文=池田敏明
現在も同じチームに所属する前田遼一
©Getty Images2017年8月2日、FC東京の石川直宏が、今シーズン限りで現役を引退することを自身のツイッターやブログで明らかにした。切れ味鋭いドリブルで多くのファンを魅了したが、近年は度重なるケガに悩まされ、ピッチに立てない日々が続いていた。同日17時からは記者会見を開き、改めて引退を報告。「15年8月(フランクフルトとの親善試合で左ひざ前十字じん帯断裂)から約2年間リハビリを続けていて、貢献できないもどかしさを抱えていました。(今シーズン終了まで)ラスト半年弱、必ずピッチに戻ってもう一度貢献し、自分らしいプレーをしてファン・サポーターが喜ぶ姿を見たいと思い、決断しました」と、引退決断に至る経緯を語った。
石川は1981年5月12日生まれで、現在36歳。サッカー選手としては“大ベテラン”の域に入る選手だが、彼の同級生の中には今も現役で活躍している選手がいる。石川が出場した2001年のワールドユース(現U-20ワールドカップ)、04年アテネ五輪の出場メンバーを中心に、石川の同級生たちの現在地を探ってみよう。
FC東京のチームメートの中では、前田遼一が石川の同級生だ。今シーズンはJ1で14試合に出場(第19節終了時点)、いまだノーゴールとやや苦戦しているが、前線でのターゲットマン、チャンスメーカーとして精度の高いプレーを見せている。
最もやりづらかった相手にあげたのは…
©Getty Images他にJ1でプレーしている選手としては、阿部勇樹と那須大亮(ともに浦和レッズ)、茂庭照幸(セレッソ大阪)、森崎和幸(サンフレッチェ広島)らがいる。阿部は今シーズンも浦和のキャプテンを務め、J1での19試合すべてに先発出場。第14節柏レイソル戦以外はフル出場と“鉄人”ぶりを発揮している。那須はここまで9試合に出場、第19節北海道コンサドーレ札幌戦では後半から出場しながら早々に負傷し、戦線離脱を余儀なくされたが、最終ラインの貴重なバックアッパーとして存在感を放っている。茂庭、森崎和も立場としてはバックアッパーだが、豊富な経験を武器にチームを支えている。
ちなみに、石川は2日午後の引退記者会見で、「やりづらかった相手」として茂庭の名前を挙げている。FC東京でチームメートだった時期もあり、また対戦相手として何度もマッチアップした同級生について、彼は次のように語っている。
「別々のチームになって戦ってみて、改めて彼の良さ、ポテンシャルの高さを感じたし、チームメートだった時に紅白戦をやっていても、彼のずる賢さ、クレバーさ、体の強さ(はズバ抜けていた)。彼は僕の中ではずっとライバル、嫌な相手でした」
また、ジュビロ磐田に所属していた松井大輔は、石川が引退を発表した同日にポーランド2部のオドラオポーレに移籍することを発表した。磐田での今シーズンは出場機会に恵まれていたとは言えなかったが、「挑戦すること、挫折することは自分の財産になる」と、36歳になった今なお尽きることのない向上心を見せている。
J2では多くのアテネ五輪世代が現在もプレー
©Getty ImagesJ2で現役を続けているのは平本一樹(東京ヴェルディ)、佐藤寿人(名古屋グランパス)、田中マルクス闘莉王(京都サンガ)、駒野友一、山瀬功治(ともにアビスパ福岡)がいる。駒野と山瀬はレギュラーとして福岡の躍進を支え、佐藤もここまでわずか1ゴールながら多くの試合に先発出場しているが、圧巻の活躍を見せているのは今年から京都でプレーしている闘莉王だろう。DF登録ながら前線に入る機会が多く、ここまでチームトップの12ゴールを記録。気迫のこもったプレーでチームを牽引している。
すでに現役を退いた選手もいる。森崎和の双子の弟・森崎浩司(元サンフレッチェ広島)は16シーズン限りで現役を引退し、今年から広島の初代アンバサダーを務めている。石川は7月26日のYBCルヴァンカップ、FC東京対広島戦の試合後、自身のツイッターに前田、森崎兄弟との“同級生4ショット”を掲載していたが、森崎浩のツイッターによると、この時すでに引退することを石川本人から告げられていたようで、彼は石川の引退報告へのリツイートとして「この前ルヴァンカップで会った時に聞きましたが、いざこうやって発表されると寂しいですね。同級生の一人がまた引退するという事はそういう年齢に差し掛かってきているんだなぁと実感します」とコメントしている。
同級生ではないが、1984年生まれで現在33歳の成岡翔(アルビレックス新潟)は、引退報告のツイートに対して「長い現役生活お疲れ様でした。自分も膝が良くないのでナオさんの苦労と努力は凄いと常に思ってました。」と返信している。
羽田憲司は12年に引退して現在は鹿島アントラーズのトップチームコーチ、黒河貴矢は16シーズン限りで引退してアルビレックス新潟のアカデミーコーチと、それぞれ現役時代を過ごした古巣で指導者の道を歩んでいる。ワールドユースやアテネ五輪のチームメートではなかったが、鈴木啓太(元浦和)は15シーズン限りで現役を引退し、起業家に転身している。『AuB株式会社』という腸内フローラ解析事業を手掛ける会社の代表取締役社長を務める傍ら、明治大学体育会サッカー部のアドバイザーも兼任。週に1、2回ほどグラウンドを訪れ、学生たちにアドバイスを送っているという。7月17日には埼玉スタジアムで引退試合を開催し、石川もこれに参加して(ケガのため試合には出場していない)同級生の最後の勇姿を見届けた。
サッカー以外の道に進んだ同世代の元代表選手も
©Getty Images現役を退き、サッカーとはかけ離れた道へと進んだ選手もいる。元大分トリニータの高松大樹だ。彼は16シーズン限りで現役を引退すると、翌17年1月に大分市議会議員選挙に立候補。無所属の新人ながら、抜群の知名度を生かして同市議選で史上最多となる1万3653票を獲得し、見事にトップ当選を果たした。議員としてのキャリアはまだ始まったばかりだが、今後が非常に楽しみだ。
石川ら81年度生まれの世代は、小野伸二、稲本潤一、高原直泰ら79年度生まれの“黄金世代”に対して“谷間世代”と言われた時期もあった。しかし、30代半ばを過ぎた今なお多くの選手が現役生活を続け、引退した選手も充実したセカンドキャリアを送っている。石川が送る現役選手としての時間はあと4カ月あまり。その後、どのような道に進むのかは分からないが、彼自身の現役生活はここで紹介した“同級生”たちと同様に輝かしいものであり、また引退後の人生も充実したものになることは間違いないだろう。