番狂わせが起こりやすいサッカー

サッカーは番狂わせが起こりやすい競技だと言われる。日本がコロンビアを撃破すると予想していた人は、その逆の結末を予想していた人間に比べて少数派だったはずだが、相手の中軸を担うハメス・ロドリゲスのコンディション不良によるベンチスタート、開始3分のPK獲得と相手の退場など、様々な要因が絡み合ってジャイアントキリングにつながった。

W杯の歴史を振り返ると、過去にも様々なジャイアントキリングが発生している。2014年ブラジル大会でのコスタリカの大躍進は記憶に新しいところだろう。グループステージで同居したのは、いずれも大会優勝経験のあるウルグアイ、イタリア、イングランドの3カ国。“死の組”とは評されていたが、この3カ国の争いとなり、コスタリカからどれだけゴールを奪えるかが突破のカギを握ると思われていた。しかし大会が始まると、コスタリカはウルグアイ、イタリアを撃破して早々にグループ突破を決めてしまう。続くイングランド戦でも引き分けて堂々の首位通過を果たすと、ラウンド16ではユーロ2004王者ギリシャ、準々決勝では2010年大会準優勝国オランダと、いずれもPK戦までもつれ込む熱戦を演じてみせた。最後はオランダの前に力尽きたが、統制の取れたハイラインでオフサイドの山を築いた5バックとボール奪取後の鋭いカウンターを武器に強豪国と渡り合う姿は痛快だった。グループステージで苦汁を味わったウルグアイもイタリアも、コスタリカを過小評価していたわけではないだろうが、当初の分析では自分たちより実力で勝っているという結果は出ていなかったはずだし、どこかに慢心があったと言われても否定はできないだろう。

2010年南アフリカ大会では、“キリング”ではなかったものの、ニュージーランド代表の戦いぶりが注目を集めた。28年ぶり2度目のW杯出場、しかも選手の大半がノンプロやアマチュアという構成ながら、2006年ドイツ大会王者イタリア、そして曲者のスロバキア、パラグアイといずれも引き分ける健闘を見せた。体を張った守備でゴールを守り、攻撃は前線へのロングボール一辺倒という不格好な戦い方ではあったが、スロバキアとイタリアからは得点も奪っている。残念ながらグループ突破はならなかったが、出場国の中で唯一、黒星を喫することなく大会を去ったチームとしても記録されることになった。

2002年日韓大会では、オープニングゲームでサプライズが起こった。初出場のセネガルが、1998年フランス大会王者のフランスを下したのである。フランスは大会直前、ジネディーヌ・ジダンが韓国とのトレーニングマッチで負傷するアクシデントに見舞われていた。絶対的司令塔を失った王者は攻撃の形を作れず、攻守に統制の取れたセネガルの前になすすべなく敗れ去ってしまった。

この日韓W杯では韓国がイタリア、スペインを下したが、これを“ジャイアントキリング”と評していいかどうかは意見が分かれるところだろう。2試合とも得点にかかわる明らかな誤審が複数あり、それが勝敗に影響を与えた。VAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)システムが導入された今大会であれば、結果は違ったものになっていたはずだ。

映画にもなったジャイアントキリング

もう少し時代を遡った1990年イタリア大会も波乱の幕開けだった。1986年大会王者でディエゴ・マラドーナを擁するアルゼンチンが、カメルーンに敗れたのだ。カメルーンは後半に2人の退場者を出したが、“不屈のライオン”の異名が示すとおり最後まで諦めず、67分にフランソワ・オマン・ビイクが挙げた得点を守り切った。アルゼンチンはマラドーナの不調が響き、まさかの敗北となった。

さらに遡って1966年イングランド大会では、北朝鮮がビッグサプライズを巻き起こした。優勝候補にも挙げられていたイタリアをグループステージの試合で破り、アジア勢としてW杯初勝利を挙げるとともに、決勝トーナメント進出を果たしたのである。当時の北朝鮮はいわゆる“東側”の国で、どんな選手がいて、どんなサッカーをするのかという情報が一切漏れ伝わってこない未知のチームだった。大会前は全く注目されていなかったが、豊富な運動量とパスワークを駆使したスタイルは相手にとっての脅威となり、目の肥えたイングランドのファンも少しずつ彼らのプレーに魅了されていった。イタリアは34分に負傷退場者を出し、残り60分近くを10人で戦わなければならなかった(当時は選手交代が認められていなかった)とは言え、サッカー後進国と見られていた相手に屈辱を喫することになった。

1964年スイス大会決勝で西ドイツがハンガリーを3-2で下した一戦も、後世に語り継がれる大番狂わせだ。「ドイツがハンガリーに勝って番狂わせ? 逆じゃないのか?」と今なら思われるだろうが、当時のハンガリーはフェレンツ・プスカシュやシャーンドル・コチシュらを擁して“マジック・マジャール”と呼ばれ、無敗を誇っていた優勝の最有力候補。一方の西ドイツは第二次世界大戦後の混迷を経てようやく国際サッカー界に復帰したばかりで、当初は優勝予想に名前も挙がらないほど。グループステージで対戦した時には、西ドイツがメンバーを4人ほど入れ替えて臨んでいたとは言え、8-3という圧倒的なスコアでハンガリーが勝利を収めている。決勝でも開始8分までハンガリーが2点を奪い、優勝は確実かと思われたが、西ドイツはそこから3ゴールを奪って逆転し、初優勝を飾った。この一戦は“ベルンの奇蹟”と呼ばれ、同名の映画の題材にもなっている。

その4年前、ブラジルがウルグアイに敗れた“マラカナンの悲劇”で知られる1950年ブラジル大会では、イングランドがアメリカに0-1で敗れる大波乱が起こった。当時のイングランドはスタンリー・マシューズらを擁する“スター軍団”で、これがW杯初出場。一方のアメリカは郵便配達員や教師、葬儀屋を本職とする選手たちで構成されたアマチュア集団だ。実力差は歴然としており、誰もがイングランドの勝利を信じて疑わなかっただけに、取材した記者から「0-1」のスコアを伝えられたイギリス紙の編集者は、「10-1のタイプミス」を信じて疑わなかったそうだ。

このイングランド対アメリカ戦は“W杯史上最大の番狂わせ”と言われており、66年大会のイタリア対北朝鮮戦がこれに次ぐ波乱と言われている。今大会でも、出場国中でFIFAランキング最下位だったロシアが2連勝を飾るなど、少なくないサプライズが起こっている。決勝トーナメント突入後、上記2試合に匹敵するジャイアントキリングが起きる可能性もあるだろうし、その主役を日本代表が演じてくれれば、これ以上喜ばしいことはない。

ネイマールが挑む「6度目の優勝」 ケガからの復活と誓った栄光への道

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池田敏明

著者プロフィール 池田敏明

大学院でインカ帝国史を専攻していたが、”師匠” の敷いたレールに果てしない魅力を感じ転身。専門誌で編集を務めた後にフリーランスとなり、ライター、エディター、スベイ ン語の通訳&翻訳家、カメラマンと幅広くこなす。