口調は徐々に激しさを増していった。日本スポーツアナリスト協会が1月26日に東京都内で開催した「スポーツアナリティクスジャパン2019」。川淵氏は、各競技のアナリスト(分析家)が一同に会するイベントで講演し、怒りをあらわにした。

「現在、僕が一番問題視しているのは高野連の問題」

そう切り出すと、その後の集まった報道陣とのやり取りの中でさらに怒りの度合いを強め「500円取ったぐらいで制裁する権利があるのか。高野連が絶対不可侵の神聖な場所であるかのように思っていること自体がおかしい」と、まくし立てた。

川淵氏が怒りの矛先を向けたのは、昨年12月の“事件”だ。高知商高の引退した3年生の野球部員が、ダンス同好会が500円の入場料を取って高知市内で開催した発表会にユニホーム姿で出演した。昨夏の甲子園大会での応援に対する感謝の思いによる行動だったが、これを日本高野連が問題視。「参加は問題ないが、有料だったことが商業的利用に当たる」と日本学生野球憲章に抵触するとして、野球部長の謹慎処分が相当と日本学生野球協会審査室に上申したのだ。

Jリーグ創設に尽力し、バスケットボール界の改革にも携わった川淵氏は、甲子園大会などで入場料を取っていることとの整合性が取れないことを指摘。「もう怒り心頭ですよ。その高校のダンス部の活動に、何でその高校の野球部が出たらまずいのか。本当にそういう旧態依然たるもの、体質を変えないと」と一刀両断した。さらに「頭が明治(時代)以来、変わっていないんじゃないか」とまで言い切り、日本高野連を痛烈に批判した。

川淵氏は、これまでも大勢の部員がいる野球部などで試合への出場機会に恵まれない子供たちがいる現状を踏まえ、垣根を越えて他の部活動に自由に取り組める体制を実現するよう強く求めてきた経緯がある。だからこそ「(処分の)内容によっては黙っていない」と強調し「スポーツ界は今、変わろうとしている。野球界も今が変わるチャンス。今のままで良いと思っているなら、それが一番問題」と訴える。一方で、2月1日に開かれる日本学生野球協会審査室会議で決まる予定だった高知商高の処分は、同様の報告が複数の学校からあったことなどを理由に、日本高野連がいったん処分を保留とすることを決定している。

また、1月25日に東京都内の日本外国特派員協会で「日本の野球界は変わらなければならない」とのテーマで現役選手としては異例と言える記者会見を開いたのが筒香だ。

野球人口が少子化のペースより6~10倍のスピードで減っているとのデータを挙げて警鐘を鳴らし、その一因に「勝利至上主義」があると説明。「勝つことが第一に優先され、子供の将来が潰れてしまっている」「子供たちの大会がほとんどトーナメント制で行われている」「子供はできないのが当たり前なのに指導者がイライラして暴言を吐く。それでは楽しくなくなってしまう」などと問題提起し、意識改革に必要性を訴えた。

中でも、高校野球の現状には危機感を持っている様子で「高校野球では教育の場と言いながら、ドラマのようなものをつくることもある。新聞社が主催しているので、高校野球の悪というか、子供たちのためになっていないという思いを(メディアが世間に)伝え切れていない」と、スポーツの一大コンテンツとして大きな“金”が動いていることなどから、“大人の論理”が中心になりがちである現状を問題視した。春の選抜大会は毎日新聞社、夏の選手権大会は朝日新聞社の主催で、両新聞社の社長は日本高野連の最高顧問に名を連ねてもいる。だからこそ、メディアにも問題意識を持ってもらいたいというのが筒香の抱く思いだ。

自身も横浜高で甲子園に出場し、その経験から今の活躍があるだけに「勝つ喜び、負けて悔しがる思いは必要」と、その意義も認識している。一方で「子供が優先にならないといけない」と明言。私案として球数制限の導入やリーグ制への切り替えなどを提言し「子供の将来をどうするかという問題意識をみんなで持っていれば、解決は難しくないはず」と続けた。

球数制限の導入については、年末年始に一つの動きがあった。昨年12月に新潟県高野連が今春の県大会で導入することを発表。これに対し、日本高野連側は1月9日の業務運営委員会で、全国同時に同じルールで始めることを理想とし、今春の実施には時間が足りないことを理由に“待った”をかけたのだ。

日本高野連も、昨春のセンバツからタイブレーク(延長十二回までに決着がつかない場合、十三回から無死一、二塁の状態で打順は前の回から継続して始める)制を導入するなど、選手保護の観点から改革を進めようとの動きが徐々に出始めている。ただ、昨夏の甲子園で準優勝した金足農業高の吉田輝星投手や、かつての横浜高・松坂大輔投手のように、過酷な戦いを経てスター選手が生まれてきた過去があるのも事実。筒香が訴えるような改革がすんなりと進むと考えるのは楽観的にすぎるだろう。

スポーツ界の改革で多大な経験と実績を持つ川淵氏と、日本代表の4番を打つなど球界屈指のスター選手としての地位を確立している筒香。問題視する対象に違いはあるが、共通するのは“子供目線”での改革の必要性だ。時を同じくして、2人の“大物”が野球界の問題点を指摘したことの意味は重い。


VictorySportsNews編集部