日本代表は1999年パラグアイ大会以来、20年ぶりに招待国として出場し、多くの日本メディアも地球の裏側まで取材へ赴いたわけだが、現地に行く前から振り回された。まず、取材申請のページで英語を選択したにも関わらず、必要事項を記入する欄に進むと説明が全てポルトガル語で一苦労。サッカーの場合、取材する試合ごとにメディア用のチケットも申請する必要があるのだが、南米サッカー連盟の担当者からこの案内のメールが届いたのは一部だけだったのだ。ほとんどのメディアは、締め切り直前になってこれを伝え聞き、大慌てした。今年1月にアラブ首長国連邦(UAE)で開催されたアジア・カップの対応の方が、よほどしっかりしていたと、みんなが嘆くほどだった。

とはいえ、いい面でも、悪い面でも「いい加減」なのがブラジルのお国柄でもある。そこはマニュアルに厳格に従い、融通の利かないロシアとは全く違うところ。直前になって何とかなってしまうのも、ブラジルなのだ。現地では申請とは違うチケットが準備されている手違いもあったが、柔軟に対応してくれた。日本に対してはいつも好意的な国で、ボランティアも気さく。五輪を経験して慣れていた人もいたし、英語の通じる人も増えていた印象だった。観客にとってもメディアにとっても、言葉の通じるボランティアの存在は貴重だと改めて実感した。

ブラジルと言えば劣悪な治安が大きな問題。政権が代わり、さらに悪化したと聞いていた。警備体制は、大会規模の違いもあって、手厚かったW杯、リオ五輪と比べると明らかに劣っていた。国の威信も懸かった過去2度の世界大会では、空港やメディアホテルだけでなく、街中にマシンガンを持った警察官が並び目を光らせていたが、今回は試合会場の周辺に配置されているだけ。強盗や盗難におびえる日本メディアにとっては不安でしかなく、実際に海外メディアを含めカメラの盗難に遭う被害者が出てしまった。海外では各自の防犯意識が問われるが、関税の高いブラジルではカメラは高価で、こうした国際大会が開かれる際には、犯罪者が空港やホテルから後をつけて狙っているというのが、現地の人の見立てだった。

治安の悪さが理由で公共交通機関の利用に抵抗がある中で、現地で重宝したのが「Uber」だ。タクシーの運転手に英語が通じないのは、日本と似ているところ。Uberを使えば、行き先も乗車する場所も地図上で指定できるため、こちらの言葉が本当に通じているのかどうかも分からない運転手とのやり取りを避けられる。料金も事前に表示されるため「ぼったくり」に遭う心配がないのも安心だ。日本の試合はサンパウロ、ポルトアレグレ、ベロオリゾンテの3都市で行われたが、どの都市でも待ち時間が少なく活用することができた。日本でもUberと提携したタクシー会社の配車サービスが始まっているが、これは東京五輪に向けて大いに参考となる事例だった。

日本戦を含めて、大会序盤は観客の不入りも話題となった。アジアから招待出場となった日本やカタールの試合に南米の人が関心を示さなかったのも一因だが、広域開催となった上に、その都市の郊外に立地するスタジアムもあり、交通アクセスの不便さも影響したのだろう。警備上、試合当日はスタジアム周辺が規制され、タクシーなどでは近づけないのだが、今回はW杯の時とは違って、スタジアム近くまで直行するバスなどの案内表示も見られなかった。東京五輪でも自転車競技が行われる静岡県の伊豆ベロドロームや、埼玉県にあるゴルフ会場の霞ケ関カンツリー倶楽部も、都心から遠く離れている。観客に快適なアクセスを確保することも、五輪成功に向けたカギの一つになるだろう。

日本には時間通りに運行される交通機関があり、街も清潔。海外では、日本より快適なトイレに出会ったことがない。初めて訪れる外国人は驚くに違いない。治安も海外に比べれば、はるかにいい。夜だけでなく昼間でも外出をためらうブラジルでの滞在は、ストレスだった。だが日本の夜には、女性一人でもレストランや買い物を求めて気軽に出歩ける安心さがある。環境面での不安は少なく、課題を残すのは通勤ラッシュと渋滞と猛暑対策だろう。

これまで日本で開催された各競技の国際大会を振り返っても、きめ細やかな運営能力は各国のものを上回る。トラブル続出だったリオ五輪の際には、海外メディアから「次は東京だから大丈夫だろう」という声が聞かれたように、期待は高い。来年は日本が世界に誓った「おもてなし」の心を、世界に示す舞台になると確信できるブラジルでの時間だった。


VictorySportsNews編集部