夏の覇者・花咲徳栄で2年生ながら全試合4番を務めたのは

来年、夏の甲子園は記念すべき100回大会を迎える。参加校は史上最多の全国56校。優勝校に授与される深紅の大優勝旗も3代目となり、まさに「新時代の幕開け」にふさわしい大会を目指すことになるだろう。

今年の高校野球界は、高校通算本塁打記録を更新したばかりの清宮幸太郎(早稲田実業)に注目が集まり、彼が出場を逃した甲子園ではあの清原和博(元PL学園)の記録を更新する1大会6本塁打を記録した中村奨成(広陵)というニュースターを生み出した。

果たして、来年行われる記念大会でも清宮、中村のように全国の高校野球ファンを熱狂させる球児は現れるのか。

夏の覇者、花咲徳栄は甲子園全6試合で61得点と、1試合平均10得点超えの強打を武器に頂点に立った。その強力打線で2年生ながら全試合で4番に座ったのが野村ジェームス佑希。両親はともに日本人だがアメリカ出身のため、二重国籍を持つ。185センチ、87キロという恵まれた体格を誇り、甲子園では打率.520を記録、2本塁打を放って存在感を発揮した。また、投手としても最速144キロを記録するなど、そのポテンシャルは早くもプロから注目されている。同校が目指すことになる甲子園3季連続優勝、夏の大会連覇には、彼の投打の活躍が不可欠となるだろう。

センバツ覇者の大阪桐蔭には多くの逸材が

共同通信

「ミレニアム世代」に多くの逸材をそろえるのが、センバツ覇者の大阪桐蔭だ。3回戦で仙台育英に敗れた瞬間、マウンドに立っていた2年生投手・柿木蓮は、今春センバツで全国デビュー。夏はエース・徳山壮磨に次ぐ2番手の座を確保し、府大会4回戦では8連続奪三振を奪うなど、2年生とは思えない投球を披露した。甲子園では初戦でのリリーフ登板を経て、3回戦で先発。8回まで仙台育英打線を完封するも、9回裏に「衝撃」のサヨナラ負け。試合終了後に見せた涙は、必ず来年へと繋がるはずだ。

背番号10ながら、甲子園2、3回戦で同校の4番に座ったのが根尾昂。中学時代からその名を全国に轟かせた逸材で、投手として最速148キロを誇るほか、内外野もこなす「三刀流」で話題となった。上背こそ177センチと決して大柄ではないが、卓越した運動能力と野球センスは誰もが認めるところだ。

1年から名門・大阪桐蔭でレギュラーの座をつかみ、今や不動の1番・中堅に座る藤原恭大も「ミレニアム世代」の現2年生。今春センバツでは決勝で2本の本塁打を放つなど、華々しい全国デビューを飾った。月並みな表現かもしれないが「走攻守、三拍子そろった逸材」という表現がぴったりの好素材だ。

大阪桐蔭には彼らのほかにも、内野手の中川卓也、山田健太、投手では190センチの大型左腕・横川凱といった「プロ注目」選手がそろっており、早くも来年の「優勝最有力校」に推す声は非常に多い。夏の甲子園で敗れた際、誰も甲子園の砂を持ち帰らなかった彼らからは「来年も甲子園に帰ってくる」という強い意志を感じた。

(編集部注:写真は左から、根尾昂、柿木蓮、藤原恭大)

名門・横浜には将来性ナンバーワンの素材も

「西」の大阪桐蔭の対抗馬として挙げられるのが、神奈川の名門・横浜だ。その中でもピカイチの素材といわれるのが、コンゴ出身の父を持つ万波中正。大阪桐蔭の根尾同様、中学時代からその才能は高く評価され、同校でも1年からレギュラーの座を獲得。190センチ、89キロの体躯は、見た目からして「規格外」。高い身体能力にパワーを兼ね備える強打者としてはもちろん、投手としても最速146キロを記録する。今夏は技術面での脆さも垣間見えたが、将来性でいえばミレニアム世代でもナンバーワンといっていい。

万波とともに1年から公式戦に出場を続けているのが、長南有航。今夏県大会ではレギュラーとして打率.400、3本塁打を記録し、チームの甲子園出場に貢献したが、本大会1回戦ではまさかのスタメン落ち。チームも敗れ、甲子園に大きな忘れ物を残す結果となった。最上級生となる来年は、不動のレギュラーとしてチームを率いることになるだろう。

横浜は甲子園初戦のスタメン9人中、5人が2年生以下で、先発を外れたエース・板川佳矢も2年生。さらにはベンチ入り18人中、7人が2年生、5人が1年生と非常に若いチーム。彼らが上級生となる来年は、県制覇はもちろん、あの松坂大輔を擁した80回大会以来、20年ぶりの夏制覇も期待される。

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メディアから「忍者」の称号を得た遊撃手

西東京大会決勝で清宮擁する早稲田実を下し、甲子園でもベスト4に進出した東海大菅生からは、遊撃手・田中幹也の名前を挙げたい。その魅力は、なんといっても卓越した守備力。三遊間の深いところから見せる一塁へのジャンピングスロー、捕球から送球までの速さ、なにより「なぜ、そこにいる?」と思わずにはいられない広い守備範囲&ポジショニングの妙で、メディアからは「忍者」の称号を得た。ちなみに、監督は「敬意を込めてサルと呼んでいます」という。

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甲子園未出場組にも、逸材は多い。早稲田実・清宮と1年次から3、4番でコンビを組んだ野村大樹は、上背こそ172センチと小柄な部類だが、全方向に長打を放てるパンチ力が最大の武器。なにより、1年から名門校の4番に座り続ける「経験」と「精神力」は、同世代でも頭ひとつ抜けている。今夏はチーム事情で捕手にコンバートされたが、新チームでどのポジションを任されるかにも注目したい。

今夏、同校のエースとして西東京大会準優勝の立役者となった雪山幹太も要注目。春までは捕手を務めたが、投手不足のチーム事情から夏直前で緊急コンバート。そのまま全試合をひとりで投げ抜き、チームを決勝まで導いた。投手としての能力は未知数だが、コンバート2カ月で結果を残したことからも「大化け」の可能性は十分。チームメイトの野村同様、新チームでの起用法にも注目したい。

兵庫の名門。報徳学園で1番遊撃を務める小園海斗も注目選手のひとり。1年春からベンチ入りを果たし、今春センバツで全国デビュー。4試合で打率.500、1本塁打を放つ活躍でチームをベスト4に導いた。中学時代には全国大会、世界大会で優勝の経験を持ち、高校でも頂点を目指す。

彼ら以外にも、ここでは書ききれないほどの逸材がひしめく「ミレニアム世代」の球児たち。彼らが生まれたのは、松坂大輔擁する横浜が春夏連覇を達成した2年後で、イチローがメジャー移籍を果たす1年前。物心ついた頃には、日本人が世界の舞台で活躍するのが当たり前となっていた世代でもある。

「世界基準」が常識となっているニュージェネレーションたちが、地方大会、甲子園の舞台で躍動する第100回大会――。

決して、気の早い話ではない。各チームはすでに新チームとしてのスタートを切っているうえ、秋季大会も各地で続々開催される。

「1年後」など、あっという間に訪れる。

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花田雪

1983年生まれ。神奈川県出身。編集プロダクション勤務を経て、2015年に独立。ライター、編集者として年間50人以上のアスリート・著名人にインタビューを行うなど、野球を中心に大相撲、サッカー、バスケットボール、ラグビーなど、さまざまなジャンルのスポーツ媒体で編集・執筆を手がける。