秋の新たな定番

 毎年、秋になるとセ、パの両リーグともにリーグ優勝チームやクライマックスシリーズ勝ち上がりチーム、そして日本一のチームが決定します。近年は、その際に“優勝ロゴ”や“チャンピオンロゴ”と言われるものが作られるようになりました。優勝した証として、記念として、あるいはグッズとして——などなど、その用途はいろいろとあります。2013年、楽天イーグルスの優勝の際、私もデザインさせていただきました。

 この年は、いまやアメリカ・メジャーリーグで活躍している絶対エース・田中将大投手の活躍もあり、イーグルスは夏場からスパートをかけてきました。8月の中旬あたりに「優勝する可能性があるので」と、球団からオファーを受けたのですが、どういうものにすればよいのか凄く迷いました。というのも、もし優勝すれば球団史上初の事であり、前例もないため、“楽天イーグルスの優勝”とはどういう存在なのか、というところから探らなくてはいけなかったからです。
 球団の方といろいろと話す中で、歴史的出来事であると同時に、2011年に起きた震災と東北のことも考える項目として入っていました。“東北が一つになるようなロゴ”という曖昧なテーマは決まりつつも、それがいったいどうすればいいものなのかがなかなか見えてきませんでした。

 “歴史の1ページに刻む”をテーマにしたもの、“1st TIME:初めての”をテーマにしたものなど、いろいろと制作してみましたが、いまいちしっくりきません。“単なる記念のものではなく感動してもらえるもの”にしたいという球団からの希望に沿ったものになかなかたどり着けずにいました。

苦悩のデザイン

 ロゴ入りTシャツなども用意しないといけなくて、最短で優勝するかもしれないXデーがせまってくる中、ふと気づいたことがありました。
 この年、楽天イーグルスは「TOHOKU GREEN」という東北の自然をテーマにした緑のユニフォームを着用していました。そのユニフォームの袖には、「東北6県に見立てた6枚の葉が1つの円を作っている」というロゴをあしらっていたのです。「このロゴの延長で何かできないかな?」と思ったんです。
 今となってはなんで最初から気づかなかったんだろうと思うのですが、東北が一つになるようなもの、というテーマにはぴったりのデザインだったのです。このロゴをベースに、“優勝”というキーワードで考えてみた結果、「この葉をチャンピオンフラッグにして、東北6県それぞれがチャンピオン」というアイデアにたどり着きました。作るものが決まればあとは手を進めるのみ。
 悩んで生み出したこのロゴを完成させ球団に提出すると、無事にOKがいただけました。そうなるとあとは優勝を待つだけです。

©︎大岩Larry正志

※左から、夏のTOHOKU GREENロゴ、リーグ優勝ロゴ、日本一ロゴ。

 むかえた2013年9月26日、田中投手が最後の打者を三振に取った瞬間、創設9年目の楽天イーグルスはパ・リーグ初優勝を決めました。同時に、優勝ロゴもあちこちに露出され、私自身もなにか優勝したような気分になったのを思い出します。
 しかし、仕事はまだ終わりません。この後、クライマックスシリーズも勝ち抜いたイーグルスは、巨人との日本シリーズに挑みます。チャンピオンフラッグが6枚デザインされたロゴは、あくまでもパ・リーグ優勝のもの。ということは日本シリーズに勝ったら、次は日本一ロゴが必要になります。

 今度は時間がまったくありません。考え方は「葉っぱからフラッグに変わった6枚が、最後は何になればいいのか」に絞りました。しかし、なぜかびっくりするくらいにあっさりと「最後は羽根」というワードが出て、デザインを進め、OKもでました。
 羽根は、もちろん鳥である鷲の象徴であり、飛ぶためのもので“上昇”を連想することから、東北の復興とイーグルスの未来を願ったもので、それが6枚あるということは東北6県と楽天イーグルスがこれからも共にある、ということを意味します。

 日本シリーズ第7戦、最後のマウンドにはまたも田中将大投手。私もその場にいました。小雨が振る中、9回表を抑え、日本一が決まった瞬間の大歓声と大興奮は忘れられません。そしてビジョンを見ると、いろいろな思いを込めた日本一ロゴも大きく表示されていて、テンションも最高潮でした。

©︎大岩Larry正志

※仙台駅から球場に向かう途中、歩道にロゴがデザインされたマンホールの蓋があります。

 シーズンオフには、イーグルスは実際にチャンピオンフラッグのミニチュアを制作し、それらを本当に東北6県に贈るという、ロゴのデザインが実際の企画のようになったのも思い出深いです。
 「葉→旗→羽根」と、それぞれ頭文字が「は」の物に変わってきたロゴは、東北が「ははは」と笑顔になるための一年を表したもの、だったのかな。

編集協力:ベースボール・タイムズ

■プロフィール
大岩Larry正志(おおいわ・らりー・まさし)
1975年生まれ。滋賀県出身。デザインオフィスONE MAN SHOW代表。
『野球とデザイン』をテーマに制作活動を続け、2008年には西武ライオンズ(当時)の交流戦用、09年に福岡ソフトバンクホークス『鷹の祭典』のユニフォームとグラフィックを。2012年からは楽天イーグルス夏季用ユニフォームや優勝ロゴ、同時に2015年からは、東京ヤクルトスワローズのユニフォームやグラフィック、ロゴのデザインを毎年手掛けている。

また、アニメ『The World of GOLDEN EGGS』のボイスアクターなどとしても活躍をしている。http://www.oneman-show.com


大岩 Larry 正志