■選手が文句を言わないわけ。

その場にいた選手の1人は坂手淳史。時間が経ってから、当時の心境をこう説明する。

「それで僕らが落ち込むのも違うと思うので、『まずは今季、いいプレーをしました』という話をしました」

事実、3月22日の正式発表後、取材に応じた大半の選手が「スーパーラグビーから除外されることは、我々のコントロールできることではない」と話すこととなる。そう。あの日に決めたのだ。個人的な感情よりも、プロスポーツクラブの一員としての総意を述べるのだと。もちろん選手の前向きな姿勢は、過去の失策を清算していい理由にはならない。

ワールドカップ日本大会開幕を間近に控えた2019年春。日本のラグビー界には電撃的なニュースが重なった。ひとつはサンウルブズの2020年限りでのスーパーラグビー脱退。もうひとつは総理経験もある森喜朗名誉会長の退任だ。それぞれの意味するところは何か。また、今後の日本ラグビー界はどう進んでゆくのか。

■生まれた溝

サンウルブズのスーパーラグビー除籍を振り返るにはまず、時計の針を参入決定前に戻さなくてはならない。

統治機関の日本ラグビー協会(日本協会)が2016年から2020年までの参戦権を勝ち取ったのは、2014年だった。当時の男子15人制日本代表を引っ張っていた岩渕健輔ゼネラルマネージャー、エディー・ジョーンズヘッドコーチは、2016年以降の代表強化には国際舞台への継続的なコミットが不可欠と判断。スーパーラグビーが最適なツールになると考えていた。

時の矢部達三専務理事が岩渕の意向に沿ったのに対し、日本協会全体の足並みは乱れたままだった。ワールドカップの日本招致成功などで強い影響力を持つ森名誉会長は、後に自身の著書でサンウルブズへの否定的な見方を表明。チームができあがった2016年、スーパーラグビー参戦に尽力した矢部は、この頃副会長を務めていた日本協会を辞めた。2015年発足のJSRと日本協会との間には、見えない溝が生じていた。

その溝は、強化にも少なからぬ影響を与える。サンウルブズは過去2シーズン、ナショナルチームと戦術、スタッフ、選手の多くを共有してジェイミー・ジョセフ率いる現日本代表をバックアップ。しかし、日本代表の強化委員がサンウルブズを視察する回数は徐々に減っていた。

■「結局は日本協会が消極的だった」という指摘

少なくとも現場レベルでの溝を解消すべく、ジョセフと親交の深い藤井雄一郎氏が2018年からサンウルブズに入閣。ワールドカップイヤーは日本代表の強化副委員長というポストに就き、目下進行中のふたつのチーム(ひとつは多くの代表候補が集まるラグビーワールドカップトレーニングスコッド<RWCTS=試合をする際はウルフパックと命名>のキャンプ、もうひとつはRWCTSの一部が加わるサンウルブズ)による代表強化をチェック。海外出身者を軸に据えたサンウルブズは今季、強豪のチーフスやワラターズを敵地で下し通算勝利数を8に積み上げた。

もっともグラウンド外での溝は、いまなお埋まらぬままに映る。

スーパーラグビーを統括するサンザーは、2021年以降のリーグ構想を「14チームの総当たり戦」に固める。削減対象のサンウルブズが参加継続を望む場合は、「14チーム化によって得られる予定だった放映権料の積み増し分」「サンウルブズ戦で生じる各クラブの渡航費」という新たな参加費を支払うよう命じた。金額は推定10億円とも言われる。

3月22日、JSRをサポートするのが役割だった日本協会の坂本典幸専務理事は「(条件は)のめない」とするも、「もともと(他クラブが得ていた)放映権料も受け取っておりませんし」「もともと特殊な事情で(スーパーラグビーへ)参戦していたとご理解いただく必要がある」という説明には当事者意識が抜け落ちているような。いまのサンウルブズが放映権料を受け取っていないのは、他国との参戦権争いを制するために当時の日本側が申し出たためだ。

翌23日、日本協会の臨時理事会が開催されるや議論は紛糾する。このような重要案件が過去の理事会で議論されていなかったため、「一部の幹部による密室政治では」との疑いが強まっていた。

なお、サンザーがJSRや日本協会へ参加費を求めた時期については異なる意見が飛び交う。サンザー側は「参加費の件は2018年夏には通告済み」と声明を出したが、渡瀬CEOは記者の問いかけに頷く形で「言われたのはそう(通告を受けたのは数週間前)」とした。サンザー側の主張が違うと問われても、「放映権を高く売りたいねという話はありましたけど…」と首を横に振った。

日本協会もJSRも、これまでサンザーとは密に連携を取ってきたとする。もしそうであれば、「数週間前」に法外な金銭を要求されることなどあるのだろうか。

JSR側の渡瀬CEOは、これまでもサンザーに日本企業を紹介するなどしてスーパーラグビーへの貢献を誓っていた。しかし、こうも続ける。

「サンザーも、最後まで(条件を)言わなかったですからね。それをこちらが聞き出して、確認して…というところです。サンザーの事務方とはいまも連携を取っていますが、サンザーのステークホルダーは(参加するチームの国の)協会。実際に(2021年以降についてなどの)交渉をするのは協会のCEOです」

サンウルブズの参戦継続を願っていたJSRの関係者は、ため息交じりに言う。

「今回のことは、サンザーの条件を引き出せなかったこちらの交渉力の不足、そもそも日本協会の消極的な姿勢が招いたことです」

■森名誉会長は「かっこよかった」?

ガバナンスの問題が表面化するさなか、さらに周りを驚かせたのは森名誉会長の電撃辞任だった。森名誉会長は4月17日、普段は参加しない都内での定例理事会にアポなしで出席。会が進行するさなかの来訪である。「行くから」との電話を受け取った理事は、部屋を慌てて飛び出し出迎えの態勢を整えたものだ。

坂本専務理事ら複数の出席者によれば、森会長は大筋の議論を終えたあたりで「まず、関係ない人は出て行ってください」。ワールドカップイヤーが盛り上がりに欠いている点について幹部を叱責し、自らも名誉会長を辞めると言った。今年6月に予定される役員改選で、若返りを促すよう働きかけた。

昨今の「密室政治」に疑義を唱える上席は、その様子を「かっこよかったと思う」と見上げた。出席者の渡瀬CEOは、「関係ない人は…」の声に応じて退室。繰り返せば、森名誉会長はかねてサンウルブズの運営には不明瞭な理由で反対していた。

散会後、森名誉会長は報道陣の問いかけに応じず、黒塗りの車に乗った。現職の辞任後も、坂本専務理事曰く「(森名誉会長は)役職に関係なくラグビーはお手伝いしたいとのこと」。報道陣に「正直なところ、森さんが何か仰ってそこはダメですとは言えない。察してください」と語る幹部もいた。今後、本当に権力構造が変わるかどうかは不確実だ。

■2019年以降、何が決まっている?

ワールドカップ日本大会へは、それこそ現場が「自分たちのコントロールできること」に集中して臨むだろう。ただし、2021年以降に大きな強化の機会を失うのは確かだ。

その頃サンウルブズが存続しているかは未定。日本協会が頼る「ネーションズ選手権(各国代表の対抗戦)」新設への話し合いも、欧州勢が意義を申し立てており平行線をたどる。

国内トップリーグも2021年にトップリーグネクストという計画のもと再編される見通しだが、ここでスーパーラグビー並みの試合強度を望むのは難しい。

4月25日の代表者会議では、国内上位24チームを3分割して接戦を増やしたいと提案した様子だ。予定より約15分以上は長かった会議を終えると、河野一郎・日本協会副会長、太田治・トップリーグ部長が会見。8月の正式決定を目指すと話した。

ここでは一部の上位チームをフランスのプロリーグのチームなどと試合をさせたいとも語ったが、試合数やその試合の真剣度合い、そもそも実現されるかは未知数だ。会見を終えた2人は、トップリーグネクストがスーパーラグビー並みの国際競争力を保てるのかという趣旨で聞かれて「それはそもそも別の話じゃないですか」「まぁ、まぁ、そういうところです」と言葉を濁した。

現日本代表の裏方のひとりは、今季のスーパーラグビー開幕前の時点で「日本協会は、日本代表が縮小してもいいというのか。若手育成も、外国人のこと(海外出身者の代表資格取得条件が変わることへの対応)も何も考えていないに等しい」と危機感を抱く。

日本協会内部には、若手育成部門やトップリーグ部門で建設的な取り組みをする若手も複数いる。それでも先行きが不透明に映るとしたら、意思決定者のグループが霧に包まれているからではないか。

向風見也

著者プロフィール 向風見也

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年にスポーツライターとなり主にラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「Yahoo! news」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。