「派閥を作らない」

目指すのは、日本代表の強化とチームの成績向上との両立。この国初のプロクラブであるサンウルブズがスーパーラグビーで戦えるのは、現状では2020年までとなっている。現場が希望する2021年以降の存続を実現するためにも、フィールドで存在感を示したいところだ。

小さくても突進力のあるセンターのマイケル・リトルが、成功の秘訣を語る。

「小さな派閥、グループを作らず、ひとつのチームとして活動する。新しい選手が来たら、そこの仲間に入れます。夕飯を食べている時も、端っこに座っている選手を仲間外れにしない。特にいまいる選手は海外出身者が中心。我々は友人のように話し合えます。そこでしっかり、カルチャーを作っていきたいです」

「国内一周はできるくらい」

1月10日。都内ホテルの一室で、朱色のジャージィを着た堀江翔太が共同取材に応じる。記者の1人は言った。

「今年も、船の比喩を…」

さかのぼってチーム発足前の2016年。サンウルブズの初代主将でもある堀江は、同じように報道陣に囲まれ「泥船に乗るようなものだが、やるしかない」といった趣旨で発言。そもそもこのクラブは、始動前年の2015年8月に選手が揃わないことで消滅の危機に瀕していた。堀江が「泥船」と残したのは、ある意味では自然な流れだった。

チームは突貫工事で初年度の頭数を揃え、ヘッドコーチを毎年代えながらも日本代表と戦術やプレースタイルを共有。2016年秋日本代表のボスとなったジェイミー・ジョセフへは、2018年のサンウルブズの指揮官も兼務させた。国内リーグを戦う選手に代わる代わる休暇を与えねばならない事情を抱えるなか、通算戦績はファーストシーズンから順に「1勝1分13敗」「2勝13敗」「3勝13敗」としてきた。

4シーズン目はどうなるか。現在リハビリ中の堀江はこう展望する。

「今回はいいんじゃないですか。外国人選手もいっぱいおるし。国内一周はできるくらいのいい船になっていると思います。あとはそこから、どんだけ磨き上げるか。シーズン最後には世界一周できるくらいにはなっていたいですね」

やっと、あるべき姿になった?

事実、サンウルブズは右肩上がりに陣容を豪華にしている。

今季は昨季新加入でブレイクしたプロップのクレイグ・ミラーがリトルとともに共同主将を務める。司令塔であるスタンドオフでは、前年にゴールキック38回連続成功というスーパーラグビーレコードを打ち立てたヘイデン・パーカーが注目される。

身体衝突の多いセンターのポジションには、ニュージーランド代表6キャップのレネ・レンジャー、スコットランド代表1キャップのフィル・バーリーも新たに参戦。長身選手が務めるロックでは、コカ・コーラでプレー経験のあるマーク・アボットが頼もしい。

リトルもミラーもパーカーもレンジャーもバーリーもアボットも、いますぐ日本代表に入れるわけではない。現状では「当該国居住3年以上の代表未経験者」という条件に当てはまらないからだ。そのため一部では、「なぜ日本のチームなのに外国人が多いのか」「同じ実力ならば若い日本人選手を試した方が代表強化に繋がるのでは」といった声が漏れる。

もっとも、ファンがこんな嘆息を漏らすのは、2020年以降のスーパーラグビー参戦見合わせを目論む一部勢力の思うつぼだ。そもそもサンウルブズは存続のために勝たねばならない。だから他国の真似できない日本独自のスタイルを打ち出しつつ、国際舞台に慣れた強靭な戦士を揃えるのだ。

ましてや今年は、ラグビーワールドカップ日本大会が開催される。

そのため「第3次ラグビーワールドカップトレーニングスコッド(RWCTS)」とされる日本代表候補の多くは、12月中旬から休暇が与えられる。枢軸候補は2月からRWCTSキャンプという別動隊で動き、サンウルブズに加わるのは早くても3月以降の見込みだ。

かたや、ジョセフらの方針で開幕からサンウルブズに帯同する日本代表候補は15名(故障離脱者を含む)。そのひとりの松田力也は、スタンドオフとしてパーカーと切磋琢磨しながらタフな試合経験を積みたいとする。合流期間についてはこう展望する。

「RWCTSで調子の上がってきた選手がサンウルブズに合流したところで(先発隊との)チェンジもあるかもしれないですが、具体的にどうなっていくかはわからない」

日本出身者の顔ぶれが季節ごとに入れ替わるのなら、1季通して帯同する海外勢がチームの軸になるのは当然である。

RWCTSでスクラムハーフの田中史朗は、2013年にハイランダーズに入り日本人初のスーパーラグビー選手となっている。
国際舞台を肌で知るこの人は、2014年の時点で名称決定前のサンウルブズについてこう証言していた。
「外国人選手のなかに10~15人くらいの日本人選手が混ざってやれば、サンザー(スーパーラグビーの統括団体)も納得してもらえるうえに経験も積める」

サンウルブズは、時間をかけて本来あるべき姿に近づいているようなものだ。

「意思統一」はどうおこなうか。

1月14日に始動した今季は、プレーオフトーナメント進出を目指す。ミッションクリアには、リトルの言う通り「派閥を作らず…」が必須項目となろう。過去には日本生まれの選手と外国出身の選手との間に無意識的な分断を生んだり、メンバーが入れ替わった直後のゲームで防御ラインを乱したりと絆づくりに苦心している。

またトニー・ブラウン新ヘッドコーチは今季、日本代表でジョセフの右腕を担うためしばしクラブを抜けることもありそう。「いまはいい状態」としながら、慎重さもにじませる。

「意思統一ができているかの本質は、実際に試合をやらないとわからない」

さらに突っ込んで話すのは、RWCTSの一員でもあるプロップの山下裕史だ。体格差の劣勢を組織力でカバーするのが日本代表およびサンウルブズのモットーだが、身体能力やスキルに長けた新顔がそれに適応できるのか。1月下旬、山下はこう課題を挙げる。

「外国人選手には特有の爆発力がある一方、攻守両面での規律が必要になると思います。自由はいいことですが、規律を乱すことにも繋がる。ディフェンスで(1人が勝手に)飛び出さない、アタックでシェイプ(陣形)を守るといったことをどう教え込めるか」

仲間同士での意思統一がより求められる動きのひとつに、スクラムがある。フォワードの選手たちが8対8で組み合う攻防の起点だ。日本代表では長谷川慎のコーチングが小さく堅い塊を作るものの、今季のサンウルブズではマーティ・ヴィール新スクラムコーチが長谷川と違う手法を取る。

スクラムで最前列に入る山下は「(代表に)戻った時に組めなかったらややこしい。コーチを巻き込んで…」。姿勢やジャージィの掴み方などの緻密さに疎い外国人フォワードがいたとしたら、彼らを自分たちの形にフィットさせるよう働きかけたそうだ。もちろん、協調関係も維持する。

「代表のスクラムは1~2本組んだらわかる。新しいコーチの教えも聞いて、自分の引き出しを増やせれば」

個々の能力は3勝した昨季を上回るが、3勝した昨季を上回るチームワークは目下構築中といったところか。バーリーは「日本人選手は緻密。お互いに助け合っていいコミュニケーションが取れています」と感謝する。多国籍軍がどこまで団結できるか。それが「世界一周」の旅の快適さ、さらには星取表の中身を変える。

向風見也

著者プロフィール 向風見也

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年にスポーツライターとなり主にラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「Yahoo! news」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。