19日(金)に開幕を控えるAリーグの18-19シーズン

本田圭佑がメルボルン・ビクトリーに移籍したことで日本でも注目度が高まったオーストラリア・Aリーグの18-19シーズンが、10月19日(金)にいよいよ開幕する。8月の契約締結や背番号決定の報道があって以降、本田の試合絡みのニュースがほとんど報じられなかったため心配する方もいたと思うが、ただ単にシーズン開幕前だったというだけだ。メルボルン・ビクトリーは20日(土)にメルボルン・シティとの“メルボルン・ダービー”で開幕を迎える。コンディションに問題がなければ本田も出場するはずで、大舞台に強い本田がいきなりのビッグマッチでどのようなパフォーマンスを見せてくれるのか、要注目だ。

そうは言っても、Aリーグについてあまりよく知らないという方が多いと思うので、開幕直前のタイミングということもあり、その概要を紹介したい。

オーストラリアには元々「オーストラリアン・ナショナル・サッカーリーグ」(NSL)というセミプロリーグがあった。それを改変して2004年にプロリーグとして発足し、05-06シーズンからスタートしたのが現在のAリーグである。

「18-19シーズン」という表記の仕方から分かるとおり、シーズンは欧州主要リーグ同様、年をまたぐ形で行われ、概ね10月に新シーズンがスタートする。8月に開幕する欧州に比べてスタートが遅いのは、チーム数が少ないからだ。現在のAリーグは10チームで構成されており、レギュラーシーズンは3回戦総当たり(27節)制で行われる。特徴的なのは、10チーム中1チームがニュージーランドからの越境参戦である点。ウェリントン・フェニックスというニュージーランドで唯一のプロクラブが参戦しており、かつてFC東京などでプレーしたネイサン・バーンズが所属している。

レギュラーシーズン1位のチームには翌年のAFCチャンピオンズリーグ(ACL)出場権が、2位のチームにはACL2次予選への出場権が与えられる。レギュラーシーズン終了後、上位6チームは「ファイナルシリーズ」と呼ばれる決勝トーナメントを戦うこととなり、そのグランドファイナルで優勝したチームにもACL出場権が与えられることとなる。ただし、ウェリントン・フェニックスについては、本拠地がAFC管轄外のオセアニア地区にあるため、条件を満たしてもACLに出場することはできない。また、下位リーグがないため、レギュラーシーズンで下位に沈んでも降格はない。全体的なレギュレーションはMLSに近いと言えるだろう。

選手の年俸に上限のある特殊な仕組み

メルボルン・ビクトリーは昨シーズン、レギュラーシーズン4位でファイナルシリーズに進出し、アデレード・ユナイテッド、シドニーFC、ニューカッスル・ジェッツを破って優勝し2019年のACL出場権を手にしている。つまり、来年のACLでメルボルン・ビクトリーがJクラブと同じグループに入れば、本田が“凱旋帰国”を果たす可能性もあるということになる。ちなみに、Aリーグは19-20シーズンからは2チーム増えて12チームで行われることが決まっている。新規加入する2チームについては10月31日に正式発表される予定だ。

AリーグはMLS同様、サラリーキャップ制を導入している。クラブが経営破綻しないよう、リーグ全体の収入に応じて選手給与の上限が定められる制度で、17-18シーズンは1チームあたり292万8000オーストラリアドル(約2億3440万円)となっていた。本田のメルボルン・ビクトリーでの年俸は290万ドルと言われており、普通に考えると彼1人だけでチームの上限に達してしまうのだが、彼はサラリーキャップの枠外となる「マーキープレーヤー」として契約している。

マーキープレーヤーとは本田のような実績のある選手を迎え入れるための制度で、サラリーキャップへの影響はなく、年俸の上限もない。本田の年俸290万ドルは、クラブとオーストラリアサッカー協会、そしてAリーグの試合を中継する『FOX SPORTS』が折半して負担するという。彼の移籍実現が、オーストラリアサッカー界全体を挙げてのミッションだったことがうかがえる。

過去にはこのマーキープレーヤーとしてアレッサンドロ・デル・ピエロやエミール・ヘスキー、ドワイト・ヨークらがプレー。長年にわたってオーストラリア代表の主力を務め、欧州でも活躍したハリーキューウェルやティム・ケーヒルなども、キャリア晩年はマーキープレーヤーとして祖国に戻り、活躍している。2012年から2014年にウェスタン・シドニー・ワンダラーズでプレーした小野伸二(現北海道コンサドーレ札幌)もマーキープレーヤーとしての加入だった。また、Aリーグには「ゲストプレーヤー」という制度もある。これは14週間限定で契約できる制度で、採用第1号は2005年にシドニーFCに加入した三浦知良(現横浜FC)だ。過去にはロマーリオやダビド・ビージャもゲストプレーヤーとしてAリーグでプレーしたことがある。

Aリーグでは現在、国内クラブ間での移籍金が発生する形での移籍を禁止するルールがあり、このルールとサラリーキャップ制があることによって若手選手の大半がクラブと1年契約しか締結できず、成長の妨げになっているという問題がある。そのため現在、両方のルールを廃止する動きが出ており、18-19シーズン以降、大きな改革が施されるかもしれない。

世界中から注目を集める“練習生”ウサイン・ボルトも

18-19シーズンのマーキープレーヤーとしては、シーム・デ・ヨンク(シドニーFC)やディエゴ・カストロ(パース・グローリー)、ロナルド・バルガス(ニューカッスル・ジェッツ)、オリオル・リエラ(ウェスタン・シドニー・ワンダラーズ)といった面々がいる。代表歴のある選手もいるものの目立った実績を残したビッグネームは不在で、この夏にはシドニーFCがフェルナンド・トーレス(現サガン鳥栖)の獲得を目指しながら失敗に終わっているだけに、FIFAワールドカップに3大会連続で出場し、通算4ゴールを挙げている本田の知名度や実績は群を抜いている。

そんな中、セントラルコースト・マリナーズでプレーする1人の“練習生”が注目を集めている。陸上男子100メートル、200メートルの世界記録保持者、ウサイン・ボルト氏だ。大のサッカー好きとして知られ、陸上競技の引退後にフットボーラーへの転身を宣言していたボルト氏は、8月から無期限の練習生として同クラブに加わり、トレーニングに励んでいる。そして10月12日に行われたサウスウエスト・ユナイテッドとのトレーニングマッチに先発出場すると、2ゴールを挙げて存在をアピールした。特に1点目は味方のパスに反応してスペースを突き、左足で豪快に決めたもので、瞬間的な加速のスピードは「さすが人類最速の男」と見る者をうならせるものだった。現在、欧州の小国マルタのバレッタというクラブからプロ契約のオファーが来ているようだが、このままセントラルコースト・マリナーズと正式契約を結ぶことになれば、Aリーグ全体にとっての大きな宣伝効果が期待できる。ボルト自身も、年収は広告収入で稼げばいいし、フットボーラーとしては完全なルーキーなので、マーキープレーヤーとしての契約を望む必要はない。彼の去就については不透明だが、本田とボルトがいれば、一気に華やかなリーグになることは間違いない。

メルボルンまでは成田空港から直行便が出ており、フライト時間も10~11時間程度。本田のプレーを見るために日本から訪れるファンも、開幕後は増えると予想される。間もなく開幕するAリーグで、本田はどんなプレーを見せてくれるのだろうか。

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池田敏明

大学院でインカ帝国史を専攻していたが、”師匠” の敷いたレールに果てしない魅力を感じ転身。専門誌で編集を務めた後にフリーランスとなり、ライター、エディター、スベイ ン語の通訳&翻訳家、カメラマンと幅広くこなす。