さがなかったら大問題なので、プランか選手を変えるかのどちらかだ。そしてゲインができていないとき、何回も攻撃を繰り返してキックするところも、それをチェイスするエネルギーが消耗していたので、誤っていた。そのあたりのバランスも取っていかないといけない」と反省の弁を口にした。

 ゲームコントローラーの一人であり、SHからキックを多用した蹴った田中は「一番残念なのはミスやペネルティーでリズムが作れなかったことで、それで体力が削られた。キックしたボールを使うという全員の意思統一がまだできていない。どっちに転がるか分からないボールをもっと貪欲にいかないといけないし、もっとスマートに戦いたかった」とまたまだ完全にジョセフHCの戦術が選手たちに完全に浸透していないことうかがわせた。

 また個人的には、テストマッチでは長いキックを蹴るときはしっかり蹴るなど、ハッキリしたプレーが必要ではないかと思う。キックを使ってもいいが、負けられない試合でその戦術をどう使うという、戦略の部分でもまだ煮詰まっていない部分も感じた。

 ただ後半だけをみると19-19とイーブンだったことも事実だ。大学生のFB野口やWTB福岡、途中で入ってきたHO庭井、FL松橋、SH流といった若手選手たちが躍動したことは次につながるはずだ。ジョセフHCも彼らを「ハングリー精神、貪欲なプレーを体現してくれた。アイルランド代表という上手い、強いチームにしっかりとチャレンジしてくれた」と称えた。

「非常に残念な結果でしたが、もう1試合できることはラッキーなこと。次の試合に対してどうフォーカスするか。いい1週間を過ごしたい」とキャプテンのHO堀江翔太が言うように、6月24日(土)、日本代表は、東京・味の素スタジアムで、もう一度アイルランド代表と戦う。ラグビーワールドカップの本番まであと2年あまり。再び大敗すれば、この2年間の強化に疑問符がつくことは間違いない。

 2019年を見据えてアイルランド代表との第2テストマッチは、ジェイミー・ジャパンの真価が問われる大一番となる。

斉藤健仁

著者プロフィール 斉藤健仁

1975年生まれ。千葉県柏市育ちのスポーツライター。ラグビーと欧州サッカーを中心に取材・執筆。エディー・ジャパンの全57試合を現地で取材した。ラグビー専門WEBマガジン『Rugby Japan 365 』『高校生スポーツ』で記者を務める。学生時代に水泳、サッカー、テニス、ラグビー、スカッシュを経験。『エディー・ジョーンズ 4年間の軌跡』(ベースボール・マガジン社)『ラグビー日本代表1301日間の回顧録』(カンゼン)など著書多数。Twitterのアカウントは@saitoh_k