文=VICTORY SPORTS編集部

二段モーションを取られた理由

世を騒がせている西武の菊池雄星投手の二段モーションによる反則投球。2試合連続で球界を代表する左腕が、反則投球を取られ、ファンも巻き込んだ物議の対象となった。

一連の経緯はこうだ。発端は8月17日の楽天戦。2回1死の場面で、菊池は2球連続で二段モーションによる反則投球の宣告を受けた。そこからは応急処置的にクイックモーションで投げ続け、楽天から完封勝利を挙げた。試合後には、8月も半ばになって反則投球を取られたことに、菊池本人、西武サイドは戸惑いを隠せずにいた。

さらに、8月24日のソフトバンク戦。審判団も多大な注意を払っていたのだろう。その日最初に投じたボールで、いきなり同じように反則投球を宣告された。2球目からは楽天戦同様にクイックで投げたが、プロ入りから1度も勝ったことがない苦手ソフトバンク打線につかまり、3回5安打7失点でKOされた。

試合後に審判によって明らかにされたのは、菊池が投球フォームに入り、右足を上げた後、もう1度右足を引き上げる動きが、反則投球に該当するとのことだった。試合後には球団が意見書を提出するなど、波紋がさらに拡大したのだった。

まず、菊池のこの「右足の動き」が、なぜ反則投球となるのか。公認野球規則には、以下のように定められている。

投手は、打者への投球に関連する動作を起こしたならば、中途で止めたり、変更したりしないで、その投球を完了しなければならない。
公認野球規則5・07(a)(1)

審判サイドは、左腕のこの上下する右足の動きが“フォームを途中で止めたり、変更する”動きとみなしたということだ。騒動となった24日のソフトバンク戦から一夜明け、25日にはNPB審判部が見解を表明。これによれば、右足の動きが6月頃から激しくなり、菊池本人には何度か注意をしたものの、改善されなかったことから、この時期での宣告となったというものだった。

当初は突然の宣告、しかも、菊池の右足の動きが5月から出ていたにもかかわらず、3ヶ月半も経ってからの宣告となったことに批判の声も上がった。だが、何度か注意があった上で、それを続けていたが故の反則投球宣告だったことを考えれば、修正しなかった菊池、西武サイドにはもちろん、当初右足の上下動が該当することを指摘しなかった審判側にも落ち度はある。25日の説明により、菊池がフォーム修正に着手することを明らかにした。菊池個人のことに関して言えば、これで一応の決着となるだろう。

そもそも二段モーションは禁止なのか

©共同通信

ただ、この二段モーション問題に関しては、どこかスッキリとしない疑問が残ったままでもある。

1つは、二段モーション自体はOKなのか? ということだ。菊池がこの右足の動きを取り入れたフォームは5月頃から始まっており、審判サイドは6月頃から二段モーションが「激しくなってきた」と説明している。菊池本人にも6月に「規則ギリギリ」と注意していたという。規則を厳格に適用するならば、二段モーションとなっている時点でアウトのはずで、「激しい」か「激しくないか」は関係ない。

ただ、揚げ足取りかもしれないが、これを聞く限り、動きが激しくないならば、二段モーション自体はOKだったとも取れる。規則ギリギリの「ギリギリ」とはどこなのか。激しい、激しくないの線引きはどこにあったのだろうか。あくまでも審判の主観に頼ったものに過ぎないのではないか。

そもそもの二段モーション自体が禁止なのだとすれば、日本のプロ野球界にも、このルールに引っかかりそうな投手は少なからずいるだろう。西武サイドの「雄星だけなのか」という訴えも、仕方がない。二段モーションがダメなのであれば、それに該当する選手も反則投球を取られなければなるまい。その部分の差異は、明確にされなければならない。二段モーションは是なのか非なのかということともに、その疑問は残ったままではないか。

二段モーションの禁止が厳格化されたのは、野球の国際化方針が打ち出されたことから、2006年に始まった。アテネ五輪やWBCといった国際舞台がある中で、アマチュア団体からの長らくの要請もあって、一時、厳しく取り締まられるようになった。だが、それも、しばらくしてからは、再び緩んでいた感がある。

国際化とはいえ、メジャーでは二段モーションに関しては、ほぼノータッチ。メジャーで取り締まられるのは、投球動作を途中で止めるストップモーションであって、一連の流れ、つまり投球動作が止まっていなければ、不問である。コリジョンルールのように、国際ルールに準じることを目指すのであれば、今回の二段モーション騒動も、日本国内だけの独特なルールで、国際化と逆行している。

そもそも、この一連の動作でなければいけないというのは、投手が恣意的にフォームを止めたり、変更させて打者のタイミングを外す行為を禁ずるためのものだろう。ただそれを言えば、走者がいないのに、クイックで投げるのも、タイミングを外す1つだろう。メジャーではとんでもない投げ方をする投手だっている。現代の野球は、あの手この手で選手のタイミングを外すことも、投手と打者の間の駆け引きとなっている。現行の二段モーションを禁ずるのではなく、メジャーのように一連の流れで、動作を止めない範囲であれば、OKという形でいいではないか。

今回の菊池の右足の動きは、軸足に体重をしっかりと乗せ、タメを作るために考え出したもののはずであり、そこに作為的な意図はなかっただろう。厳格過ぎる規定は選手のパフォーマンスにも影響する。それは、野球界、野球ファンにとって損失となる。

今回の二段モーション問題は、前時代的で、線引きが曖昧なルールが引き起こしたものではないだろうか。人がルールに合わせるのではなく、ルールが時代に合わせて形を変えていっていい。この野球規則が定められたのは、遥か昔のこと。そこから野球の形も、プレーの質も変わってきている。今回の一件をこのまま終わらせてはいけない。今、ルールを見直すべき時にきているのではないか。

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8月3日、西武ライオンズの菊池雄星は日本人左腕史上最速となる158キロの一球を投じた。「腕が壊れても最後までマウンドにいたかった」。高校時代の菊池はそう話したというが、彼がキャリアを棒にするような負傷をしていたら、この新記録は生まれていなかった。菊池がそのキャリアをささげてもいいと口にした甲子園という舞台。その光と闇を、野球ライターの氏原英明氏が綴る。

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