文=高崎計三

海外初挑戦で最高の試合を見せた井上尚弥

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井上尚弥が9月9日(現地時間)、アメリカ・カリフォルニア州カーソンのスタブハブ・センターにおいて挑戦者のアントニオ・ニエベス(7位/アメリカ)を6R終了時TKOで下し、WBO世界スーパーフライ級王座6度目の防衛に成功した。

“日本の宝”井上は海外でのリングはこれが初めて。何かと勝手が違うはずの試合でも、何ら問題ではなかった。鋭いジャブでプレッシャーをかけここぞという局面ではスピーディなコンビネーションを繰り出す姿に、1R終了時にはほとんどの観客が王者の勝利を予想したに違いない。2R前半にはロープ際に釘付けにし、同終盤には右ストレートから左ボディでぐらつかせる場面も。

以後は下がるニエベスを井上が追うという展開が大半を占め、時折見られていたニエベスのパンチも減少の一途。4Rこそ打開を期して前進してきたニエベスだったが逆転の糸口を掴むことはできず、終盤にはやはり追われる展開に逆戻り。そして5R中盤過ぎ、ロープ際に追い詰めた井上が左ボディを炸裂させるとニエベスはヒザをつきダウン。ここは立ち上がったニエベスだが、以後は防戦一方。次の6Rもほぼ井上のワンサイドで終えたところでニエベスのセコンドが棄権の意志を表明し、井上の勝利が決定した。

メインではローマン・ゴンサレスが初のKO負けを喫す

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この日の大会はその名も「スーパーフライ」と銘打たれ、スーパーフライ級の世界の強豪による3大マッチが組まれた。井上のWBO世界戦はセミ。メインでは“ロマゴン”の略称で知られるローマン・ゴンサレスが王者シーサケット・ソールンビサイとのダイレクトリマッチに挑むWBC世界同級タイトルマッチ、さらにカルロス・クアドラスVSファン・フランシスコ・エストラーダのWBC世界同級挑戦者決定戦にして元王者対決だ。

3月にシーサケットに敗れるまで同級最強の怪物として知られたゴンサレスとの競演に、ともに勝っての直接対決を期待する声もあったが、井上が盤石の強さを見せつけた直後のメインでは衝撃的な結末となった。シーサケットの右フックに大の字となり、ゴンサレスが48戦目にして生涯初のKO負けを喫したのだ。

「モンスター」という現地での異名通りの勝利を見せた井上のアメリカ・デビュー、そして「ロマゴン時代」の終焉を決定づけた衝撃KOと、時計の針は一気に動いた。アメリカのボクシング・マニアの集まる掲示板を覗くと「モンスターの登場だ」「何という左ボディ!」「ニエベス、逃げてー!」と井上のファイトを絶賛する声が続々。ナオヤ・イノウエの存在は完全に認知されたと言っていいだろう。

今後“モンスター”の進む道は、ゴンサレスへの連勝で改めてその実力を証明したシーサケットとの決戦へと向かうのか、それとも……。シーサケットは、挑戦者決定戦に勝利したエストラーダと井上、どちらに興味があるかとの質問に「誰でもいい」と返答。しかしシーサケットとて井上の存在は無視できまい。

またここから望みたいのは、井上が国内でもさらなるスーパースターとして迎えられることだ。かつてないほど日本人世界王者の数が増え、黄金時代ともいわれるボクシング界だが、その中でも井上への注目度は群を抜く。このアメリカ・デビューを機にさらに認知度が上がり国民的なスターにまでなれば、日本ボクシング界にまた新たな時代が到来することだろう。24歳、まだまだ上り調子の彼がどこまで上り詰めるか、その行く末を期待を持って見守りたい。

井上尚弥は、なぜ圧倒的に強いのか? 大橋秀行会長に訊く(前編)

さる5月21日、WBO世界スーパーフライ級2位のリカルド・ロドリゲス(アメリカ)にTKO勝ち。WBO世界スーパーフライ級王座の、5度目の防衛に成功した井上尚弥。その衝撃的な強さの秘密はどこにあるのか? 井上を育てた大橋ジム・大橋秀行会長に伺った。

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高崎計三

著者プロフィール 高崎計三

編集・ライター。1970年福岡県出身。1993年にベースボール・マガジン社入社、『船木誠勝のハイブリッド肉体改造法』などの書籍や「プロレスカード」などを編集・制作。2000年に退社し、まんだらけを経て2002年に(有)ソリタリオを設立。プロレス・格闘技を中心に、編集&ライターとして様々な分野で活動。2015年、初の著書『蹴りたがる女子』、2016年には『プロレス そのとき、時代が動いた』(ともに実業之日本社)を刊行。