先週のネイサン・チェンに続き、3強の一角、宇野昌磨が登場

スケートカナダのハイライトは何といっても男子3強の一角、宇野昌磨の戦いぶりだ。先週のネイサン・チェンはショート、フリーで合計4回の4回転ジャンプを組み入れた、控えめの構成で280.57というスコアを出した。対して宇野昌磨は、ショートで2回、フリーで4回の合計6回の4回転ジャンプに挑む構成だった。結果、ショートでは4トウループ+3トウループでステップアウト、トリプルアクセルは転倒。フリーでは後半のコンビネーションジャンプを二つとも転倒と、ミスの重なる演技で277.25。パーフェクトならば300点に近づくはずの構成なので、妥当な点数ではある。もっとも宇野の場合、練習でもフリーのノーミスはなかなかできていないようで、「練習では1ミス、2ミスが多い」とのことだった。試合で300点を出すのはもう少し先のことになりそうだ。

フリーで見せた、宇野昌磨の熱さ

ショートでまさかの出遅れを喫した宇野昌磨は、「悔しさ、後悔」という言葉で自身の思いを表現した。特にトリプルアクセルの失敗については、「油断。やり直せるならやり直したい」と強い調子で反省を口にした。そしてその思いをぶつけたのがフリープログラム。宇野は演技冒頭から鬼気迫る表情で挑んだ。「昨日の失敗の悔しさから、今日のフリーでは最初から全部を出し切ろう」としたそうだ。ペース配分も考えない全力の演技。その結果、最後は体力が切れてしまい、コンビネーションジャンプのミスにつながったのだという。特に印象的だったのは一つ目のトリプルアクセル。ショートでミスをした時と同じ場所で跳んだのだが、見たことのないような厳しい表情で踏み切りに臨んでいた。このことについて聞いたところ、「どれだけひん曲がっても、どんなジャンプになっても、力で絶対に降りてやるぞ。頭から落ちてもいいから、僕は3回転半絶対回ってやるぞ」という熱い思いで臨んだのだという。これほどの熱さ、過去に宇野昌磨の発言から感じたことはなかった。いつも冷静、飄々とした印象だったのだが、一夜明け会見でそう問うてみたところ「僕は元々冷静でもないですし、すごく負けず嫌いですし、その時に思った気持ちをもう隠さずに出そうと思っています」との答えだった。そうした熱さ、今までは内に秘めていたということなのだろう。それを隠さずに表に出そうと心に決めた。大きな変化だと感じる。

友野一希は悔しい結果に終わった。フリー直前の公式練習では素晴らしいパフォーマンスを見せていたので、ジャンプアップを期待したのだが、試合本番では練習の成果を発揮することができなかった。今まで彼は、代役として国際大会に派遣されることが多かった。今年の3月の世界選手権も出場を辞退した羽生結弦の代役だった。その世界選手権で5位という実績を挙げ、今季はシーズン当初から代表選手として派遣されている。ただそのことが過度の気負いにつながっているようだ。「あれだけの成績を残せたからこそもっと上に行きたいっていう気持ちもあった」というが、まだトップ選手としての調整プロセスが整っていなかったように感じる。しかし、今までも順風満帆に来た選手ではない。挫折を繰り返して、そのすべてを乗り越えてここまでたどり着いた選手だ。「多分昨シーズンだったら僕はこんなに悔しがっていない。むしろやり切ったかな、ぐらいの気持ちで考えていると思います」。さらなる成長のための糧として、今回の悔しさを生かしてほしいものだ。

カナダの観客は熱くてレベルが高い!

収容人数にして1万人を誇る今回の会場、Place Bell。入場者数の公式発表がなかったので目視での印象だが、6割程度は埋まっていたようだ。さすがに満席とはいかなかったが、それでも多数の観客が訪れ、声援を送っていた。フィギュアスケート観戦に詳しい方ならご存じだろうが、カナダの観客は特に熱い。自国選手の演技前に半ば“奇声”ともいえる声援を送るのが恒例で、ある意味、応援文化の一部だ。カナダではアイスホッケーが最も人気があるのは当然なのだが、フィギュアスケート、カーリングのファンも多く、まだまだマイナースポーツと言えるシンクロナイズドスケーティングでさえも人気を博しているほどだ。氷上競技への理解がこれほど進んでいる国は他にはないだろう。

山下真瑚、GPシリーズデビュー戦で2位!浅田真央に並ぶ快挙!

女子のハイライトは、山下真瑚の活躍に尽きる。まだ15歳の高校1年生。今季からのシニア転向は、いささか早いのではとの懸念もあったのだが、その決断の正しさを1戦目から証明した形だ。かつてグランプリ東海クラブの偉大な先輩、浅田真央が2005年にGPシリーズのデビュー戦、中国大会で2位という鮮烈なデビューを飾ったことを彷彿とさせる。その時の浅田真央は1位、スルツカヤ、3位、荒川静香という世界女王二人の間に割って入ったのだが、奇しくも今回の山下真瑚も、1位、トゥクタミシェワ、3位、メドベージェワという新旧二人の世界女王と並んで表彰台に立ったのだ。山下選手は、トリプルアクセルなどの大技を持っているわけではないのだが、ジャンプを含む一つ一つのエレメンツのクオリティが高い。スケーティングもシニア1年目とは思えないほど良く滑っていて、PCS(演技構成点)で高く評価されるのも納得だ。2005年の浅田真央は続くフランス大会で優勝、勢いそのままにグランプリファイナルでも優勝という、圧巻のシニアデビューとなったのだ。さすがに同様のことを山下選手に期待するのは酷だが、ファイナル出場は現実味を帯びてきたと言える。ただ山下選手はとても控えめな性格で、素晴らしい演技をした後の取材でも反省点ばかり口にする。今回も素晴らしい演技で新旧女王二人と表彰台に立った感想を聞かれて、「嬉しいんですけど、下の点(PCS)もまだまだ上げて行けるところがあると思うので、回転不足もなくして、もっと点数を上げていかないといけないなと思います」。1位、トゥクタミシェワとの点差はわずか0.26。世界女王を僅差まで追い詰めたにもかかわらずこの発言。これには、それまで笑顔で話していた世界女王二人も神妙な顔になったほどだ。15歳の少女の、飽くなき向上心に感じ入るところがあったのだろう。自分の性格を聞かれて「マイペース」と一言。確かにそうなのだろう。他人の演技や順位を気にするでもなく、ただ自分のスケートを楽しく滑りたい。尊敬する宇野昌磨とも似ているように思う。次戦、ロシア大会はファイナル出場を懸けた戦いとなるが、「(ファイナルを)目指せるとは思えないんですけど、ロシア大会でも自分の精一杯ができたら、ファイナルには届かなくてもいい結果になるんじゃないかな、と思います」と、ここでも控えめな発言。ただ、自分のベストを尽くす決意を語ってくれた。それができれば、ファイナル進出は決して夢ではない。

樋口新葉は、疲労骨折寸前の右足で精一杯の演技をしたと思う。3週間前の東京ブロック大会で「全日本までに仕上がれば、という思いです」と、GPシリーズでの活躍は本人も見込んでいない発言をしていたのだが、ショートプログラムでは2位と大健闘。フリーは崩れてしまったが、現状のコンディションを考えれば致し方ない結果だっただろう。一夜明け会見で語った「悔しかったんですけど、でも安心した部分もありました」というのが偽らざる本心だろう。足への負担を考え、「短い時間で集中して練習する」プランでロシア大会を目指す。立て直しに期待したい。

松田悠良も、右足首の故障を抱えての試合となった。ジャンプの着氷の際に「腱が脱臼する違和感」を抱えての演技だという。この故障のため、現在ルッツ、フリップを跳ぶことができない。試合後は悔しさを露わにしていたが、3種類のトリプルジャンプの構成で最善の演技をした結果だと評価したい。全日本後に手術をする方針だが、そこまでは現状のまま練習を行う予定だという。彼女もロシア大会に出場予定だ。これ以上怪我を悪化させることなく、無事に乗り切ってもらいたいものだ。

VictorySportsNews編集部

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