まず野球とゴルフの1番の共通点と言えば道具を使う点だろう。もちろんバッターに限る話になるが、モノを振る動作に関して野球経験者にはベースが築かれている。また、子どもの頃に養われた感覚というのは体に染み込んでいるもので、野球に限ったことではないが棒状のものを振る動作を繰り返し練習してきた人はゴルフの上達が比較的早いと言われている。
また道具の重量に関してはバットが約800〜900gが平均的な重さなのに対して、ゴルフクラブは最も重さがあるサンドウェッジ(SW)で400〜500g程度。最も長さのあるドライバーは300g前後が平均的な重さになる。大は小を兼ねるというわけではないが、野球選手にとってはゴルフクラブを振ることは造作無いことなのだ。ただ、野球選手、特に強打者がゴルフで苦しむのがスライスだ。野球のバッティングではインパクトは体を開きながら迎える。バットよりも長さがあるゴルフクラブだとどうしても振り遅れてしまうのだ。同じ棒状の道具でも重心や長さ、重量が変わるとインパクトのタイミングは当然変わってくる。もちろんある程度の練習でそのコツを掴める人もいるだろうが、飛ばすための動作が体に染み付いているからこそ、動きを直しにくいと言う一面もある。

イチロー選手や落合博満氏などバットコントロールが上手な選手は、フェアウェイの幅に打っていくことはそれほど難しくないことが予想される。イチロー選手の父・宣之氏は岡本綾子プロのスイングリズムやルーティンを真似るように幼少時代のイチロー選手にアドバイスしたのは有名な話。そういったところからも野球とゴルフに共通点を感じることができる。

野球選手の中でも投手の方が、ゴルフが上手いという点についてはどうだろう。これもよく耳にする話だが、投手の方が野手よりもゴルフが上手い理由のひとつに、自らが動き出すことでインプレーになるという点がある。ゴルフは止まっているボールを打つため、自らが動き出す始動が非常に重要なキーワードになる。その点でピッチャーにも同じことが言えて、チームスポーツではあるが、自らが動き出す(投げ始める)ことが、全ての始まりになるわけだ。自らの間合いで投げ始める。この何気無い動作の中に制球の精度を左右する要素が詰まっているのだ。バッターは投げてきた球に対して打つため、反射を使うことができる。テニスなども同じ反射的な要素が強いスポーツと言えるだろう。
その点で静から動の動作にはメンタルが関係してくる部分が強く、ゴルフがメンタルスポーツだと言われる所以。さらに、ターゲットに対して体が半身になるという点もゴルフと野球の共通点のひとつ。

余談だが、ゴルフに似ているスポーツが野球以外にもある。それはアーチェリーだ。ターゲットに対して半身で構える体勢や自ら始動しなければならない点など。また風などの影響を受けるため、自然の条件にも左右されるといった共通部分がある。また、アーチェリーにはスタンス、セット、ノッキングなど構えてから矢を放つまでの動作にはいくつかのパートがあり、ゴルフで言えばアドレス、バックスイング、トップなどといった項目になる。技術力はもちろん精神力の強さが勝負を左右するという面でもゴルフと同じ空気感がある。ただ、棒を振るといった動作は入らないので、その面ではやはり野球選手の方が、ゴルフが上手いということになるのかもしれない。

話を戻してピッチャーがゴルフが上手い理由については、もうひとつ腕の使い方がある。腕をしならせて、最後に手首のスナップを効かせて速い球を投げる。単に腕の筋力で速い球を投げているわけではなく、あくまでも下半身の動きを主体にしているから速球が投げられる。上半身だけで投げているピッチャーは球が軽いとも言われるし、疲れてくると制球がままならなくなる。地面に対して圧力をかけながら、体重移動を行う。右ピッチャーなら左足で踏み込んで、そこで体が流れないように一瞬の“止め”を発生させる。それによって腕の強い振りが誘発されるわけだが、この一連の動きの中でポイントになるのがリリースするタイミング。これはゴルフのシャフトをしならせて、かつしなり戻りを発生させてヘッドを加速させる動きに似ている。ボールをリリースするタイミングと、ヘッドを走らせるタイミング。ここにピッチャーがゴルフが上手いと言う理由が詰まっている。

ただし、スポーツの中でもゴルフだけが持つ唯一無二の難しさがある。それは前傾することだ。しかも半身になっているため左右の目の角度がずれやすく、バランスを保ちにくいという要素がある。加えて言えばコース内には傾斜が多く、フラットな場所を探す方が難しいほど。だからこそ体のバランス力というものが重要な要素になる。
そう考えるとやはり体幹の強さや足腰の強さが必要になり、フィジカル面でベースが築かれている野球選手はゴルフが上手いと言うことが導き出される。今の日本のゴルフ界を見ると、体格の小さな選手が目立つ。柔よく剛を制すという美学はもちろん素敵だし、それがゴルフの魅力でもある。ただ、言い換えればプロ野球選手ほどの体格がなくても、ゴルフの世界ではプロとしてのレベルと保つことができると言う見方もできる。もしも「大谷翔平がゴルフをしていたら」と想像すると野球が嫉ましくも感じる。

より日本のゴルフ界が活性するために、ジュニア育成はもちろん大事なことだが、例えばプロ野球を目指し野球に没頭してきた高校球児をゴルフ界にスカウトするというような動きがあってもいいのではないだろうか。遡ればジャンボ尾崎プロがそうだったように、野球選手が持つポテンシャルをゴルフ界で発揮できる道筋ができれば、より日本のゴルフレベルの底上げにもなるのではないだろうか。


出島正登