取材・文/田澤健一郎 写真/マーヴェリック 

ファイターズの悲願であった球団と球場の一体経営を目指す

かねてより話題にあがっていた北海道日本ハムファイターズの新ホーム球場建設構想。日本ハム本社と球団が2016年12月19日に、新球場について具体的な調査・検討をする「タスクフォース」(プロジェクトチーム)の設置を発表したことで、事態は大きく進展した。

 しかしながら、初めてこの話題に触れた人は現状の札幌ドームのどこに問題があるのかわからない人もいるかもしれない。そこでインタビュー記事の前に、その背景を簡単にまとめたいと思う。
 
 プロ野球12球団のうち、ホーム球場を球団、あるいはグループ企業が所有しているのは6球団。所有はしていないが、指定管理者制度(*1)などにより自治体から運営・営業権を得ているのが3球団。残り3球団のホーム球場は使用料を支払い“借りている”状態である。ファイターズは最後の3球団、つまり球団と球場の一体経営ができていない球団のひとつということになる。

 詳細は、各球団・球場で異なるが、一般的に球団と球場の一体経営ができていない場合、いくら観客動員が増えても、球場における広告看板料や試合時における飲食の売り上げは球団に入らず、球場側の収入になる。また、少なくない使用料を支払う必要があるので球団の健全な経営、黒字化への障害になるケースが多いのだ。ちなみにファイターズの場合、球場使用料と関連費用の支出は合計で年間約26億5000万円とされる(各報道ベースの数字)。これは、2016年の選手総年俸26億9640万円(推定)とほぼ同額だ。さらにサービス、売り上げの向上のために球場の改修などをしようと考えても、球団の一存ではできないなどその他の制約も多い。

 ファイターズも札幌ドームの指定管理者等になれれば良かったのだが、さまざまな理由により難しいとなったため“自前の新球場”という選択が具体化してきたのである。

*1
自治体などが所有する公共施設の管理・運営を、株式会社をはじめとした営利企業や財団法人、市民グループなど法人およびその他の団体が包括的に代行する制度。NPBでは、千葉ロッテマリーンズや広島東洋カープがそれぞれホーム球場の指定管理者となっている。

選手を大事にするのは当たり前なのに、その当たり前のことが簡単にできないジレンマ

——あらためて球団と球場を一体経営を目指す理由を教えてください。

前沢 プロ野球において、ハードは“施設”でありソフトは“チーム・選手・試合”です。それを統合したサービスを提供するのが自然なことだと考えています。たとえば、同じ遊園地なのにアトラクションは別の会社が経営しているため、サービスを連動できなかったり、イベントなどをサービス提供者側の問題でスムーズに行えなかったりしたら満足度は上がらないと思いませんか?

——たしかにそうですね。

前沢 我々にとって、売り上げとはサービスの対価。よりよいサービスを提供し、“対価=売り上げ”がアップすれば、さらなるサービス向上のために投資をすることができます。しかし、いまの状態はソフトには投資できるけど、ハードにはできない状態ということ。サービスを提供する側が、ソフトとハードの片方にしか投資ができないのは自然ではないですよね。だから、球団と球場の一体経営を目指すことは“正のスパイラル”を構築するという極めてあたりまえのことだと考えています。

——これまでは、いびつなことも多かった。

前沢 広告看板や飲食の売り上げの件がよく取り上げられますが、たとえば選手のパフォーマンスに直結することもあります。選手から、「現状の外野のラバーフェンスは激突するとケガをしやすい」という声があがったとした場合、もし一体経営ができていれば、我々はすぐにケガを防げるラバーフェンスに変えることができます。しかし、いまの座組みでは我々の一存ではできない。それは、お金がないからではなく権限がないから……。これは、非常に大きな問題です。

——実現したとしても手続きの手間など時間がかかったりしますよね。

前沢 我々はチーム、選手があってはじめて事業をすることができます。「地域に貢献しよう」と言っても、選手たちがいなければ成り立ちません。だから、選手を大事にするのは当たり前の責任なのですが、その当たり前のことが簡単にできないというジレンマがあるんです。もちろん、これまでまったくできなかったわけではありません。たくさん解消して頂いた部分もあります。しかし、我々が理想とするレベルはもっともっと上にあるのです。

自前の球場を持つことで、使い方を“管理目線”から“運用目線”に

——札幌ドームはファイターズのホーム球場である一方、サッカー場でもありますから、他の球場よりもいっそう難しい点が多いのかもしれませんね。

前沢 そうですね。そもそも、いまの札幌ドーム社との関係では来年も使用させていただけるといった保証のようなものはないのです。「地域に根づいたチームを」と言ってもそれでは長期的に安定した運営は難しくなります。

——実際に契約できない事態というのは考えにくいとは思いますが、極論としての形としてはそうなる。

前沢 これは一般論なのですが、全国的に自治体など公共の施設は、定常的な使用者よりもシティプロモーション、たとえば国際的なイベントやコンベンションなどが優先される傾向が強い。さらに、スポーツは優先順位が決して高くないといった現状もあります。もちろん理解できる部分もあるのですが、地域の公共財を目指す球団としてはいい状況とは言えません。

——いろいろな視点で球団経営を考えれば、球場使用の自由度が上がるメリットはかなり大きいということが見えてきました。

前沢 サービスを一体化できるだけではなく、競争環境も創出できます。それこそ、球場内の飲食店も競争原理が強く働くでしょう。そうなれば、必ずサービスの向上につながりご来場される方々にも還元できると思っています。

——いわゆる民間施設の良さが発揮される。

前沢 言い方を変えれば、施設・球場を“管理目線”から“運用目線”に変えることができます。ビジネスという視点で考えれば、いまあるものをいかに有形無形の資産価値を高くし、運用していくかが重要です。しかし、現状では価値を高くする挑戦よりも、問題が起きず安全に球場を“管理”していく目線が先にきてしまうこともある。

――だからこそ、自前の球場を持つことによって可能となる球団と球場の一体経営が重要になる。

前沢 いずれにせよ今回の件で、我々のことだけではなく球団経営、スポーツチームとスタジアムの関係、スポーツビジネスについて広く知って頂き、話し合える土壌ができた気もします。今後の結果はともあれ、それは良かったのではないかと思っています。

(プロフィール)
前沢賢
1974年、東京都生まれ。パソナ、J・坂崎マーケティング(マーケティングマネージャー)、北海道日本ハムファイターズ(事業推進部長)、パシフィックリーグマーケティング(執行役員)、横浜DeNAベイスターズ取締役事業本部長を経て、再び北海道日本ハムファイターズへ。現在、執行役員 事業統括本部 本部長。観光庁スポーツ・ツーリズム推進連絡会議ワーキングメンバーも務めた経験もある。

田澤健一郎
1975年、山形県生まれ。大学卒業後、出版社勤務を経て編集・ライターに。主な共著に『永遠の一球』『夢の続き』など。『野球太郎』等、スポーツ、野球関係の雑誌、ムックを多く手がける元・高校球児。

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田澤健一郎

1975年、山形県生まれ。大学卒業後、出版社勤務を経て編集・ライターに。主な共著に『永遠の一球』『夢の続き』など。『野球太郎』等、スポーツ、野球関係の雑誌、ムックを多く手がける元・高校球児。