文=VICTORY SPORTS編集部

リオでの悔し涙から1年、ライバルに完勝した奥原

©Getty Images

この1カ月で実に3度目の対戦だった。バドミントン女子シングルス世界女王の奥原希望と、同じ22歳でリオデジャネイロ五輪銅メダルのシンドゥ・プサルラ。8月27日の世界選手権決勝で2時間近くに及ぶ激闘を演じたライバルは、9月17日の韓国オープン決勝で再戦した。そしてわずか4日後、今度は奥原のホーム日本で相まみえることとなった。お互いに1回戦を突破すればまた当たると分かっていた大会前の記者会見でも、2人は〝蜜月〟っぷりを冗談めかし笑いあっていた。

韓国では世界選手権を彷彿とさせる〝マラソンマッチ〟の末に、プサルラにリベンジを許した。それでも奥原の表情には充実した笑顔が広がり「この2試合はとても楽しかったので次も楽しみな気持ち。同い年のライバル関係が続けばいい」と話した。だからといって連敗はできない。ましてやジャパン・オープンは年に1度しかないホームゲーム。「日本のファンの皆さんがテレビで見てくれた試合を、生でお見せできてうれしい」。奥原の気合の乗りは、ひと味違った。

21点ゲームの第1ゲームは優位に進めた。シンドゥは長身な上に手が長く、予想を上回る角度で落ちてくるスマッシュが最大の武器。それでもさすがに目が慣れてきたのか、奥原は丁寧に拾って振り回していた。15-11と少し多めのリードで「(第1ゲームの)勝ちを意識した」と5連続失点で一時逆転はされたが、しっかりと集中し直し、奥原も5連続得点で再逆転して第1ゲームを先取した。試合後は「勝敗を分けたのは第1ゲームの終盤。きっちりと取り切れたのが大きい」と自賛した。

第2ゲームになるとプサルラの気力がしぼんでいくのが明らかだった。無理もない。粘り強く、しつこく、うるさい奥原から2ゲームを連続して取り返すことがいかにしんどい作業であるかは、今世界で一番知っているのだから。リオで銅メダルを取る前に逆戻りしたかのように、単純なミスを連ねる。奥原はそれに付き合うことなく厳しい配球を続け、わずか8点しか与えず一蹴した。

世界選手権から重ねたゲームは八つ。奥原から見て(21-19、20-22、22-20)(20-22、21-11、18-21)(21-18、21-8)。ついにストレートで勝負が決まり、点差も付いた。ではこれでプサルラを完全攻略したのかと問うと、それは即座に否定する。「点差ほどの力の差はない。次はどうなるか分からない」。

改めて思い返せば、奥原から見た〝因縁〟の始まりはリオ五輪の準決勝だ。準々決勝で山口茜(再春館製薬所)を倒して4強に進んだ奥原は、準決勝でプサルラに完膚なきまでにたたきのめされた。3位決定戦の相手が負傷棄権して手に入れた銅メダルを見ながら、悔し泣きしたのは1年前。しかしプサルラからすれば、物語はもっと長い。同世代のジュニア世界一の奥原は、越えられない壁だった。持ち味の攻撃を磨き上げ、ひっそりと奥原対策も練り、世界のトップポジションに駆け上がった。鉄壁を誇る奥原との〝矛と盾〟のようなライバル関係は、これからも続いていく。

奥原の金が日本バドミントン界に与えた刺激

一方、奥原の快挙は日本チーム全体にも刺激となっている。世界のトップ選手が勢ぞろいし、世界選手権と遜色ない名前が並ぶジャパン・オープン女子シングルスで、8強に日本勢が4人、勝ち進んでいる。奥原、山口、高橋沙也加(日本ユニシス)に大堀彩(トナミ運輸)だ。

大堀は奥原と山口に挟まれた世代の20歳。奥原らとのライバル関係は、選手である限りつきまとう。「先輩(奥原)の金メダルは見ていて『すごいな』とまず思った。一緒に練習していても、常に何か自分との違いを感じている」と現状の差は率直に認める。その上で「トップに立つ1人が出ると『続いていこう』となる。だから今は少し勝っても『まだ上がいるから』と思えて、常に満足せずにやれている」と相乗効果を口にした。

女子だけではない。男子の選手も口々に「女子だけじゃないってところをみせてやる」と言っている。ダブルスで世界ランキング4位のソノカムこと園田啓悟、嘉村健士組(トナミ運輸)も例に漏れない。シングルス勢も合わせて男子のリーダー的存在の嘉村は「僕らが速くてアグレッシブで面白いダブルスをお見せしたら、男子に目を向けてくれる人がいるはず」と熱っぽく語る。実際に男子ダブルスも8強に二つが残った。シングルスのエース西本拳太(トナミ運輸)も敗れはしたが、世界王者のビクター・アクセルセン(デンマーク)に善戦し存在感を示した。奥原、あるいはリオのタカマツから始まったいい波は今、日本チーム全体に波及している。

リオのリベンジ達成で世界女王に 「世界一しつこい女」を証明した奥原希望

第23回バドミントン世界選手権は8月27日に大会最終日を迎えた。女子シングルスの決勝に臨んだ日本の奥原希望は、リオデジャネイロオリンピックの銀メダリストであるシンドゥ・プサルラ(インド)を破り、大会初優勝を成し遂げた。日本人史上初となる同種目の金メダリストは、いかにして誕生したのか。

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