サガン鳥栖を運営する株式会社サガン・ドリームスが発表した2017年度決算(17年2月~18年1月)は、驚きの内容だった。営業収益(収入)が前年度比21%増の33億5000万円で過去最高を記録し、純利益も288万円と3年連続で黒字を確保したのだ。
特に営業収益は18億8500万円だった14年度から24億8900万円、27億6600万円と右肩上がりで増収を実現している。ホームタウンの鳥栖市がJ1・J2・J3全54クラブで最も人口の少ない7万3000人ほどであることを考慮すると、まさに“驚異的な成長”といえる。

「ファンやスポンサーの皆さん、働いている仲間、選手とたたえ合いたい」
竹原稔社長(57)は、売上高が長年目標としてきた30億円を突破したことを、こう喜んだ。この竹原氏の社長就任こそが、サガン鳥栖にとって一つのターニングポイントとなった。

兵庫・伊丹市出身の竹原社長は、大阪・北陽高サッカー部出身。株式会社ナチュラルライフの社長として全国に「らいふ薬局」を展開する“敏腕”の呼び声高い経営者だ。11年5月にサガン・ドリームスの代表取締役社長に就任すると、まず目をつけたのが広告料収入だったことは、ここ数年の決算情報からもはっきりと見てとれる。11年度の広告料収入は2億5300万円だったが、17年度は15億7400万円。竹原社長が就任してから、実に6倍以上の規模にまで急成長している。楽天という親会社を持つヴィッセル神戸などと違い、多額の支援が確実に引き出せる“財布”のない地方都市のクラブにとって、かなりの企業努力がなければ成し得ないものといえる。

中でも大きなインパクトとなったのが、15年7月に結んだゲームの企画・開発、運営事業を展開する「Cygames」(サイゲームス、本社・東京都渋谷区)とのスポンサー契約だ。「グランブルーファンタジー」などスマートフォン向けを中心とした数々の人気タイトルを世に送り出しているサイゲームスは、サイバーエージェントの連結子会社で900億円超を売り上げる優良企業だ。
くしくも竹原氏がサガン鳥栖の社長に就任したのと同じ11年5月に設立された同社だが、その代表取締役社長である渡邊耕一氏が佐賀県出身であった縁などから協力関係が実現した。広告料収入が14年度の7億8900万円から15年度に12億300万円と大きく伸びているのは、内訳こそ非公表ながら、このサイゲームスの“支援”が大きな要因となっていることは想像に難くない。

サガン鳥栖の前身、鳥栖フューチャーズは1997年1月に実質的に破産し、任意団体のサガン鳥栖FCとして継続されたものの、その後も常に消滅危機にあった。いまや前身がそんな財政危機にあったことなど過去のこととして忘れ去られそうな好調ぶりだが、経営的に次の一手が求められているのも事実だ。
スポーツチームを経営する上で、入場料収入と広告料収入は営業収益の2本柱とされる。竹原社長は、これまでホームタウンの人口が少ないというマイナス面を広告料収入を引き上げることで補ってきた。逆に言えば、入場料収入の増加はクラブのさらなる成長に向けて残された重要な要素にもなるということ。もちろん、そこに目を向けた動きも出てきている。
17年度の主催試合の来場者数は計24万1295人、1試合平均で1万4194人と、ともに過去最高を記録。入場料収入は6億3000万円で前年度比14%の大幅増となった。2月23日の今季開幕戦(対ヴィッセル神戸)では、元東方神起の韓流スター、ジェジュンを招いてミニライブをハーフタイムに開催。若い女性を中心に普段とは異なるファン層を呼び寄せ、平日にも関わらず1万9633人もの観衆を集めた。
今夏、元スペイン代表FWフェルナンド・トーレスを推定年俸5億円ともいわれる金額を出してまで獲得したのも、人気拡大に向けて投じた一石といえる。ヴィッセル神戸の元スペイン代表MFアンドレス・イニエスタ(34)は親会社である楽天を世界に向けて発信する“広告効果”も期待されての破格条件(推定年俸32億円)だったが、こちらはあくまでチーム強化と入場料収入増加を見据えた従来型の補強。竹原社長は「地方の田舎のチームがJ1で戦う難しさを感じている。推進力を上げて強いチームをつくるには絶好の選手」と狙いを説明する。

さらに、サイゲームスが本拠地ベストアメニティスタジアムの改修でも手を差し伸べている。内閣府が推進する、企業の寄付金で地方活性化を図る「地方創生応援税制(企業版ふるさと納税)」を活用し、同制度の過去最高額で費用の全額に当たる6億8600万円を鳥栖市に寄付。来年6月までにチームカラーの青とピンクが印象的な“新スタジアム”が完成する予定で、これも入場料収入増に向けて大きな「推進力」になりそうだ。
そんな支援や企業努力を無駄にしないためにも、J1残留は喫緊の課題となる。既に営業収益30億円超というJ1でも中堅に位置する規模に成長したクラブにとって、入場料収入、広告料収入の維持が難しくなるJ2降格は経営的にも絶対に避けなければいけない。この夏、トーレスに加え、鹿島から元日本代表FW金崎夢生(29)、韓国・蔚山現代から同FW豊田陽平(33)を獲得したのも危機感の表れだろう。

クラブ経営で右肩上がりの成長曲線を描き、世界的な大物選手の獲得という壮大な夢まで実現した、地方クラブにとって“お手本”ともいえる存在になったサガン鳥栖。ただ、トーレスの獲得についてはサイゲームスからの別枠での支援はなく、17年度の18億9900万円からさらに増えることが確実なチーム人件費について、新たな手段で工面する必要もある。大口スポンサーだけに頼らない形での経営規模の維持、J1残留を果たしての入場料収入の拡大。この2点が、今まさに解決すべきサガン鳥栖の経営課題といえそうだ。


VictorySportsNews編集部