構成・文/キビタ キビオ 写真/下田直樹
強面だが実は柔軟な対応力がある
──セ・リーグは、広島がリーグ優勝から日本シリーズ、地元でのパレード、黒田博樹選手の引退と、秋は話題続きでした。その裏で、他球団は秋季キャンプを張り、すでに来年に向けて動き出しています。そのなかでも、中日は森繁和監督代行が正式に監督に就任して新たなスタートとなりました。中畑さんは森監督とは駒澤大時代から親交がありますよね。
中畑 そうだな。モリシゲ(森監督の呼び名)は1歳年下の後輩だから、本当に長い付き合いだよ。
──今回の監督就任にあたり、中畑さん目線から改めて森監督の人物像についてお話をいただきたいです。
中畑 いやいや、あのいかつい見た目のままだよ(笑)。
──そこをもう一歩踏み込んでもらえると! 指導者としてかなりのやり手である、という評価もよく聞きます。
中畑 顔が広いというのはあるね。アマチュア野球界、ドミニカ、芸能界他……いろいろな世界の人物と付き合う器用さを持っているよ。一見、堅物のようでいて、実は柔軟性がある。あらゆるところに気を回すことができるタイプなんだ。最近は、オフにドミニカへ行って外国人選手の獲得に自ら動いているけれど、そういうときは、いわばブローカーのような立場として現地のチームや代理人と交渉する能力もあるしな。
──そういった人物が、62歳になろうという年齢になって、ようやく正式な監督となるわけですね。
中畑 年齢的に考えたら、もちろん、最初で最後のチャンスだよな。しかも、現時点としては1年勝負になるだろう。だから、これからはそういった側面的な部分を省いたなかで、監督として、ひとりの野球人として、落ち込んでしまったチームをアイツがどう立て直していくか。それがポイントになるだろう。でも、期待感の方が強いね。きっと、見ごたえがあるぞ!
モリシゲはシーズンオフの時期こそ力を発揮する

──とはいえ、4年連続Bクラス、今年はついに最下位まで落ちてしまった中日を復活させるのは並大抵のことではありません。戦力的な不足もあるはずです。どういったことから、着手していくのでしょうか。
中畑 モリシゲはオフが大好きなのよ。アイツにとってはシーズン中よりもオフの方が「自分の力を発揮する時期」と自覚している。だから、いまのうちに編成も含めて、どういうチームにしていくのか、いまの戦力をどう底上げするかがすでに勝負どころだよ。
──すると、シーズンがはじまる前に、水面下で最初の山場が訪れているわけですね。
中畑 その結果がわかるのは、2月1日のキャンプインだろうな。来年、見に行くのが本当に楽しみだ。そう考えているのは、きっとオレだけではないと思うよ。モリシゲの根回しの周到さは野球界に知られているから、「監督になって、どんなチーム作りをするのだろうか?」と興味を持っている人間はかなりいるにちがいない。
──見た目は色黒で強面、ひと昔前の任侠映画の役者さんのような風貌から、「怖そう」な印象もありますが。
中畑 いやいや。「怖そう」じゃなくて、みんな「怖い」って言っているよ(笑)。
──先輩からすると、そのあたりはどうなんですか?
中畑 年功序列の縦社会で育っているから、先輩後輩の礼儀は大切にする人間だよ。そういう意味で後輩に対しては、実際のところ「怖い」というより「厳しい」よな。
──先ほど少し話題に出ましたが、中日のコーチ時代は、オフになると自らドミニカに渡り、トニー・ブランコなど、埋もれていた選手を発掘して日本で開花させました。
中畑 外国人選手への対応の仕方が、また素晴らしいんだよ。優しいけれど厳しい。普段は気さくだけど、言うときにはビシーっと言う。この教育のバランスが絶妙でね。だから、ドミニカから連れてきた選手たちに、凄く信頼されているよ。それに、アイツが連れてくる外国人選手は、実際いい結果を残しているよな。
──中畑さんがDeNAの監督時代の2012年オフ、前出のブランコに加えて、ホルヘ・ソーサ、エンジェルベルト・ソトの3人が中日と契約の折り合いがつかずにフリーとなり、こぞってDeNAに入団しました。
中畑 ソーサは普段すごくわがままなことばかり言っている選手だったが、モリシゲの前だとピタッと変わるからな。そういう信頼関係を築ける指導者ということだよ。
チーム一丸となってひとつの方向へ進むことが大事
──話は少し横道にそれますが、ソーサについては中畑さんも一度、移動中の様相を見て雷を落としたことがありましたよね。
中畑 うん、一度あった。オレは外国人選手も含めて、ほとんどのケースでなにかあったときには、本人と一対一で直接話をするようにしているんだ。わだかまりを残したくないからな。険悪なままだと、オレもいやだし、相手もいやだろう。そして、それはチーム内にもよくない空気を作ってしまう。だから、ベテランだろうと誰だろうと、わがままを言ったり、首脳陣を批判するようなことを言ったら、一発で二軍に飛ばすよ。
──えーと、それは中村紀洋の例ですよね?
中畑 ノリは2回やったよ。言ってもわからないんだから。そういうことについては、オレは徹底してやってきた。だから、若い選手たちも、「いままでのベイスターズとは違うんだ」と自覚してくれたと思う。オレが監督になる以前は、中堅やベテランが自由にやっていたという話も聞いていたし、なかに入ってみて、オレ自身もそんな空気が充満していたことを感じた。慣れた選手の天国みたいな場所になっていたからな。
──それでは、やはり勝てない?
中畑 勝つ以前の問題だよ。ちゃんとしたチームになっていなかった。みんなバラバラ。同じ方向に進んでいない。それは、選手だけではなくて、球団のスタッフを含めて全員な。みんな自分の世界ばかりを守ろうとしていたから。
──まずは意思疎通を密にして、同じ方へ向かせるところからだったということですね。
中畑 それが実力以外にプラスアルファの力を生み出すわけじゃない? ひとつになったときのチームは、やはり強いよ。
──なるほど。中日についても、同じようなことが求められるかもしれませんね。
中畑 その点については、いままでもコーチとしてチームにいたわけだから、きっとよくわかっているよ。ただ、シーズン中に代行としてはやりたくてもできなかったことがたくさんあっただろうから、正式に監督になったことで、いまは着々とテコ入れを進めているだろうな。
──話を中畑さんと森監督の関係に戻したいのですが、学生時代も含めて特に思い出に残っていることとしてはどんなエピソードがありますか?
中畑 とても公には書けないようなことばかりだよ(笑)。
──そうなんですか。では、個人的な思い出で恐縮ですが、わたしは1983年の日本シリーズで巨人と西武が逆転につぐ逆転の名勝負を演じた際、第3戦で中畑さんが西武のリリーフエースだった森監督からサヨナラヒットを打ったシーンなどは、テレビで観ていてよく覚えています。たしか、ヒーローインタビューで、「マウンド上は大学時代の後輩である森投手でしたが、どんな気持ちでしたか?」と聞かれた中畑さんが「『ああ、後輩だな』と思いました」とコメントして、超満員に膨れ上がった後楽園球場の大観衆から爆笑を誘っていました。
──ふふふ。まあ、付き合いが長いからな。だから、中日の監督に決まったときも、いち早く電話したよ。思い出については、そのくらいにしておいてくれ。書けないことばかりだから(笑)。とにかく、来年のモリシゲ中日には大いに期待しているよ!
(プロフィール)
中畑清
1954年、福島県生まれ。駒澤大学を経て1975年ドラフト3位で読売ジャイアンツに入団。「絶好調!」をトレードマークとするムードメーカーとして活躍し、安定した打率と勝負強い打撃を誇る三塁手、一塁手として長年主軸を務めた。引退後は解説者、コーチを務め、2012年には横浜DeNAベイスターズの監督に就任。低迷するチームの底上げを図り、2015年前半終了時にはセ・リーグ首位に立つなど奮戦。今季から解説者に復帰した。
キビタ キビオ
1971年、東京都生まれ。30歳を越えてから転職し、ライター&編集者として『野球小僧』(現『野球太郎』)の編集部員を長年勤め、選手のプレーをストップウオッチで計測して考察する「炎のストップウオッチャー」を連載。現在はフリーとして、雑誌の取材原稿から書籍構成、『球辞苑』(NHK-BS)ほかメディア出演など幅広く活動している。