インタビュー・文/石塚隆
ファンはもちろん選手にとっても魅力的な球団に成長
――セ・リーグでは広島カープが順調にマジックを減らしています。
中畑 シーズン前はリーグ2連覇は難しいと思っていたんだけど、選手個々の身に地力というものが完全についてきた。とくに1番から4番はリーグ最強とも呼べる布陣だね。緒方(孝市)監督が4番に若い鈴木(誠也)を抜擢したことに全体的な安定感が増し、鈴木自身も十分に期待に応えあまりある結果を残している。ただ、鈴木は残念ながらケガで戦線を離脱してしまったけどね……。とはいえここまで1番から4番で出塁率を稼ぎ、さらに長打力もあり、機動力で相手に隙を与えない野球は去年以上だと思う。さらに5番にはエルドレッドや松山(竜平)という長打力のある打者が控えているんだから、他球団からすれば非常にやっかい。問題があるとすればキャッチャーが固定できないことなんだけど、それでも曾澤(翼)と石原(慶幸)が最低限の仕事をしているのが大きいよね。
――打線に関してはサードを守る10年目の安部友裕選手の台頭も大きいですね。
中畑 今シーズンのキーマンになっていることは間違いない。3割前後をしっかりと打ち、ビッグイニングを作る大事な繋ぎ役になっている。またチャンスメイクだけではなく、自分で決めにいける打撃もできるし、非常に重要な選手だと思う。先日、安部がケガで離脱したけど、すると今度は西川(龍馬)という2年目の選手が出てきて、いい働きをした。西川は左ピッチャーをまったく苦にしない左バッターなんだけど、広島にはこんな若くていい選手がいたのかと驚くばかりだよ。
――近年、広島はピッチャーも含め育成が成功していますね。
中畑 いわば広島は、セ・リーグ版のソフトバンクというのかな。素質のある若い選手たちを指導者たちがビジョンをもってしっかりと育て上げ、戦力にしている印象が強い。まあ、以前から広島の育成力には定評があったわけだけど、以前は育ててもよその球団に行ってしまうことが多かった。けど現状を見ると、今後、若い選手が球団を出ていくことは少なくなるんじゃないかな。
――つまり置かれている環境が以前にもまして良くなったということでしょうか。
中畑 あれだけ熱烈なファンが盛り上げてくれるんだから選手冥利に尽きるよ。またフロントの経営努力で、集客と収益が増えている。広島は黒字経営と聞くから、たいしたもんだよ。昔は資金難で選手にお金を出せなかったけど、昨シーズンに引退した黒田博樹に出資した金額を考えれば、メジャーには及ばないにせよ、かなりの金額が出せるようになった。球団というのは商売である以上、やはり黒字経営をしなければダメ。そのためには地元密着の経営努力とチームの頑張りが必要だし、フロントの努力がうかがえるDeNAも同様だけど、黒字に転換できる球団が増えれば増えるほどプロ野球の魅力は増すと思うんだよな。
リーグ優勝ではなく日本一へ意識が戦力を高める
――そんな古巣に戻ってきて久しい新井貴浩選手は今シーズンも存在感を示しています。
中畑 監督やコーチからすると、ああいったベテラン選手がいてくれるとすごく助かるんだよ。若い選手が多い中、いじられキャラになってさ、チームの空気を作っている。ただ単にいじられているわけじゃなくて、いざというときには若い選手をガツンと叱ることもできる。チームを引き締めるという意味では監督やコーチが単に選手を叱るよりも、選手間でやってもらったほうが、よっぽど効果があるんだよ。新井ぐらいのベテランになるとそのタイミングを熟知しているだろうし、そういうベテランがいるチームの監督は左団扇でベンチを見ていられるんだよな。
――監督の負担は少なくなる。
中畑 俺の経験からすると、試合中に重要な采配や決断をしなくちゃいけないのは年間に10試合あるかないかだと思う。それ以外に監督は、チーム全体の管理というのが重要な仕事になるんだよ。選手たちのモチベーションを極限まで高めて、どれだけチームを想い、しっかりと働ける空気を作ることができるか。いかにして選手同士に強く絆を作っていくことができるか。ある意味、家族的な雰囲気のあるチームは強いし、緒方監督は、あまり目立たないかもしれないけど、そういった仕事がきっちりとできていると思うな。
――ペナントレースも残り少なくなってきましたが、このまま広島が一気に行きそうですか?
中畑 隙は少ないし、モチベーションも高い。ただこれ以上ケガ人が続出するような不測の事態が起こればどうなるか分からないけど、それでも広島の選手は多少のケガなら押し隠してもプレーする昔ながらのプロ根性のある選手が多いから大崩れすることは少ないと思う。広島の選手たちが見据えているのはリーグ優勝よりも昨年逃した日本一のタイトルだろうし、そういった意味では他球団の選手とは見ているビジョンが違うから、一枚も二枚も上なんだと思う。ただ、他球団にとっても「広島打倒!」は失ってはいけない大事なテーマだし、俺はまだ間に合うと思っているよ。サヨナラゲームで広島に3連勝したDeNAのようにセ・リーグを面白くするために他球団には、ぜひ意地を見せてもらいたいね。