最終節で実現したかつての「ナショナルダービー」
勝てば連覇を達成する鹿島を、磐田がホームのヤマハスタジアムに迎えたリーグ最終戦。冬の澄んだ空に陽光がきらめく好天の下、スタンドはパンパンに膨れ上がり、メディア席は満席に。ピッチ脇には無数のカメラがひしめき、試合前は王手をかけた大岩剛監督だけではなく、磐田ベンチの名波浩監督にも多くが向けられた。
磐田と鹿島は、かつてJ王座をめぐりしのぎを削った往年のライバル。鹿島はJリーグ発足から優勝に絡まないシーズンの方が珍しい名門。磐田は97年のJ初制覇をステップに強豪の地位を確立し、01、02年には連続年間わずか3敗とJを席巻する強さを見せた。
2強時代に『ナショナルダービー』といわれたカードに優勝がかかるという因縁めいた状況は、両チームのサポーターやマスコミを少なからず刺激しただろう。加えて、大岩監督と名波監督は同い年で、高校サッカーの雄、清水商業高校でタイトルを欲しいままにした盟友。大岩監督は00年から02年まで磐田のDFとして活躍している。それぞれクラブの新しい歴史を作ろうとしている同窓の青年監督の対決としても、この一戦は注目を集めた。
磐田にとって、鹿島は常に行く手を阻む高い壁だった。鋼の強さを見せた01、02年に至る前、そのパスサッカーは鹿島の速さと屈強さ、ひと呼吸ほどの集中の乱れも見逃さない勝負強さに打ち砕かれてきた。「何度煮え湯を飲まされたことか」と言う名波監督は、強豪への階段を登る過程で、中心選手として鹿島の強さを肌で感じてきたひとりだ。
14年途中からJ2を戦う磐田を預かり、一からの立て直しを図っている今、名波監督は、強化スタイルを貫き常勝を維持している鹿島を、日頃から「目標であり憧れであり、そして一番勝ちたい相手」と言い、リスペクトを隠さない。今季5月末に大岩監督が就任すると、鹿島は機首を上げ連勝し9戦負け無し。同じ時期に磐田は6連勝をしたが、その頃は「大岩より先に負けたくないね」と、冗談めかしながらもライバル心を口にしていた。
そうしたいきさつからすれば、鹿島の優勝を阻んだのは、磐田の『意地』と見られるかもしれない。無論、ホームでの相手の胴上げを阻止したい気持ちは強かったに違いない。しかし、それを実現させた最も大きな要因は、むしろ相手がどこであろうと、今季躍進をみせた自分たちのサッカーで最終節を勝利で終え、来季につなげることに、指揮官も選手もフォーカスしていたことだろう。
大一番を前に名波監督が見せたマネジメント
©Getty Images名波監督は、就任と同時に『攻守に自分たちからアクションを起こし人もボールも動く攻撃的なサッカー』を標榜。勝敗だけに拘泥せず、結果を急がず、試合内容や「息子たち」と呼ぶ選手の成長を重視し、長期的視野で愛するチームをレベルアップさせてきている。そうした中で、今季はとくに守備が充実。いち早く危ないところを消し、中を締めて相手に縦パスを入れさせない硬さだけではなく、決して下がらず受け身にならず、バランスを保ちながら攻撃も守備も、前へ仕掛けるアグレッシブさが、完封試合や好ゲームを支えてきた。セットプレーからの得点力のみならず、攻守をコントロールする卓抜したスキルと頭脳を持つ中村俊の加入とともに、目指すサッカーの土台ができてきていることが、昨季の13位から6位へとジャンプアップした理由だ。
波はあったが、終盤にきて磐田はシーズンがここで終わるのは惜しいと思わせる好調さをみせていた。前節のサガン鳥栖戦も持ち味を発揮して快勝。試合前々日の紅白戦は、レギュラー組とサブ組に分けることが多いが、名波監督は「全員がレベルが高い状況だから、その温度を変えない方がいい」として、鹿島戦の前はメンバーをシャッフルして実施。言葉通り、締まった空気の中で、全員が質の高いパフォーマンスをみせ、今季一といっていいハイレベルなゲームが展開された。
好戦績に緩まないように手綱を締め、上位にも下位にも常にチャレンジャー精神で戦うことも、今季指揮官が注力してきたことだ。鹿島にはアウェイ戦で3得点完封勝利を収めている。しかし、試合内容には満足しておらず、その後鹿島が首位を走り続けたこともあり、「まったく参考にならない」と、強調していた。監督はまた、選手たちに「最終戦を集大成と考えるな」と伝えている。つまり、特別に意識するのではなく、途上の一戦と考え、その先に繋がる戦いをしろ、ということだ。
「すべては来季に繋がる。この一戦も勝ちたいに決まっているが、勝敗は別として来季に向けてどれくらい成長したかを見はかれるゲームでもある。観ている人たちが、これならずっと観ていても飽きないと思えるゲームができればいいと思う」。決戦を前に名波監督は、そう語った。
かくして選手たちは誰一人、敗れればホームで優勝セレモニーを観なければければいけない状況を、ネガティブにとらえてはいなかった。逆に、絶対に負けられない状況で乗り込む鹿島は、自分たちの現在地を知ることができるまたとない相手と歓迎。王者にすべてをぶつける挑戦者として、磐田はホームのピッチに立ち、そして躍動した。
躍進の磐田、シーズン最終戦で見えた希望
©Getty Images力みも気負いもなく、『意地』に乱されることもなく、純粋な闘志を力に、選手たちは立ち上がりから前へ前へアグレッシブな攻守をみせた。対して鹿島は、精彩を欠いた。前半シュート1本。のしかかっていただろう重圧は差し引かなければならないが、それにしても“らしく”なかった。緊張からかどこか硬く、磐田の勢いに気押されたようにも見えた。王者が地力をみせたのは後半に入ってから。75分を過ぎから、磐田は猛攻を浴び、何度もピンチを招く。だが、鹿島のその時間帯の勝負強さも、想定済みだった。「他のチームは終盤にバランスを崩すことがあるが、鹿島にそれはない。それどころかむしろ80分過ぎから研ぎ澄まされるぞ」。名波監督がそう言い続けたことも奏功し、選手はさらに集中を高めてゴールを割らせなかった。
ピッチに倒れ込み泣きじゃくる鹿島の若きボランチ三竿健斗を慰め、抱き起こした中村俊輔は、2013年に横浜F・マリノスで同じ経験をしている。最終節の前のホームで勝てばそこで優勝が決まっていたが逃し、アウェイの最終戦で敗れて悔し涙にくれた。その中村俊は、「相手がこの試合にかけるものもわかるし、鹿島はどんなに重圧がある難しい状況でもアグレッシブに鹿島らしく来ると想定していた。それならば、それ以上のアグレッシブさで闘わないといけないという思いで最初からぶつかっていったことかよかった。シーズンを通じて積み上げてきた前へ前へという気持ちとプレーが、守備で出ていた」と、試合を振り返った。
磐田はこの試合でリーグ戦通算14回目の完封を飾り、通算30失点で鹿島と競っていたリーグ最少失点を達成した。昨季の50失点と比べると、快挙とも言える記録だ。だが、試合後の選手の表情からみてとれたのは、喜びや安堵ではなく、勝てなかった悔しさだった。
「相手の優勝を防いだことよりも、引き分けだったということが残念。6位については、来年に向けての良い準備が出来たのかなと思っている」と、FWの川又堅碁。「リーグ最少失点はでき過ぎの部分もある。結果はよかったが、守備の手応えは足りない。もっと自分たちからアクションを起こしたいし、もっとラインを押し上げたい。それを来年の課題にしたい」とDF高橋祥平。アディショナルタイム、一気に駆け上がってゴールを狙うプレーでスタンドを沸かせたディフェンスリーダーの大井健太郎は、「鹿島の方が強かった。相手の方がボールをとられないし、ウチの方がミスで失うことが多い。まだまだある差をしっかり認めてこの試合を来季につなげたい」と語った。
磐田は、強豪の座を目指す長い歩みの途上。しかし、躍進のシーズンの最後の試合は、その先で、再び鹿島と頂上決戦であいまみえる日を期待させるに充分な好ゲームだった。
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