本原稿を執筆する前に、Victory編集部の方と話し合いをしていた際、「日本スポーツ界で問題だと思っていることについて何点か伺いたい」と聞かれ、下記のような話をした。

その時の話を元に私なりの見解をここで展開するが、最初に断っておくと、本件は「日本スポーツ」に限ったものではなく、現在および今後の「日本」という国家と社会自体に関わる問題であるということだ。

スポーツを超えた国の教育制度、国民気質、消費者指向・行動、ビジネス慣習などが深く関わってくるからであるが、その中でも「日本」および「日本スポーツ」にとりわけ大きなチャレンジを与えているものは、「人口統計の変化」だ。すなわち、「少子高齢化と人口減」である。

「人口減」の凄まじいまでのインパクトに関して、賢明なVictory読者であれば理解していると思うが、端的に言うと日本は「斜陽国家」であるということだ。少し極端に聞こえるかもしれないが、過去20年以上に渡ってアジア、アメリカ、欧州の5ヶ国に移り住み、愛する祖国日本を海外という窓を通して第三者の目で見続けてきた筆者からすると、残念ながら否定しがたい事実である。

「人口減」ということは、飛躍的な生産性向上がない限りは、経済が縮小していく「斜陽国家」なのである。戦後の「人口増」の時のように右肩上がりであれば、生産性の飛躍的向上がなくても、日本政府が大した策を持たずとも、日本人が得意とする「真面目に頑張る」さえすれば自然と高度経済成長が可能であった。

高度経済成長やバブルに次いだ「失われた30年」自体、日本の政治家や官僚の明らかな失政であるが、それに続く「人口減」は、それ以上の戦後日本最大の失政とも言える。具体的な政策(移民法改正など)を施す様子もなく、このまま放置しておけば、日本の「斜陽化」が進むのは自明である。以前、日本サッカー協会・小倉純二名誉会長に受けたアドバイスを元に、「Population is power!」と様々なところで言って回っているが、まさにその通りなのだ…。

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1)国際的競争力の不足

上記に述べたように、「少子高齢化と人口減」のダブルパンチを受け、かつ飛躍的な生産性向上がない限りは、国内市場の縮小は避けがたい。国内市場の縮小が避けられないのであれば、通常のビジネス論理からすると、海外市場に打って出るのが、スポーツだけではなく多くのビジネスにおいて定石だろう。しかし、現在の日本スポーツのリーグやチームに、海外市場で戦えるだけの実力はあるであろうか?恐らく答えは否であろう。残念ながら、欧州の名門サッカーリーグやチームやアメリカの4大スポーツ(NFL、MLB、NBA、NHL)と比べると、国際的な人気とアピール(ゆえに、競争力)に欠ける。

それでは、そんな状況にある日本スポーツのリーグやチームの国際的競争力(ビジネス面)を上げることに貢献できる財政的基盤(マネー力)や人材(人財)はどうだろうか?これも、国内市場縮小ゆえの金欠に加え、「スポーツビジネス海外組」が今のところほとんどいない現状を見ると、国際的競争力に欠けると言わざるを得ない。

「アジアのスポーツ界ではしょうがない」と言う人もいるかもしれないが、日本同様に国内リーグやチームの国際的競争力に欠ける隣国・中国は、急成長を続ける巨大な国内市場に支えられ爆買いができる。少なくとも、「マネー力」は世界的に見ても強い立場にいる。人財という面でも、例えばAFCはアジアのサッカー協会にも関わらず、各国サッカー協会の会長などを除くプロパー・スタッフの要職であるディレクター級に日本人はいない。アジアと全く関係ない欧米人は何人かいるにも関わらず…。

「ヒト・モノ(この場合、リーグやチーム)・カネ」同様にビジネスに欠かせない「Intelligence(情報)」はどうだろうか? 上記のように、国際的なスポーツ組織中枢もしくは周辺で働く「海外組」が極めて限られており、世界的な「人的ネットワーク」が狭いもしくは弱いため、これも決して優れているとは言えないのが現実なのである。

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2)イノベーションの不足

国内市場の縮小が避けがたい場合は、上記に挙げた「海外進出」に加え、国内においては顧客へのバリュー(=価値)を上げ続ける必要がある。要するに、「イノベーション」が欠かせない。

「イノベーション」と言うと、日本人の場合、何か新しいものを発見・発明するくらいのノリで話している人も見かける。もちろん、新しいモノやコンセプトという意味ではそうなのだろうが、発見や発明などと言って構える必要もなく、「既存のモノやコンセプトに工夫を加え生み出された新たなコンビネーション」といった感じの理解で良いと思う。近代のデジタル社会で大人気のスマホ、iPhone、ソーシャルメディアは、まさにその典型的な例であろう。

それでは、現在の日本および日本スポーツ界の「イノベーション」具合はどうであろうか?これも、上記の「国際的競争力」と同様に、「失われた30年」を鑑みると、不足していると言えるのでは…。長所と短所は陰陽関係にあるとは良く言ったもので、右肩上がりの高度経済成長期を支えた日本の強みであった「減点主義(ゆえに、カイゼン)」、「新卒一斉採用&終身雇用に起因するサラリーマン気質」、「周りに合わせろという同調圧力」が、現代社会においては、短所になっているかもしれない。

“草食男子”などという言葉が流行っているようだが、「安全・安定・安心」志向が強いのは、草食男子に限ったことではなく、「勉強していい学校に行っていい会社に入りなさい」と育てられてきた多くの日本人全般に見られる傾向である。「安全・安定・安心」志向が強いということは、前例(過去の成功事例)踏襲主義となるため、当然イノベーション不足に陥る。

この点において、Jリーグは面白い例だ。20年以上前にJリーグが始まったときは、世界的に見てもセンセーショナルであった。バブル崩壊直後でまだまだ「マネー力」もあったのも事実だが、それだけでなく豪華なセレモニーの演出、派手なユニフォーム、地元密着主義などなど、当時の世界のサッカー界から見ると、極めてイノベーティブであった。世界的には極めて珍しいゴールデンゴール方式なども採用しており、Jリーグは、明らかに「イノベーション」の産物であった。

それでは、20年以上たった今、Jリーグは、世界的に見て未だにイノベーティブであろうか? 確かに、村井チェアマン就任以降は、改革スピードが上がってきているが、「イノベーション」とは言わずとも改革を続けて成長し続ける欧米サッカーの後塵を拝している点は否めない。むしろ、過去20年の成功体験(それは、誇るべき事実であるが)に囚われて、創設時は世界的に見てもパイオニア的だったJリーグの姿は跡形もない。

外資規制撤廃など、簡単に変えられることはまだまだある。「減点主義」社会ゆえ間違いを恐れているのかもしれないが、ゴールデンゴールや2シーズン制がそうであったように、試してみて上手く行かなければ、また元に戻すかさらに制度を変えれば良いに過ぎないのだ。

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3)スピードの不足

「イノベーション」とも関わりが強い、日本および日本スポーツ界が抱える三つ目の問題点は、「スピード不足」だ。稀にイノベーションを起こそうという組織や人材がいても、「安全・安定・安心」志向が強く前例踏襲主義が蔓延る日本の組織内や日本社会においては、「社内外調整」、「稟議」や「根回し」に時間がかかりすぎる。技術革新が急速な勢いで進み変化の速いこのデジタル時代ゆえ、日本的な「根回し」過程が終わってやっとこれから最初の一歩という時には、既にイノベーションがイノベーションではなくなっていることも多々ある。

流行り廃りの移り変わりが早いこの時代には、「スピード」そのものが、Competitive advantage(競争優位性)になるのだ。この点で、日本と対照的なのは隣国・中国である。先に述べた「マネー力」以外に中国が優れているのは、「スピード」だ。国内外に多くの問題を抱える中国であるが、共産党一党独裁のメリットとして、いったん国が決めた時のトップダウンの実行「スピード」は目を見張るものがある。

国自体だけでなく、コーポレートガバナンスが日本ほど行き届いていない多くの会社においても、日系組織のような「合議制」や「稟議」制度とは違い、「トップダウン」型だ。もちろん、日本の長所でもあり短所でもあるモノや仕事ぶり自体の質に関する「安全・安定・安心」に関しては、日本に遥か及ばない。しかし、ことデシジョン・メイキングに関しては、圧倒的な「スピード」を誇る。ゆえに、多くの間違いも犯す。しかし、PDCAを超高速で回し続けるので、多くの失敗を繰り返しながら素早く学び、どんどん成長する訳だ。

iPhoneの大ヒット後に、サムソンがそのライバルとして続いたが、今やサムソンにも当時の勢いはない。コピーキャットと揶揄されながらも、上記のPDCAを高速で回し続け圧倒的な「スピード」を誇る中国メーカーXiaomi、Huawei、Oppo、Lenovo、VIVOなどが、急成長を遂げたからだ。日系携帯メーカーの品質は良いのであろうが、市場を席巻するAppleのような「イノベーション」力、もしくは中国メーカーのような圧倒的な「スピード」には欠けるようである。

筆者は、毎年バルセロナで開催される携帯電話関係では世界最大の規模を誇るコンファレンスMobile World Congress(MWC)を訪問しているが、MWCにおける日中企業のブースの場所や規模を比較して、近年の彼我の勢い(=スピード)の差を痛感せざるを得ない。

日本および日本スポーツ界が抱える問題として、「国際的競争力」、「イノベーション」、「スピード」の不足を挙げたが、それでは今後どうすれば良いのだろうか?

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Go Japan!

一点目に関しては、「なんでも良いから海外に出よう」しかない。上記で見たように、重要な経営資源である「ヒト・モノ・カネ」のモノとカネの面において、当面の日本は分が悪い。ゆえに、国際的競争力を持つ人財の育成が、今後肝要だ。現状、サッカーにおいては、ピッチ上の「海外組」よりもピッチ外の「海外組」の方が圧倒的に少ない。少なくとも、ピッチ外の「海外組」の数が上回るようにならないと勝負にならない。日本の皆さん、「旅、遊び、留学、仕事、恋愛、結婚、永住、なんでも良いからどんどん海外に出ましょう」!

二点目に関しては、「間違いを犯すことを恐れずにどんどん新しいことにチャレンジしよう」。このまま革新をせずに現状維持に頑張るだけでは、上記に述べた「人口減」のため国もスポーツ界も斜陽化してしまうのである。であれば、間違いを犯すことを恐れてもあまり意味がない。「変化すること以外では成長があり得ない」という背に腹は代えられぬ状況にあるのだから、「座して死を待つ」にも似た現状維持を目指すよりは、間違いを犯しても良いから、どんどん新しいことを試した方が良いに決まっている。

三点目に関しては、「この変化の速い時代には、スピード自体が競争的優位性になると認識したう上で、徹底してスピードに拘る」。大企業化と「同質・同意・同調」を重んじるサラリーマン化が進み、上記でも述べたが、日本の組織や社会において「社内外調整」、「稟議」、「根回し」などに時間がかかりすぎる。昔ながらの「日本株式会社」に染まりきってしまった年配の方には酷な要求かもしれないので、少なくとも今後の日本を担う若い世代の人には、いわゆる大企業に固執することなく、ベンチャーやインターネット系会社を目指してほしい。

日本社会とは言ったが、日本の中でもインターネット系の会社は特別で、変化の速い業界故、彼らの「スピード」は凄まじい。日本のプロ野球を見ても明らかだが、日本人離れした「スピード」を誇るインターネット系の会社およびそこで育った人財は、今後の日本スポーツ界にとって益々重要になってくるであろう。

今後の問題が山積みの日本および日本スポーツ界であるが、まだまだやれること(やっていないこと)は沢山ある。業界では有名な筆者の元上司が、言っていた通り、「Change is always good!」。どんどん新しいことにチャレンジしましょう。Go Japan!

<了>


VictorySportsNews編集部