「会場に決定しているのは、千葉県一宮町の釣ヶ崎海岸、通称“志田下”と呼ばれる海岸です。ビーチブレイクの海岸で、プロを目指す若手も集う“波乗り道場”とも言われる場所。“うねり”が入ればプロやローカルサーファーのハイレベルなサーフポイントとして有名です。志田下を含む九十九里はピークがいくつもあるビーチブレイクが多く、週末サーファーなども多く、人が集まるエリアなのですが、五輪が開催される夏場の波は、本格的な低気圧のうねりが入る9月10月のシーズン前。高気圧が張り出した夏型の気圧配置でうねりも発生しにくく、さらにはサーフィンには天敵のオンショアという風が日中吹き、波のフェイスも整いにくい時期なんです。本格的な低気圧のうねりでないと、せいぜい腰から胸程度の高さのことも多いので、ワールドクラスなダイナミックサーフィンは期待できない。
 せっかく五輪でサーフィンが盛り上がるチャンスなのに、一般の方々にもわかりやすい“チューブ”の期待の薄い時期に、志田下がなぜ選ばれたのか。どピーカンの真夏の海水浴シーズン真っ盛りの8月ですからね。うねりに敏感な新島とか、宮崎とか、ワールドクラスとまではいかなくても、それに近い波が期待できる日本の素晴らしいポイントは他にもたくさんあるんです。オリンピック自体の時期が決まっているから仕方ないのはわかるけど、どうして真夏の8月に、世界レベルの選手が集い、世界が観る初めてのオリンピックのサーフィン会場が志田下に決まったんだ?政治的理由か?サーファーはポリティックスが嫌いですからね。背景を疑問視している人もたくさんいます」(サーフィンに詳しいジャーナリスト)

東京五輪のサーフィン競技については、本格的なウェイブプールを作って、そこで開催されるという噂もあったのだという。

「ワールドチャンピオンに11回輝いたサーフィン界のレジェンド、ケリー・スレーターがWSL(ワールドサーフィンリーグ)と組んでカリフォリニアに作ったハイパフォーマンスのウェイブプール(サーフランチ)を木更津に作るという計画がありました。ケリー・スレーターが10年以上かけて作った本格派のプールで、サーフィンのトップリーグで、ワールドクラスの世界中のサーフポイントを転戦して行われるWCT(ワールドチャンピオンシップツアー)の会場にも去年から選ばれています。
 人工波であれば、チューブの波を確実につくりだせ、どの選手も同じ条件で戦えるので、世界中の人が注目する五輪など、限られた期間の中でハイレベルな大会を実施しなくてはいけないような大会には最適。サーフィンは自然相手ですから、波の発生だけはどうにもならない。そこに新たに登場した、『アリーナ型サーフィン』を可能にする人工波。木更津ではすでに用地取得の話も進んで、住民への説明会もあったとか。そんな施設がつくられるなら是非観戦にも行ってみたいし、美しいチューブの波がブレイクする、一般の方々が見ても分かりやすい波で試合が行われたほうが五輪も盛り上がると思いますよ。フィギュアスケートのように、演技に観客も選手も集中できる。やはりサーフィンは、“波”のクオリティが大切なスポーツですから」(同前)

このウェイブプールが完成すれば、ワールドクラスのサーフィンを多くの人が楽しむことができる。ところが……。

「当初は2020年の五輪前に完成するという話でしたが、計画はあまり進んでいないようです。というよりもどうやら頓挫したとの噂も、用地が取得できたとの噂も真実がよくわからないんです。いまさら会場変更というのも困るから、どこかから圧力がかかっているんじゃないかって噂もあります。オリンピックのサブ会場や練習会場に押し込むための、政治力を持つ経営者選びも重要な要素になっているようです。会場にならないとしたら、莫大な経費の回収が難しくなる。このまま頓挫してしまう可能性も高いでしょうね」(木更津の地元関係者)

もちろん釣ヶ崎海岸にいい波がくる可能性はゼロではない。

「条件は、大型の低気圧が発生して、しっかりとしたうねりが届くこと。そうすれば、選手もある程度コンディションに納得したサーフィンを披露できるでしょうし、コンディションに対する不満も出にくくなる。せっかくのオリンピックだからこそ、多少風が入ろうとも、一定以上のダイナミックなサーフィンの環境が担保されていてもらいたい。やったはいいけど、ぜんぜん盛り上がらなかった、なんで8月の千葉のビーチにしたんだ? サーフィンをわかっている人がきちんと考えたのか?ということになると、五輪のサーフィンが1回でなくなってしまうことにだってつながりかねない。いま日本ではサーフィンをがんばってやっているのはオジサンが多くなってきたとも言われている。五輪を契機にたくさんの若者にサーフィンの魅力を知ってほしいと思っているんですが、いまのままでは難しいかもしれません」

サーフィン業界待望の“ビッグスウェル”もこのままでは、“ビッグウェイブ”としてブレイクしないで不発になってしまうかもしれない。


VictorySportsNews編集部