4年後の北京五輪まで活躍し続けられるのか
11月10日、紀平梨花がシニアデビューとなるグランプリシリーズ第4戦NHK杯で優勝。各種スポーツメディアでも大きな話題となった。兵庫県西宮市出身の16歳にフィギュアスケート関係者は、“ポスト浅田真央”として大きな期待を寄せている。
「紀平はルックス、スタイルもよくジュニア時代から次世代のスター候補として注目されていました。最大の武器は、ジャンプの質と安定感。連続で3回転ジャンプを飛べるのは、世界でも彼女くらい。練習では4回転ジャンプも成功させています。性格も真面目で、練習熱心。若い頃の浅田を彷彿とさせます。今後の活躍次第で女子では浅田以来のスタースケーターに育つ可能性があるといわれています」(スポーツ紙記者)
フィギュアにおけるスターの条件は、オリンピックでの活躍。紀平は、4年後の北京オリンピックまで活躍し続けられるのか。その道程はなかなか厳しいという。
「紀平が今のスケートを4年後にもできれば、間違いなくメダル候補です。ただ女子選手は10歳代後半で体が大きく変化します。体重、体型の維持が難しくなり、ジュニアの時代に軽々と飛べたジャンプができなくなる。ジュニア時代に活躍して注目されていたのに、シニアでは伸びなかった選手もたくさんいます。そのためロシアでは、15~16歳を女子選手のピークと考え、そのタイミングでオリンピックを迎える選手を優先的に育成しているそうです。平昌で優勝したときザギトワは15歳でしたが、次のオリンピックは彼女より下の世代を出してくるのではないかといわれています。もちろん20歳を超えてからも活躍する選手もいますが、ジャンプよりも表現力で得点できるタイプ。日本選手の苦手とするところです。紀平にはジャンプのクオリティを維持しながら、表現力にも磨きをかけていってほしいと思っています」(フィギュアに詳しいスポーツジャーナリスト)
意外に低い報酬と莫大な一流コーチ費用
本人の努力だけでは足りない。紀平が次世代スターとして飛躍するためには、競技に専念できる環境づくりをしていく必要もある。莫大な経費がかかり、“貴族のスポーツ”といわれるフィギュアスケートだが、グランプリシリーズでも優勝賞金は18,000ドル。グランプリファイナルで25,000ドル、オリンピックにつぐ権威があるといわれる世界選手権でも45,000ドルと、意外なほどに低い。
「もともとがアマチュアスポーツですからね。すべての大会に優勝したとしても、1シーズン1000~2000万円が相場といわれる一流コーチを雇うこともできない。コーチや振付師と契約し、いつでも練習できる環境を整えるためには、有力なスポンサーの存在が欠かせない。シーズンオフにアイスショーで稼いで、シリーズが始まったら世界中を飛び回る。そんな状態では4年後を見据えたトレーニングもままならない。そこで有力選手はスポンサー探しも大きな課題となるのです」(同前)
紀平がオリンピックを目指すためのパートナーとなる有力スポンサーを獲得できるかは、今シーズンが正念場となるという。
「いまはフィギュアの注目度が高いので、彼女が今シーズン通して安定した成績を残せれば、来シーズン以降に有力スポンサーから声がかかることになるでしょう。浅田真央が人気のうちに羽生結弦が出てきたように、羽生が現役でフィギュアの注目度が高いうちに、次のスターが生まれるのが理想的です」(広告代理店関係者)
スポンサーの問題は、選手個人だけではない。実は、「フィギュア界は日本の金でまわっている」と証言するのは、前出の広告代理店関係者だ。グランプリファイナルや世界選手権等を主催する国際スケート連盟(ISU)のスポンサーのうち「約3分の2」が日本企業なのだという。
「日本ではフィギュアのテレビ視聴率が高く、広告効果が大きい。選手が演技をしている間、リンクのまわりにある企業広告はテレビに映り続けますからね。キム・ヨナが出ていた頃は韓国企業の看板も多く見られましたが、いまはどこの国のグランプリシリーズでも日本語の看板が目立ちます。視聴率が15~20パーセントと安定しているうえに、日本人選手が活躍すればニュースやワイドショーでも繰り返し流される。看板を希望する企業は多いのですが、枠数は決まっているので、数年前から順番待ちの状態だそうです」(テレビ局関係者)
羽生に続くスター誕生がフィギュア人気持続の鍵
引く手あまたとなっているリンクの看板を抑えている企業のなかには、フィギュアが不人気だった時代からスポンサードし続けたところも多い。フィギュアのテレビ放送のほとんどゴールデンタイム。スポンサーにとっては、それも大きな魅力になっているのだという。
「ノンバンクのカードローンや遊技業は、規制によってゴールデンタイムにテレビCMを流すことができません。でもリンク看板なら問題がないし、イメージもいい。CM規制を受けている企業にとっては、これ以上ない広告媒体なのです」(前出・広告代理店関係者)
マーケットにおける価値は、いまや「全盛期のイチロー、中田英寿なみ」という羽生の引退は、もはやカウントダウンの状態。彼に続く日本人スターが現れなければ、世界のフィギュアスケート界が下火になりかねない。
「フィギュア人気が定着するかどうかは北京までの4年間にかかっている」(前出・スポーツ紙記者)
紀平をはじめ、次世代スケーターにかかる期待は大きい。
平昌で、女子フィギュアはここまで進化した。究極の戦いを振り返る
女子フィギュアスケート史に残る、美しくも凄まじい五輪となった今大会。フィギュアスケート種目の中で先駆けて行われた団体戦は、日本女子チームにとっては不安を残すスタートとなったが、個人戦ではハイレベルな争いに食らいつき見事に入賞を果たし、日本中を感動させた。(文=岩岡はる)