”レーザービーム”誕生の瞬間

 2001年4月11日のアスレチックス戦。4月2日にメジャーデビューを果たしたばかりのイチローが見せた3塁へノーバウンドでストライク送球で捕殺。実況のアナウンサーは絶叫、スタジアムは騒然となるビッグプレーでした。「レーザービーム」という言葉が生まれた瞬間です。

 このプレーは、ボストンの地元ケーブル局が選ぶメジャー史上最高の補殺という動画コーナーでベスト5に入るなど、MLBでも伝説のプレーに位置付けられるぐらい強烈なインパクトを残しました。そしてその後、野手が投じる糸を引くような低い軌道の強烈な送球のことをレーザービームと表現されるようになりました。

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レーザービームを投げる条件

 2001年の1球だけでなく、イチロー選手は数多くのレーザービームを投げています。レーザービームという言葉が使われる場合、単なる「肩が強い」「遠投がすごい」ということではなく、その球速と直線的で低い軌道が特徴的です。

 一般的に遠くに投げるだけの場合は、放物線を描くような軌道で投げた方が遠くまで届きますが、ランナーをアウトにしなければならない場合、直線的で低い軌道の方が到達時間が早くなりアウトにできる確率は高まります。

 イチロー選手のような質のボールを投げられるにはたくさんの条件を満たす必要がありますが、今回はそのうちの2つに絞って解説します。

助走のカギは、捕ってからのスピード

 イチロー選手は、走塁に見られるように非常に足が速いですが、この速さを送球にも大きく活用しています。ボールに強い力を加えるためには、この助走が大きな鍵を握ります。槍投げと同じように、一般的に助走は速ければ速いほど、ボールは速くなります。

 ただし野球の場合は、槍投げと違ってボールをキャッチするまでの助走でスピードを出しすぎると捕球するときにエラーしてしまう可能性も高まります。

 エラーも非常に少ないイチロー選手がどのようにしてこの点をカバーしているかというと、キャッチしてからの助走を速くすることで対応しています。上部の動画を参照していただきたいのですが、キャッチまではゆったり動いて、キャッチしてから急激にステップや身体の動きがスピードアップしています。イチロー選手の助走の凄さは、ボールを捕ってからの速さにあります。

レーザービームは、かなり前でボールを離す

 次にボールの軌道についてです。放物線のボールを外野からキャッチャーまでノーバウンドで投げられたとしても、レーザービームとは呼ばれません。また、前述したように放物線の軌道だとキャッチャーまで到達するまでには時間がかかるため、走者をアウトにできる可能性も低くなります。

 ”レーザービーム”と呼ばれるような低い軌道で投げるためには、ボールを離す(リリース)ポイントがかなり前方になる必要があります。
ただし、単に前方でボールを離すだけでは地面に向かって力を向けることになりやすく、投げたい方向に十分にボールに力を加えにくくなります。特に肩の付け根を中心にして腕を振ってしまうとその傾向は強くなります。

 イチロー選手はどのようにしてボールを離すポイントを前に持っていきつつ、かつ前方に向かって力を集約することができているのでしょうか。

 このとき鍵となるのは、身体の中心部分を急激に後ろに引く動きです。引く動きとは、具体的にはみぞおちを急激に丸める動きです。ボールを投げる際には、胸を張るのが重要視されますが、そもそも何のために胸を張るのかというと、急激にみぞおちを丸める力を腕の加速に利用するためです。

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 弓を放つ時のイメージがわかりやすいと思いますが、弓を限界まで張り、矢を離すと同時に急激にしなります。人体ではこのしなる動きの役割をみぞおちが果たします。胸が大きく張られ、腕を振りながら急激にみぞおちを丸めることで腕の加速を強力に助けるのです。

 ボールを離すポイントをできるだけ前に持っていこうとすると、力の向きがずれやすいですが、みぞおちを丸める動きを使うことで、腕を振る支点の位置が後方にずれ、その動きを利用すると、ボールを前で離しつつ十分に力を伝えるということが可能となります。

 イチロー選手のレーザービームは、このみぞおちを丸める動きが非常に大きく活用されています。

胸の張り+みぞおちを丸める動きを強化する方法

 ピッチングも含めて、ボールを投げる際に胸を張るのは非常に重要です。タイミング的には腕を加速させる直前に、反動を得るために胸を張ります。
※厳密には背筋を使って張るのではなく、下半身が動くことによって反射的に張られます。

 ただし、いくら胸をしっかり張る動きが出ても、そこから丸める動きが引き出せないと、最終的に腕の振りの加速や低い軌道への力の集約にはつながりません。

 そこで今回は、胸を張る動きとみぞおちを丸める動きをつなげるトレーニングを紹介したいと思います。

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 みぞおちを両手の人差し指・中指で押さえます。表面に触れるのではなく、じんわり奥まで押さえるようにします。

 みぞおちを押さえる理由は、背骨と脚を直接つなぐ筋肉である大腰筋がここから始まっているため、みぞおちを押さえることで刺激を入れて働きやすくするためです。脚の動きとみぞおちの動きを連動させるためには非常に重要なポイントですので、必ず押さえるようにしてください。

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 指で押さえている部分を大きく前に出します。胸を張ろうとすると肩甲骨周りに力みが出て肩の動きを邪魔されやすいので、みぞおちを前に出すようにします。肩の力を十分に抜くように注意してください。

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 そのあと、急に脱力するようにしてみぞおちを後ろに向かって丸めます。腹筋を使って丸めるのではなく、脱力を使います。うまくできると、胸や肩がガクンと落ちるような感覚が出てきます。この感覚がみぞおちと腕が繋がってくるためのポイントです。

 このとき頭があまり前に出ないようにしてください。写真2・3の動きを繰り返し、なるべく大きく、動きを速くしていきます。

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 みぞおちが自由に操作できるようになってきたら、今度はもう少し実際の動きに近づけます。片側の足を一歩踏み出し、その状態でみぞおちの動きを繰り返します。

 みぞおちを急激に丸めた結果、腕が前に振り出されるようなイメージを持ち、丸めるタイミングを掴んでいけると動きに繋がってきます。この練習を行う前に、前回の割膝(わりひざ)を行なっておくとより効果的です。

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