Aリーグのレベルの高さには疑問符

「本田の全盛期は2010年のW杯南アフリカ大会から2014年のブラジル大会まで。クラブでいえばCSKAモスクワ時代で、ACミランに移籍してからは目立った活躍はできていません。ケガや病気の影響もあったし、当然年齢的な衰えもある。ロシア大会で代表に選ばれたのも“功労賞”のような部分があった。それでも3大会連続でゴールを決めるあたりは、『持っている』といえるんでしょうね。もともと足は速くないし、全盛期のようなキープ力もない。そんな彼が活躍できるということは、Aリーグのレベルはそれほど高くないんでしょうね」

Aリーグが開幕したのは、2004年。現在はニュージーランドの1チームを加えた10チームで優勝を争っている。もともとオーストラリアの3大スポーツといえば、ラグビー、クリケット、そしてオーストラリアン・フットボール。サッカーは移民の間では人気があったものの、国民的スポーツとまではいかなかった。そんな低迷していたサッカー人気に火が着いたのは1974年以来、32年ぶりの出場となった2006年のW杯ドイツ大会だった。初戦で日本を相手にW杯初勝利をあげると、グループリーグを2位で突破。ベスト16に進出すると、国内のサッカー人気も急上昇。4年後のAリーグ発足につながっていった。

「当時は、監督に名将と呼ばれていたヒディングを招聘するなど政府もサッカーの育成に力を入れていました。イタリアや東欧などからの移民の子どもたちを中心に代表も力をつけ、Aリーグも高いレベルを維持できていました。しかし2000年代以降は、移民がヨーロッパ系からアジア系に変わり、レベルが落ちてしまった。またAリーグは、サラリーキャップ制を導入しているため、チームの総年俸が210万豪ドル(日本円で約1億7300万円)に抑えられている。本田のように1チーム1人だけが認められている“マーキープレイヤー”(年俸総額に関係ないプレイヤー)をのぞいては、せいぜい年俸1000万円程度。この金額ではさすがに夢がない。もともとオーストラリア人は、海外志向が強いこともあって、若くて有望な選手は、どんどん国外に出ていってしまうのです」(Aリーグに詳しいサッカージャーナリスト)

メルボルン在住の商社マンは、この秋、本田の移籍を期に初めて地元のサッカースタジアムに足を運んだという。
「オーストラリアで暮らしていてもサッカーが話題になることはほとんどありません。クリケットやラグビーはテレビでやっていますが、Aリーグは放送しているかどうかもわからない。せっかく日本人のスター選手が来たので観戦してみましたが、正直いってレベルが高いとは思えませんでした。スピードはないし、ミスも多い。ラグビーみたいにガンガンぶつかりあうかと思ったら、そんなこともない。Jリーグのほうがずっとうまいし、激しいと思いました。そんなレベルですから本田選手が活躍できるのは当然。日本代表では足が遅い、走らないと言われていましたが、ここではそれが目立つこともない。パスやシュートの精度はさすがです。他の選手とはレベルが2段階くらいちがう感じがしました」

【参考】Aリーグ 歴史/AFCにおける戦績

本田の東京五輪出場はあるのか?

前出のサッカー・ジャーナリストもこう語る。
「AFCアジアチャンピオンズリーグでは、2014年にAリーグのウェスタン・シドニー・ワンダラーズが優勝しましたが、それ以降は低迷している。リーグ全体の実力としては上位チームでもJ1下位レベル。下位チームだとJ2かJ3程度の力しかないと思います」

メルボルン・ヴィクトリーが本田に払っている年俸は推定3億円。実力はもちろん、その人気にも期待したはずだ。

「観客の入りは、半分いかない程度。1万人いかないくらいだと思います。ほとんどが熱心な地元のファンで、日本人もちらほらいましたが、数えられるくらい。もともとシドニーやゴールドコーストに比べて、メルボルンは日本人観光客が少ないんです。もちろんこれから優勝争いをしていくことになれば多少は盛り上がるかもしれませんが……」

日本代表からの引退は表明したものの、東京オリンピックにオーバーエイジ枠での出場を狙っている本田圭佑。

「本田としては最後の花道を東京オリンピックで飾りたいはずです。高いレベルのリーグでベンチに座っているか、Aリーグでレギュラーとして活躍するか。オーバーエイジで呼ばれる可能性があるとしたら確実に後者。そういうことは本田も理解しているはず。あと2年、同じくらいの活躍を続けられれば、“精神的支柱”として呼ばれることは十分に考えられます。でも日本サッカーの未来を考えれば、いつまでも本田に頼るわけにはいかない。若手の選手には、彼を押し出すくらいのがんばりを期待したいですね」(前出・スポーツ紙記者)

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VictorySportsNews編集部