ところがフタを開けてみると、初日2アンダー11位タイとまずまずのスタートを切ったウッズは、2日目に4アンダー68をマークし、首位と1打差の通算6アンダー6位タイに浮上。3日目も5アンダー67とスコアを伸ばし、首位と2打差の通算11アンダー2位タイで最終日を迎えることになった。

しかも、本来であれば最終組の1組前でプレーするはずだったウッズは、午後からの雷雨予報により3サムの2ウェイ(3人1組で1番ホールと10番ホールから同時スタート)という特殊な措置が取られたことにより、首位のフランチェスコ・モリナリ、2位タイのトニー・フィナウと同組で最終組に入る幸運にも恵まれた。

最終ラウンドはモリナリが中盤までリードを守っていたが、12番パー3のティショットを池に打ち込んでダブルボギー。このホールをパーとしたウッズが並んだ。そして、15番パー5でウッズが2オンに成功したのに対し、モリナリは第3打をまたもや池に打ち込んでダブルボギー。優勝争いから脱落した。

ウッズは後続に2打差をつけて最終ホールを迎え、18番パー4はボギーとしたものの、ツアー通算81勝目、メジャー通算15勝目を手にした。

この勝利により、止まっていたウッズの時間が再び動き出した。ツアー通算勝利数はサム・スニードの82勝まであと1勝に迫った。メジャー通算勝利数も、ジャック・ニクラウスの18勝を追いかけるスイッチが再起動した。

そうなると、日本のゴルフファンにとって気になるのは、2019年10月に開催される「ZOZO CHAMPIONSHIP」にウッズが出るかどうかだ。今のところ、ウッズは出るとも出ないとも明言していないが、現実的に考えると出場する可能性は低いと言わざるを得ない。

PGAツアーが日本で開催されるのは今回が初めてだが、ウッズは過去に日本ツアーに5回出場している。初出場は1998年11月の「カシオワールドオープン」(15位タイ)。その後、2002年11月の「ダンロップフェニックス」(8位)に出場した後、2004~2006年は「ダンロップフェニックス」に3年連続出場。2004年と2005年に大会連覇を果たした。2006年はプレーオフでパドレイグ・ハリントンに敗退して2位に終わったものの、圧倒的な実力を見せつけた。

また、2001年11月には日本で開催された国別対抗戦「WGC-EMCワールドカップ」にデビッド・デュバルとのコンビで出場。このときもプレーオフで敗退したものの、太平洋クラブ御殿場コースの18番パー5で決めたチップインイーグルは伝説の1打となった。

しかし、2007年以降、ウッズは日本で一度もプレーしていない。その理由は、2008年のヒザの手術や、2009年の不倫スキャンダル、2013年の腰のケガなど、さまざまな要因が挙げられるが、端的に言えば日本でプレーすることの優先順位が下がったということだろう。

ウッズは2009年11月と2010年11月に中国・上海で開催された「WGC-HSBCチャンピオンズ」に出場し、2012年10月にはマレーシアで開催された「CIMBクラシック」にも出場しているが、日本にはスポンサー企業主催のイベントで立ち寄った程度だった。

2019年12月にはオーストラリアで開催される米国選抜と世界選抜の対抗戦「プレジデンツカップ」の米国選抜主将を務めることが決まっており、3カ月の間に太平洋を2回渡るかどうかは本人のみぞ知るところだ。

ただ、いくつかの条件が揃えばウッズが出場する可能性が出てくると思う。その条件の1つは、ウッズが日本でプレーすることにメリットを感じることだ。ウッズは「マスターズ」に勝利したことで、世界ランキング6位に浮上した。これにより、東京五輪に出場できる可能性が出てきた。

東京五輪の出場資格は、2020年6月23日時点のオリンピックゴルフランキング上位15位までの選手で、各国最大4名までとなっている。オリンピックゴルフランキングというのは世界ランキングを基に算出されており、2019年4月14日時点の世界ランキングは、1位ダスティン・ジョンソン(米国)、2位ジャスティン・ローズ(イングランド)、3位ブルックス・ケプカ(米国)、4位ロリー・マキロイ(北アイルランド)、5位ジャスティン・トーマス(米国)。6位のウッズは米国の4番目となり、出場圏内に食い込んできた。

ウッズが五輪出場に意欲を見せるのであれば、事前にコースを下見する可能性が極めて高い。なぜならば、ウッズは特定のコースで圧倒的な勝利数を積み重ねてきた選手だからだ。

「マスターズ」が開催されるオーガスタナショナルゴルフクラブはウッズが得意なコースで、今回の勝利が5度目。このほか「アーノルド・パーマーインビテーショナル」が開催されるベイヒルクラブ&ロッジで8勝、「ブリヂストンインビテーション」が開催されてきたファイアストーン・カントリークラブで8勝、「ファーマーズインシュランスオープン」が開催されるトーリーパインズゴルフクラブで8勝を挙げている(このコースで開催された2008年全米オープンを含む)。

ウッズが得意なコースははっきりしていて、ティショットを曲げてもリカバリーしやすいコースだ。そういった意味では、東京五輪開催コースの霞ヶ関カンツリー倶楽部・東コースがウッズに向いているかどうかは未知数だが、それは本人がコースを見て判断するだろう。

「ZOZO CHAMPIONSHIP」に出場してから五輪開催コースを下見し、勝機があると見れば出場資格を全力で取りに行くというプランをウッズが思い描いてくれれば、来日の可能性が出てくる。

もし五輪開催コースを下見する可能性があるのであれば、誰かとのマッチプレーイベントを企画したら面白いと思う。ウッズは2018年11月にラスベガスでフィル・ミケルソンとの900万ドル(約10億円)マッチを戦って敗れた。そのリベンジを日本で果たすというのでもいいし、日本のエース松山英樹と対決するという企画であれば、ゴルフファンは大注目するだろう。

ウッズの「マスターズ」勝利により、「ZOZO CHAMPIONSHIP」でウッズが見られるかもしれないという新たな楽しみが出てきた。


保井友秀

1974年生まれ。出版社勤務、ゴルフ雑誌編集部勤務を経て、2015年にフリーランスとして活動を始める。2015年から2018年までPGAツアー日本語版サイトの原稿執筆および編集を担当。その他、ゴルフ雑誌や経済誌などで連載記事を執筆している。