TBSは2018年の女子ツアー38試合のうち、「ダイキンオーキッドレディスゴルフトーナメント」、「ほけんの窓口レディース」、「大東建託・いい部屋ネットレディス」、「NOBUTA GROUP マスターズGCレディース」、「TOTOジャパンクラシック」の5試合を放送した。2019年は引き続き放送するものの、今後の対応次第では2020年の放送を断念する可能性があることを示唆したわけだ。

女子ゴルフの放映権問題は、これまで所在があいまいだった放映権の一括管理を日本女子プロゴルフ協会(LPGA)が主張。日本テレビ系列との交渉が合意に至らず、「KKT杯バンテリンレディスオープン」、「中京テレビ・ブリヂストンレディスオープン」、「ミヤギテレビ杯ダンロップ女子オープンゴルフトーナメント」の3大会の中止を発表した後、再交渉の結果、大会継続が決定したという紆余曲折があった。これで問題が解決したかに思われたが、TBSもLPGAの対応に不信感を示す格好になった。

日本テレビだけでなくTBSも不信感を募らせているということは、LPGAの交渉には何らかの不備があるのだろう。一方で、シーズン開幕直前に冷や水を浴びせるような発言をしなくてもよいのではという印象も抱いた。

この問題を語る上で、女子ツアーの成り立ちをあらためて振り返る必要がある。LPGAの小林浩美会長も口にしていることだが、女子ツアーは人気のない時代からテレビ局がずっと放送してきた。それが今の女子ツアー人気につながっている。テレビ局が自ら主催者となり、スポンサーを集め、試合を継続させてきた。

開催が危ぶまれた日本テレビ系列の3試合は、「KKT杯バンテリンレディスオープン」(熊本県民テレビ主催)、「中京テレビ・ブリヂストンレディスオープン」(中京テレビ、ブリヂストンスポーツ主催)、「ミヤギテレビ杯ダンロップ女子オープンゴルフトーナメント」(宮城テレビ放送主催)と、いずれもテレビ局主催大会だ。

そしてTBSが放送断念を示唆した5試合も、「ダイキンオーキッドレディスゴルフトーナメント」(ダイキン工業、琉球放送主催)、「ほけんの窓口レディース」(RKB毎日放送主催)、「大東建託・いい部屋ネットレディス」(大東建託主催)、「NOBUTA GROUP マスターズGCレディース」(延田グループ、スポーツニッポン新聞社、IMG主催)、「TOTOジャパンクラシック」(TOTO、毎日放送、スポーツニッポン新聞社主催)と、5試合中3試合でテレビ局が重要な立ち位置を占めている。

このような成り立ちの試合は他にもある。テレビ朝日系列だと「リゾートトラスト レディス」(リゾートトラスト、静岡朝日テレビ主催)。

テレビ東京系列だと「パナソニックオープンレディースゴルフトーナメント」(テレビ東京、博報堂DYメディアパートナーズ主催)。

フジテレビ系列だと「アクサレディスゴルフトーナメント in MIYAZAKI」(テレビ宮崎主催)、「フジサンケイレディスクラシック」(フジテレビ、産経新聞、サンケイスポーツ、文化放送、ニッポン放送、BSフジ主催)、「宮里藍 サントリーレディスオープンゴルフトーナメント」(サントリーホールディングス、フジテレビ、関西テレビ放送主催)、「北海道 meiji カップ」(北海道文化放送、北海道新聞社、道新スポーツ主催)、「デサントレディース東海クラシック」(東海テレビ放送、デサント主催)の5試合が同様のスキームで成り立っている。

つまり、日本テレビやTBSはトーナメントを放送するかどうかだけではなく、主催者としての立場から放映権について疑問を投げかけているわけだ。

※下記【参考】の「2019年日本女子ツアー39試合の主催者一覧」をみると分かるように、TV局が主催者の大会は多い

【参考】2019年日本女子ツアー39試合の主催者一覧

だが、テレビ局の対応について、こんな声も聞こえてくる。「テレビ局が主催者と言っても、お金を出しているのはスポンサー。番組制作費も大会運営費もスポンサー持ちで、放送枠は買い切り。タダで作って定価で売るなんて、こんなにオイシイ商売はない。既得権を手放したくないだけではないか」。

あるいは、別の視点から次のような指摘もある。「TBSは毎年、マスターズを放送するため、莫大な放映権料を支払っているはず。マスターズに限らず、プロスポーツは放映権を販売することによって収益を上げ、その収益を原資にして大会や競技のさらなる発展を目指すのは世界の常識。女子ゴルフでそれを認めないのはおかしい」。

女子ゴルフの放映権問題におけるLPGAとテレビ局の対立の構図は、子どもが親離れしようとしているのに、親が引き留めているように見えてならない。「今まで面倒を見てくださってありがとうございます。これからは自分でお金が稼げるように頑張ってみます」と独り立ちしようとしている子どもに対して、「どれだけ世話をしてやったと思っているんだ。勝手なことを言い出すんじゃない」と引き留める親。でも、それは本当に子どもの将来(LPGAの発展)につながるのだろうか。

ゴルフファンとしては、選手たちの白熱の戦いがリアルタイムで見られるのであれば、テレビではなくインターネットでも有料のストリーミング配信サービスでも一向に構わない。

【参考】2019年日本女子ツアー39試合のテレビ放送一覧

保井友秀

1974年生まれ。出版社勤務、ゴルフ雑誌編集部勤務を経て、2015年にフリーランスとして活動を始める。2015年から2018年までPGAツアー日本語版サイトの原稿執筆および編集を担当。その他、ゴルフ雑誌や経済誌などで連載記事を執筆している。