松坂は復活を目指すとうまくいかない
松坂選手の特徴は、しなやかでダイナミックなフォームから繰り出されるキレのあるボール、というイメージを持つ方が多いでしょう。
それだけ彼がプロ野球でデビューした時のインパクトは鮮烈でしたし、群を抜いてしなやかなフォームは非常に印象的でした。そして実際に最多勝を獲得するなど大活躍したこともあり、「松坂大輔のイメージ」が定着しました。
しかし、これが現在の彼を見劣りさせている、もしくは彼自身を苦しませている一つの要因かもしれません。
20代前半の頃と現在の松坂選手の投げ方は誰が見たって大きく異なります。これを劣化と見てしまうと、ここから彼の復活という意味ではかなり苦しくなってしまいます。松坂選手の現在のフォームを詳しく分析していくと、決して全て劣化しているというわけではなく、進化している部分もあります。
復活ではなく、私は今の動きを活かしてここからの進化を目指して欲しいと願っています。
“全盛期”と現在のフォームの違い
以下に両者の変化を記述しますが、全て外から見た変化を述べたに過ぎず、そのあとに続く原因の記載はあくまで私の経験から考察した可能性であることをご了承ください。
1.体幹の捻りが大きくなっている
ステップ足を踏み出すときに胸を捻る度合いが増えています。その後の投球側の腕の動きから考察すると、肩甲骨周りの動きが硬くなっており、それを補う動きかもしれません。
2.ステップ幅が狭くなっている
現在の方が明らかに狭くなっています。
これは2007年にMLBに移籍したあたりからその傾向が出てきていますので、もしかしたらきっかけはメジャーの硬いマウンドの影響はあるかもしれません。ただ、それだけではなく、股関節周りの柔軟性や体重がかかった状態での使い方の問題がある可能性は否めません。
3.リリース時の上半身の角度が浅くなっている
これはステップ幅の減少とも関係しますが、ボールを離す時の上半身の前方への傾け方はかなり浅くなっています。
これが“手投げになっている”と評される一つの要因です。
西武ライオンズ時代の松坂大輔投球フォーム
客観的にみて、いわゆるレベルダウンとされる部分の変化を述べました。
特に球速アップについては、ステップ幅が狭くなり、リリースでの上半身の角度が浅くなるとボールに力を加える時間が明らかに減少しますので、ここを改善せずに球速アップを求めるのは正直苦しいところです。
松坂大輔のフォームで進化した部分
多くの分析でレベルダウンしたところが指摘される松坂選手ですが、私からみて進化した部分があります。
それは、右の股関節の使い方。
右の股関節は腰の開きを制御するための装置として非常に重要な役割を果たします。現在の松坂選手のフォームは、この開きが非常にうまく制御できていると言えます。
2018年の松坂大輔投球フォーム
今のフォームを活かして進化するための鍵
それは、肩甲骨周りの動きです。
今の右股関節の使い方を維持しつつ、肩甲骨周りの柔軟性だけでなく柔らかい動かし方の向上に集中的に取り組むと、新たな境地が見えてくるかもしれません。
今のフォームは腰の開きを抑えられるようになっているぶん、上半身の使い方が鍵を握るようになっています。松坂選手の場合、その中心となるのが肩甲骨周りです。
肩甲骨周りが今よりも柔らかい動きができるようになると、腰が回り出しても腕を後ろに残すことができるようになります。そうすると、リリースポイントで上半身をもっと前に倒す“時間的余裕”が生まれます。
これだけでも、力学的に考えてかなり力がボールに伝わる度合いが上がると思われます。(肩や肘の負担も減ります)
松坂選手に限らず、この肩甲骨周りの動きはどのピッチャーにとっても重要ですし、ここの柔軟性が落ちたり動きが硬くなったりすることで、肩や肘の怪我にも繋がりやすくなってしまいます。
今回はそんな肩甲骨の動きを高めるための簡単なトレーニングをご紹介します。
ものすごく地味ですが、ひたすら続けることで肩甲骨の動きはかなり変わります。
キャッチボールやブルペンの前や合間に取り入れてみてください。
<肩甲骨回し>
©︎中野崇1.胸の前で両手を合わせてぐるぐる回す動きを行う運動です。両手の動きに合わせて肘をうまくコントロールすることで、肩甲骨が大きく動くようになります。
©︎中野崇2.肩幅で立ち、両手の甲を合わせる形にします。このとき肩の力が入らないように注意してください。
©︎中野崇3.指先が自分に向かうように下から両手を回します。
©︎中野崇4.胸の前を抜け、指先が上に向くようにして両手を抜きます。このとき、両肘がガクンと落ちるように下に向くのがコツです。
5.指先が前に向いてくる流れの中で、手首を返して手の平が合わさります。そのまままた肘を開いて手の甲が合わさる形(1)に戻ります。これで1周です。
これの流れを、円を描くようなイメージで連続して滑らかに行います。力は全く不要ですので、肘が落ちる感覚に意識を向けるのがポイントです。
慣れてきたら、片足立ちで行うようにしてください。キャッチボール前やブルペン前、またはそれぞれの合間などになるべく頻繁に行うようにしてください。
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