取材・文/田澤健一郎 写真/マーヴェリック
地域密着を継続して進めつつ、北海道の魅力を道外に伝えたい
©︎共同通信——2016年、ファイターズのシーズン主催試合の観客動員数は207万8981人。北海道移転13年目にして初めて、当初の目標であった200万人を突破しました。今後、さらなる観客動員の増加のカギはどこにあると考えていますか?
前沢 たくさんありますが、今後は急激な成長は難しくなっていくと見ています。まずは、いまの事業の見直しが必要です。これはどの球団もそうかもしれませんが、M1層(20歳~34歳の男性)・F1層(20歳~34歳の女性)の新たなファンを増やすことが重要。ポイントは、「野球を観戦してください」だけでは足を運んでもらえないという認識をしっかり持てるかどうか。野球という本質的なものに敬意を払いつつ、野球だけではなく、他の魅力ある要素も必要でそれを今季は少し試してみようと考えています。
——2016年は、静岡県で主催試合を行ったのが興味深かったです。
前沢 実は、北海道の地域密着は継続して進める一方で、北海道に誕生してから10年以上が経過したいま、「今度は我々が北海道の魅力を道外へ伝えたい」という意向もあります。静岡県で主催試合を行ったのは、その一環です。お客さんがご来場いただけるか不安もあったのですが、終わってみればチケットは完売でグッズの販売も大変好調でした。全国にはまだまだ可能性を秘めている場所、都市があると感じました。2017年は、富山県で公式戦を開催します。
—―現在、NPBは12球団で構成されています。JリーグやBリーグの発展に貢献した川淵三郎さんは以前、「NPBはまだ球団を増やせる」といったニュアンスの発言をされていました。
前沢 今年から、茨城県と「なにかできないか」ということで新たな取り組みを模索して既に担当者をつけて協議しているんです。
——ファームの本拠地である千葉県鎌ケ谷市とも近いですね。
前沢 茨城県の人口は約300万人。守谷市、つくば市、常総市などは、つくばエクスプレスもあって東京へのアクセスもいい。沿線の人口は増加傾向にあります。しかし、NPBの球団はない。まだまだ大きな可能性を秘めているエリアだと感じています。スモールスタートになると思いますがなにかしら今年中に行っていく予定です。
球団経営をよりよくするために、人材のストックリストも用意している
——その鎌ケ谷の今後の位置づけはどのように捉えていますか?
前沢 イースタン・リーグの兼ね合いもあるので関東の拠点をなくすことは難しいと思います。ただ、現在の鎌ケ谷、ファイターズタウンの施設も完成から既に20年が経過しました。完成当時は「球界一!」といっても過言ではない施設でしたが、現在はソフトバンクの『HAWKSベースボールパーク筑後』など、上をゆくであろうファーム本拠地も出てきました。今後、どう鎌ケ谷を発展させるかは考えなければいけませんね。
——本当にやるべきことは多いですね。
前沢 プロ野球はさまざまなメディアの方々からも取り上げていただけますし、夢もあり特有の価値もある仕事だと思っていますので、やるべきことが多いのは当たり前ですし、なんの苦もありません。基本はBtoCのビジネスですから、当然、お客様センターに寄せられた内容はつねに把握できるようにしています。問題があったのであれば、改善したのかしないのか、したいのにできないのか。当たり前のことですが、そういったことを考え続けなければなりません。
——しかし、お客様センターがない球団もまだありますからね。ちなみにそうした球団経営のスタッフは、どのような方針で採用や育成をしているのですか?
前沢 野球、スポーツが好きであることは大切ですが、ビジネスという観点を考えれば、「好き」なだけではやっていけません。だから、いろいろな能力や経験がある人で常に変革を意識できる人が望ましいですね。この1月にも新しいスタッフが入ったのですが、長く金融関係の仕事をしていた人間で、まったくスポーツには関係のなかった人材です。
——スタッフの人材発掘にも熱心なんですね。
前沢 さまざまな人材のストックリストは国内・海外問わずに特定の人間とは共有しています。「こういったことがしたい」となにか思いついたとき「それならば、あの人に相談するべきかもしれない」と、いつでもすぐ会えるように準備だけはしています。また、定期的に“新しい血”、つまり、他業界もしくは他社経験のあるバイタリティある中途の人材は、わたしを含め多くの刺激や気づきを既存職員にも与えてくれています。
——なるほど。そんなところにもファイターズの強さの秘密があるように感じます。
前沢 とにかくファイターズ、北海道はまだまだやれることがたくさんあります。可能性はとても大きい。今後も野球を通じて、北海道という地域の活性化に貢献していきたいですね。
[前編] 「選手を守れない」日ハム事業本部長が語る、球場移転が絶対に必要な理由
北広島市に建設地が決まり、順調に進んでいるように思われる、北海道日本ハムファイターズのボールパーク構想。2023年に開業を目指す新球場は、札幌市が保有する札幌ドームとは異なり、日本ハムグループが主体となって建設・運営に当たる。 自前球場を持つ理由と、そのメリットとは?球団の執行役員である、事業統轄本部 本部長である前沢賢氏に聞いた。
日本ハム新球場は、札幌ドームの未来から北海道の経済まで「共感」あってこそ
プロ野球北海道日本ハムファイターズのボールパーク構想の建設地が北広島市に決まりました。2023年に開業を目指す新球場は、札幌市が保有する札幌ドームとは異なり、日本ハムグループが主体となって建設・運営に当たります。 全体の建設費を500~600億円と見込んでいる日本ハムの「ボールパーク構想」の懸念材料と可能性とは?
[特集]スタジアム徹底考察
アスリートと観客にとって“劇場”はいかにあるべきか
(プロフィール)
前沢賢
1974年、東京都生まれ。パソナ、J・坂崎マーケティング(マーケティングマネージャー)、北海道日本ハムファイターズ(事業推進部長)、パシフィックリーグマーケティング(執行役員)、横浜DeNAベイスターズ取締役事業本部長を経て、再び北海道日本ハムファイターズへ。現在、執行役員 事業統括本部 本部長。観光庁スポーツ・ツーリズム推進連絡会議ワーキングメンバーも務めた経験もある。
田澤健一郎
1975年、山形県生まれ。大学卒業後、出版社勤務を経て編集・ライターに。主な共著に『永遠の一球』『夢の続き』など。『野球太郎』等、スポーツ、野球関係の雑誌、ムックを多く手がける元・高校球児。