「ワールドレディスチャンピオンシップ サロンパスカップ」(5月9日~5月12日)と「資生堂 アネッサ レディスオープン」(7月4日~7月7日)で今季2勝を挙げていた渋野日向子が、「AIG全英女子オープン」(8月1日~8月4日)で海外メジャーに初参戦すると、世界の舞台でも堂々とした戦いぶりでメジャー制覇。

日本人女子選手では、1977年「全米女子プロゴルフ選手権」で勝利した樋口久子以来となる42年ぶりの快挙となり、月曜日の早朝から日本中のゴルフファンが歓喜に沸いた。

「ワールドレディスチャンピオンシップ サロンパスカップ」に勝利するまで、岡山県出身の20歳、1998年11月15日生まれのヒロインを知っているゴルフファンのほうが少なかったはずだ。

渋野は黄金世代の代表格である勝みなみらとともに2017年のプロテストを初受験したが、3日間通算14オーバー97位タイで最終ラウンドに進出することができず涙を飲んだ。
2018年に2度目のプロテスト受験で、4日間通算10アンダー14位タイで合格を果たしたが、同世代の中では決して目立つ存在ではなかった。

2019年シーズンの出場権を懸けたファイナルクォリファイングトーナメント(QT)でも、4日間通算イーブンパー40位。開幕戦の「ダイキンオーキッドレディスゴルフトーナメント」(3月7日~3月10日)の出場権は得られず、第2戦の「ヨコハマタイヤゴルフトーナメント PRGRレディスカップ」(3月15日~3月17日)からの参戦となった。
この試合で通算3アンダー6位タイと勢いに乗ると、「フジサンケイレディスクラシック」(4月26日~4月28日)でも通算6アンダー2位タイに入り、中盤戦以降の出場権を確定させた。

そして公式戦の「ワールドレディスチャンピオンシップ サロンパスカップ」でツアー初優勝を達成し、その名を一躍ゴルフファンに知らしめたが、この時点でも渋野が海外メジャーで勝利するとは誰も予想していなかっただろう。

「AIG全英女子オープン」に出場した日本人選手は、上田桃子、上原彩子、勝みなみ、渋野日向子、鈴木愛、畑岡奈紗、比嘉真美子、安田祐香、横峯さくらの9人。
この中で優勝の期待が最も高かったのは、世界ランキング最上位(9位)の畑岡。次に期待が高かったのは、前年に優勝争いした比嘉や、日本ツアーのエース格である鈴木だった。
ところが、この3人がいずれも予選落ちを喫し、それ以外の6人が決勝ラウンドに進出。しかも渋野は首位と3打差の通算9アンダー2位と好位置で折り返した。

そして3日目に通算14アンダー単独首位に浮上し、最終日の前半9ホールで逆転を許しながらも、後半9ホールで再逆転を果たして頂点に上り詰めた。

つい最近まで、日本ツアーからのスポット参戦では海外メジャー制覇は難しいのではないかと言われていた。日本と海外では芝質やコースセッティングが異なるので、慣れが必要だという見方が一般的だった。
そのため、宮里藍は2006年から米ツアーに主戦場を移し、上田桃子、大山志保、宮里美香らも続いた。だが、宮里藍は「全米女子プロゴルフ選手権」3位タイ(2006年、2010年)、「全英リコー女子オープン」3位タイ(2009年)などの成績を残したが、メジャー勝利には手が届かなかった。

ところが近年、米ツアーを拠点にしているかどうかに関わらず、日本人選手の海外メジャーでの活躍が目立っていた。

2018年は「ANAインスピレーション」で上原が優勝争いに加わり8位タイ。「KPMG女子PGA選手権」では畑岡がプレーオフで敗れたものの2位タイ。「全英リコー女子オープン」では比嘉が優勝争いに加わって4位タイ。
2019年は「全米女子オープン」で比嘉が首位と1打差で最終日を迎えて5位タイ。そして渋野が「AIG全英女子オープン」で快挙達成につなげた。

その大きな要因になっていると思われるのが、日本ツアーで4日間競技が増え、コースセッティングのバリエーションも多彩になっていることだ。

2011年に日本女子プロゴルフ協会の会長に就任した小林浩美は、「世界で勝つ」ことを目標にツアー強化に向けた取り組みを始めた。当時は多くの試合が3日間競技だったが、小林会長が世界標準の4日間競技を推奨し、2019年は39試合中14試合が4日間競技になった。渋野が今季2勝を挙げた試合がいずれも4日間競技なのは、決して偶然ではないだろう。

また、コースセッティングに関しても、欧米のトーナメントでも通用するようにバリエーションをつけている。
これらの取り組みにより、日本ツアーで戦っている選手が海外メジャーへスポット参戦しても、十分に対応できるようになったのだ。

渋野の活躍はもちろん、渋野自身の実力と努力の賜物であることは間違いないが、今回のようなシンデレラストーリーが生まれる環境を地道に作ってきたツアー関係者にも拍手を送りたい。


保井友秀

1974年生まれ。出版社勤務、ゴルフ雑誌編集部勤務を経て、2015年にフリーランスとして活動を始める。2015年から2018年までPGAツアー日本語版サイトの原稿執筆および編集を担当。その他、ゴルフ雑誌や経済誌などで連載記事を執筆している。