その流れが目に見えたのが、先の年末年始だった。大阪の東大阪市花園ラグビー場で開かれた第98回全国高校ラグビー大会では、千葉の流通経済大学付属柏高校(流経大柏)を率いて4強入り。2013年に同校コーチとして赴任した元リコーの相亮太が、監督就任4年目にしてクラブ史上最高成績を収めたのだ。

また、パナソニックの主将や日本代表入りの経験を持つ霜村誠一は、群馬の桐生第一高校(桐生一)の監督として同大会初出場を果たした。一部の中堅校が手堅い力勝負に固執しがちななか、ボールを大きく動かすスタイルを志向。2回戦で大阪の強豪である常翔学園高校に0―67と大敗も、こんな哲学をパフォーマンスににじませた。

「(力勝負重視のスタイルは)もしかしたらラグビー離れを招いてしまう。怪我をしないためにもフィジカル強化は大事。その一方で、世界を見据えるなら高校生のうちからスペースを使う感覚でアタックした方がいい」

ずっと教員志望だった相、霜村がプロ活動をしていた2000年代から2010年代序盤は、トップリーグに海外の有名な選手や指導者が相次ぎやって来た時期と重なる。両者は、国内の競技力が高まるさなかにプレーしていたと言える。また2人ともスパイクを脱いで間もなく、現役選手などとの強いネットワークも持つ。少なくとも現時点では、国内最先端の知見にアクセスしやすい。

相はかつての同僚で元7人制日本代表の小吹祐介をスポットコーチに招き、今季の全国7人制大会で初優勝。霜村も週に2日は古巣パナソニックのグラウンドで練習し、自らのタックルスキルを選手に伝授した。自身のリソースをチーム力強化に還元している。

高校日本代表のコーチの1人は、名選手だった指導者の増加に「集まった選手に『このレベルから教えなきゃいけないのか』と思うことがなくなるのでは」と喜ぶ。現状では、基本プレーや近代戦術のトレンドに疎い候補選手がいる様子。競技への造詣が深いコーチが各校に散らばれば、従来よりも高水準でのセレクションができそうだと期待する。

もっともこの世には、「名選手、名指導者にあらず」という格言もある。器用ではない選手との感覚の乖離に気づかない指導者、選手引退後に競技の進化へ追いつけなくなる指導者を指してのフレーズだろう。

元20歳以下日本代表ヘッドコーチで現サントリー監督の沢木敬介は、昨季までにトップリーグで2連覇を達成。「コーチングは、学ばなきゃいけない」と自らの態度を示し、こうも言った。

「色々な経験を積んだ人間がコーチとして成長する志があれば、その人はいいコーチになりますよ。ただ、トップリーグでやっていましたという自分の経験だけで高校生を教えても、少しは良くなるかもしれないですけど、あまり(成長への)影響力はないんじゃないですか。(プレーの注意点を)言ってもすぐにできない選手がいるとする。ただ、そのできないことを選手のせいにしちゃうと、指導者の成長は止まる。選手がわかるように説明したり、(誰にでも指導内容が)わかるようなストラクチャーを作らなきゃいけない」

まして対象が高校生となれば、なかには金の卵も、卒業後にラグビーを辞める部員もいる。高校の指導者には、教え子にラグビーが好きでよかったと思わせること、部活を通じて心身のしなやかさやたくましさを身に付けさせることなど、競技力向上以外の使命が多くある。それらは、元トップリーガーだからといってできるとは限らない。

そんななか霜村は、元トップ選手がはまりがちな罠に早くから気づいたという。

就任間もない頃、選手に所定の攻め方を授けたつもりが、試合でその通りに動いてもらえず星を落としたことがあった。心身とも成長過程にある10代の選手へ指示行動を課すのは、やや難しいと反省した。そこで今季は、自身がパナソニックで指導を受けたロビー・ディーンズ監督を参考にして「選手が考える環境づくり」を意識したという。

幸運にも3年生の多くは、普及活動の一環で現役時代から接してきた少年たちだった。それぞれの個性を深く把握していた霜村はまず、対話術に長けた新井穂主将とよく喋った。

「生活や練習について、僕の言ったことを彼が選手に伝えるようになって」

攻防の戦術は、自身と選手との議論を経て作り上げた。選手に主体的なチーム作りを体験させることで、初出場した全国大会初戦の日はこう喜んだものだ。

「今朝、いつも通りの感じで選手たち同士ですごくいいミーティングをしていた。何なら、僕の方がナーバスになってたんじゃないかってくらい」

相も「高校ラグビーは人間形成の場」と謳い、選手と重要課題を共有する際は指示よりも問いかけの形を取る。元NECの社員選手で現在は國學院大學栃木高校(國學院栃木)のコーチをする浅野良太も、「とにかく選手に話をさせる」ことを重視するようになったという。霜村も味わった、「伝えたつもりが選手は理解できていなかった」という失敗を防ぐためだ。

「僕が見ている絵と選手が見えている絵が同じかどうか。それを知るにはコミュニケーション、お互いの信頼関係が必要」

赴任5年目で迎えた今回の花園では、シード校の日本航空高等学校石川を倒して16強入り。小柄なフォワード陣が接点で相手を引きはがすさまは、浅野が現役時代に得意だったプレーと重なった。今年度の17歳以下日本代表で監督を担うなど貴重な経験を積む浅野は、自身のコーチングをブラッシュアップし続ける。

「高校生でもこういう(トップリーグのエッセンスを注入する)コーチングをすると変わると、感じてもらいたいです。好きなラグビーをやるからには、幸せな思いをさせたい。それが元トップリーガーのできることです。まずはチャレンジしようというマインドを持っている子の方が、結果的には伸びる。だからコーチングの時は(選手の)人間性を磨かないといけない。(プレーだけでなく)キャラクターも並行して育てていけるのが高校年代の魅力だと思います」

東福岡高校の監督として高校日本一も経験した藤田雄一郎は、元トップ選手の高校指導者への転身について「高校生って、毎日、一緒にいないとだめだと思う」と言及する。

「教えて、評価して、褒めてと、色んなことをしていかないと。トップを経験した選手であれば、どれだけ目線を下げられるか、いかに膝を折り切るかですよ」

話をしたのは、今年の花園で8強進出を決めた2019年1月1日。結果的に準決勝まで勝ち進むが、「いまのチームがベスト8になるなんて思っていなかった」とも続けた。仲間同士の「いざこざ」からの「仲直り」などさまざまな「物語」を経てきたとし、こうまとめる。

「物語。物語ですよ。一度、高校ラグビーの監督をやったら、やめられないですよ」

まるで、すべてのラグビーマンに自らの道を勧めるような口ぶりだった。
 
かつての名選手が、チーム作りや人づくりという「物語」に触れて名指導者になってゆく。そんなエピソードが集まれば集まるほど、ラグビー界は豊かになりそうだ。

向風見也

著者プロフィール 向風見也

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年にスポーツライターとなり主にラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「Yahoo! news」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。