1時間50分の熱戦の末に誕生した日本人女王

バドミントンの母国、英国のファンが総立ちになった。世界選手権の女子シングルス決勝。1時間を超えると長い部類に入るバドミントンの試合で1時間50分を戦い抜き、奥原希望(日本ユニシス)が日本に初めてシングルスの金メダルをもたらした。単複を通じても1977年第1回大会の女子ダブルス以来2度目の快挙。〝I'm very happy!〟コート上のインタビューでは英語で受け答えし、万雷の拍手を浴びた。

全5試合のうち、3回戦を除く4試合がフルゲームだった。「体力勝負なら負けない」。156.8センチの小さな体を目いっぱいに使ってシャトルを拾い続け、相手の心身のスタミナを奪い尽くして勝ち上がった。準々決勝ではリオデジャネイロ五輪チャンピオンで世界選手権3連覇を目指したカロリナ・マリン(スペイン)を撃破し、決勝では自身がリオの準決勝で完敗したシンドゥ・プサルラ(インド)にリベンジ。正真正銘の世界一だ。

特にプサルラは大会前から意識する存在だった。同じ1995年生まれでジュニア時代から知るが「昔は勝手にミスをしてくれた」と苦手意識はなかった。ところがリオ五輪の準決勝。リーチが長く身長179センチの数字以上に高さを感じる攻撃を浴び、奥原自慢の守備は打ち砕かれた。第2ゲームは10―10から11連続失点で敗北。脳裏に焼き付く苦い思い出となった。

この大会前、インタビューで「誰のどのショットが嫌か」と聞くと、奥原は「シンドゥの捨て身スマッシュ」と即答した。ここ3年女子シングルスのトップに君臨するマリンのアタックではないのかと聞き返すと「マリンのショットは全て私の想像を超えない。でもシンドゥのスマッシュは予想を超えたところに突き刺さる」と語った。それほどまでに警戒する相手とのリベンジマッチが世界選手権の決勝で実現したのだから、負けず嫌いの奥原が燃えないはずもなかった。

苦しさの先にある楽しさを実感

©共同通信

試合序盤は、奥原が「捨て身スマッシュ」と呼ぶプサルラのフォアからのクロススマッシュがノータッチで決まることもあった。しかし1年前のように気持ちよく打たせ続けはしない。ネット前への配球を意識的に増やし、強打を封じ込めにかかる。無理に打ってきても粘り強く返球し、長いラリーへと引きずり込んでいった。

第1ゲームを先取し、第2ゲームも優勢だった。だが後半、勝ち急いだようにプラン外とも言える攻めを見せ、何度かスーパーレシーブを食らって奪い返された。最後は73本続いたラリーを落とし、コートにひっくり返るほど疲弊していた。

だが疲れているのはプサルラも同じ。「最終ゲームはどう終わるか想像もできなかった。すごく苦しかったが、11-9で折り返したあたりで(苦しみの)向こう側にいって楽しくなってきた。そうしたら相手が苦しんでいるのが見えてきた」。

自分史上2番目だというロングマッチを通じて、奥原の長所がさらに光を帯びていく。15-15から先行されて17-19までいっても「焦らずにやるべきことを徹底してできた」と振り返る。攻め急がずにシャトルを回しながら、相手の捨て身の攻撃はしっかり拾って、最後の最後で差し切った。かねてから自称してきた「世界一しつこい女」を世界中に知らしめる、まさに奥原のゲームだった。スタンドにいながら強烈に感じられたのは、大接戦のスコアとは裏腹に、奥原が負ける画が思い浮かばないほどの安心感だった。

日本ユニシスの坂本修一総監督は、普段の練習姿勢に力の源があるとみている。「(同僚の高橋や松友を含め)選手の練習への姿勢を疑問に思うことはあるが、奥原だけはこれまで1度もない。彼女の練習態度は誰もが認めるところ」。全てのメニューを1から100まで全力でこなし、自らを追い込み抜く。その積み重ねが、音を上げたくなる我慢比べにことごとく勝利する要因なのだ。日本代表の朴柱奉監督も「奥原は今その瞬間の練習相手ではなく、世界のトップを頭に描いて練習をしている。自分で自分をプッシュできる」と同意する。むしろやりすぎてけがをしないように手綱を締めるほどだという。

リオ五輪後に生命線の右肩を負傷し、昨年12月の全日本総合選手権は2回戦の試合途中で棄権となった奥原。違和感なくプレーできるようになったのはこの春で、今季は2020年東京五輪に向けて体をしっかり作り直す時期と捉えていた。その中で力みすぎずにつかみ取ったワールドチャンピオンの称号は、ツアー年間女王、伝統ある全英オープンと合わせて三つ目のビッグタイトルだ。「世界女王というのはすごく特別なポジション。でも目標はここではない」。残るはオリンピックの金メダル。これからもおごることなく、朝イチの練習から全力で走り続けるのだろう。

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VictorySportsNews編集部